共同生活
奇妙な共同生活が始まって1ヶ月が経過した。
最初は戸惑いながらも仲良くやっていけるかと思っていたものの、次第にお互いの生活習慣の違いにより些細な衝突が起き始めていた。
このようなイビツな境遇は大きな歪みを生じさせていた。
それでもなお、彼女達は「自分達が家族である」という強固な信念の元、この共同生活を続けていた。
しかし、彼女達の仲がますます悪くなってく一方だった。接し方が変わり、お互いを避けるようになっている。
「私達は家族なのだから、仲良くしなければならない」という気持ちが強くなっていくほどに彼女達の関係は冷え切っていく。それは、もう修復不可能なところまで来ていた。
ある日の朝、彼女達は言い争いを始めた。
「最近、私達を邪魔者扱いしているよな」
「私達は家族なのに、どうして協調しないんだよ!」
激しい口論の末、彼女達はお互いに背を向けた。そして、それぞれの部屋に閉じこもったのである。
それぞれ部屋に閉じこもったから、争いが終わるということもなく、寧ろ彼女達はお互いに鬱憤が溜まって行きつつあった。
なぜなら、一人は部屋に篭って、ギターの演奏をし始めるし、もう一人は大音量で動画を見始めているし、さらにもう一人は、大きな声で歌い出すしで、それぞれがそれぞれに煩く感じて、イライラしていたのである。
彼女たちの苛立ちが頂点に達した瞬間、住居の管理AI「マザー」が冷徹な警告音を鳴らした。
この居住ユニットにおいて、精神汚染指数が規定値を超えたのだ。壁のスピーカーから、無機質な声が響く。
「個体間の不調和を確認。家族定義維持プロトコルを起動します」
次の瞬間、7人の脳内に埋め込まれたナノチップが強制駆動した。
ギターを弾いていた手も、歌っていた口も、動画を見ていた瞳も、自分の意思に反してピタリと止まる。
彼女たちはリビングへと歩かされた。糸で引かれる操り人形のようにソファに座らされ、無理やり笑顔を作らされる。
「私たちは、家族…」
彼女達は、感情を一切なくしていた。その姿は、まるでアンドロイドのようだった。その姿を映像で見ていた人物が口を開いていた。
「やれやれ……また、争いが始まってしまったか。夫婦喧嘩や兄弟喧嘩を見て辛い日々を過ごしてきた経験から、こんな共同生活を初めてみたが、なかなか上手くいかないな……」
映像を見ていたのは、二人の男女の研究員だった。彼らは、お互いに辛い経験を過ごしてきたことから意気投合をして、不思議な共同生活する研究実験をしていた。
研究員が見つめる画面の中、
ソファーに座った被験者は互いの長所を見つけ出して褒め合い、
自分の短所を懺悔して許しをこう。
涙を流しながらハグをしながらキスをして
「私たちは、家族…私達は家族…」と繰り返す。
家族が力を合わせて困難を乗り越えて幸せになる感動的な映画を見ながら、
キレイに均等に分けられたケーキを美味しそうに分かち合う。
「素晴らしい!素晴らしいですね!これこそ、家族!完璧な家族!そうは思いませんか?」
興奮して男性研究員が大声をあげるのを、冷めた視線で見つめる女性研究員。
「コレは君の作ったプログラムによるモノだ…何の意味もない」
「そんな事はない!愛を知れば、愛によって行動できるようになる。
愛を注げば愛は与えられる。父も母も…私に間違った愛を教えた!
だから死んだ!だが、そのおかげで私は答えを得たのだ!」
虐待を親の愛と考え、その愛を返した男性研究員の歪んだ愛のカタチに、
女性研究員は ため息をつく。
(やれやれ…また始まったか。分かり合える所もあるが、
愛のカタチについては認識に誤差がある気がするな)
眼鏡をクイクイっと直しながら、女性研究員は被験者の精神パラメーターを観察する。
ストレス値がかなり高い。
「おい、そろそろ各部屋に帰還させて就寝させろ。
あまりストレス値が高いと、アタシが作った睡眠学習プログラムの効果が薄れる」
「おお!そうだな、そうだな!悪い悪い!愛のドリーム・ランドを開園させねばな!」
彼がボタンをポチっと押すと被験者達は整然と各自の住処へと帰って寝床に入る。
枕から脳内に埋め込まれたナノチップへ信号が送られ、
さっきの経験を再度 夢として復習しながら各自に合わせた愛の夢が構築されて
大脳新皮質に強固な愛の記憶として焼き付けられていく。
(さあ、明日から どうなるかな?良い結果が得られるのがベストだが…。
もし、そうでないなら…プランBを実行する必要があるかもしれない)
あまりにも非人道的な実験…。
だが成功すれば犬猿どころか、
互いを蛇蝎(だかつ)のように憎み合って相手とも家族になれる方法が見つかるのだ。
(絶対に成功させる。本当の愛をアタシは製造すんだ!)
その目には、男性研究員とは違った狂気が宿っていた…。