石を掘る

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  • ホラー
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  • 性的描写有り
  • 楽しんだもの勝ち
  • 歴史・時代
  • ファンタジー
1人目

陽は天頂にあり、風は止んでいた。
空は青というより、白に近かった。焼けるような光が大地に突き刺さり、岩を舐め、裸の皮膚を焦がした。
男は、ほとんど裸だった。
身体を覆うものは、腰に巻いた小さな毛皮だけ。それもかろうじて男の性を隠す程度の布きれに過ぎない。
日に灼け、筋肉の線を浮き立たせたその身体は、彫像のようだった。余分な肉はどこにもなく、胸板は広く、腹筋は岩のように割れていた。
汗が滝のように流れ、首から背、尻の割れ目へと滴っていく。
それを気にも留めず、男は岩と向き合っていた。自分が誰なのか、彼は知らない。
なぜここにいるのか、何を彫っているのかも。
だが手だけは迷わなかった。石のかたちを見れば、どこを削るべきかが分かる。

それが唯一、彼にとって確かなことだった。

2人目

男は、石のかたちを見て、削り始めていた。男には、何が見えているのか、何が聞こえているのが、わからないが、時折、無意識に独り言をブツブツ言っていた。しかし、確実に手は止まることなく進んでいた。

そして・・・
「カツンッ!!」と音がして、削り終えた時には、見事な彫像のような作品が出来上がっていた。

3人目

出来上がったのは、巨大な「拳」の像だった。 天を突き上げるようなその拳は、過酷な太陽を拒絶し、運命を殴りつけるような力強さに満ちていた。
「見事な拳だ。だが、それは何かを掴むためのものか? それとも拒むためのものか?」
背後から響いた声に、男はゆっくりと振り向いた。そこには、ボロ布を纏った老人が一人、杖を突いて立っていた。
老人は男の完璧な肉体と、荒々しい彫像を交互に眺め、深く頷いた。
「お前は名も、過去も捨てた。ただ、その体の中に眠る衝動だけを石に刻んだ。この拳は、お前自身だ」
男は言葉を発しなかった。

4人目

「言葉にはできぬか…。ならば、その肉体に聞くべきか?」
ゆっくりと杖を突きながら老人が男に歩み寄って行く。
2人の距離は、どんどんと縮まり…老人は男の横を抜けて彫像に触れる。
像を撫でながら老人は男を見つめる。その瞳の奥に宿るのは、一体 何なのか?
「こうやって近くで見れば…腕を上げたのう…。見事なできだ…。
懐かしいのう…。お前は覚えてはおるまい。アレは今を遡る事 10年前の事だ…」
遥か遠い過去へと老人の意識は跳躍する。
男は椅子を引き寄せて座り、捨て去った かつての自分の叙事詩(じょじし)に耳を傾けた。

5人目

「あの時、お前はこの拳で山を穿ち、天を裂こうとした。己の器の小ささを嘆き、記憶を、名前を、そして自らの誇りさえもこの荒野に埋めたのだ」
老人の指が、彫像の拳を愛おしそうになぞる。 「だが、石は嘘をつかん。お前の内側に眠る荒ぶる魂は、いまだ死んではおらん。むしろこの静寂の中で研ぎ澄まされ、完成の時を待っていたのだ」
老人はふっと口角を上げた。
「時は来た。もはや、この着衣も不要よ」
老人は纏っていた汚れたボロ布を、無造作に脱ぎ捨てた。 布の下から現れたのは、老人とは思えぬほど鋼のように引き締まった裸体だった。「さあ、始めようか。お前の『完成』を、わしが直々に確かめてやろう」