壊れてしまえ
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店内に、男の濁った声が響き渡った。手には半額シールの貼られた惣菜パックが握られている。周囲の客は皆、関わり合いを避けるように視線を逸らし、レジの列から音もなく離れていく。
私の目の前では、若い女性店員が真っ青な顔で立ち尽くしていた。彼女の指先は小刻みに震え、今にも泣き出しそうだ。男はそれを楽しむかのように、さらに一歩距離を詰め、ねっとりとした言葉を叩きつける。
「責任者を出せ。誠意ってのは言葉だけじゃ伝わらないんだよ。わかるよなあ?」
その「誠意」という言葉の裏に透けて見える卑しい欲望が、店内の空気をどろりと濁らせていく。
私はただ、レジ袋を握りしめ、その光景を傍観することしかできなかった。正義感よりも先に、関われば自分もこの泥沼に引きずり込まれるという本能的な拒絶が勝ったのだ。
結局、その場は店長が平謝りすることで収まった。客は勝ち誇ったような薄笑いを浮かべて店を後にした。
しかし、物語はそこでは終わらなかった。
店を出てすぐの横断歩道。先ほどの客が、信号を無視して突っ込んできた自転車に激しく罵声を浴びせているのが見えた。
その声はスーパーの中よりもさらに一段階高く、鋭い。
だが、自転車に乗っていた若者もまた、同じ種類の「闇」を抱えていたらしい。
若者は自転車を止めると、無言で客の胸ぐらを掴んだ。言葉のない、純粋な暴力の予感。
客の顔から先ほどの余裕が消え、醜い恐怖が張り付く。
殺。