プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:21

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1人目

「Prologue」

【エターナルベース/自由の意味編】

 エターナルベースでは、次元不安定化に備えた資材回収と
MSパイロット再訓練が進められていた。
ジュドー、ガロード、三日月は訓練ドームで模擬戦に臨み、
それぞれプル&プルツー、ウィッツ&ロアビィ、昭弘と激突する。
模擬戦ながら全力の戦いは、彼らが最前線で生き抜いてきた証そのものだった。

 訓練後、三日月は「ここで留まる意味」を問い、鉄華団としての在り方に迷いを見せる。一方ガロードは、ティファとの穏やかな時間の中で戦う理由を再確認する。
その頃、広場では強化人間の少女ドゥー・ムラサメが、プルとプルツーと語らっていた。
かつて“部品”として扱われてきたドゥーは、戦わなくても咎められないこの場所で初めて「自由」を知る。

 プルは「生きているだけでいい」と語り、プルツーもまた、
強化された自分を否定しなくていいと気づく。エターナルベースは、
戦うために生まれた者たちに、戦わずに生きる未来を示す場所となっていた。

【超越者査定編】

 界王神界、神域にすら干渉するその気配は、破壊神ビルスが超越者たちと共に
地球へ向かっていることを示していた。
老界王神は、破壊神の行動が「宇宙の均衡そのものの査定」であり、
下手な介入は破滅を招くと判断する。

 同時刻、神浜市では魔女結界が異常活性化。魔女や使い魔は通常より過剰に増殖し、
明日香・れん・こころ・まさらの魔法少女たちは「魔女が何かを恐れている」
異常な兆候を感じ取る。連携攻撃によって魔女を討伐するが、
これは街に迫る“より大きな存在”の前触れに過ぎなかった。

 やがて、破壊神ビルス一行(ウイス、ゼルレッチ、オーマジオウ人間態、トランクス)が
地球・神浜市へ降臨。暗黒魔界が“死に始めている”こと、神精樹の存在が
均衡を崩している可能性を確認し、世界の査定を開始する。

 その最初の査定の場となったのが、偶然立ち寄った中華料理店「万々歳」。
由比鶴乃の作る「突出しないが毎日食べられる50点の味」を、
ビルスとウイスは“均衡を保つ象徴”として高く評価する。ゼルレッチとオーマジオウも、
人の営みが続く価値を認め、ひとまずは第一査定を合格する。

 しかしこれは猶予に過ぎない。神々は、英雄たちが戦う「戦争の行方」ではなく、
世界そのものが生きるに値するかを見極めに来ていた。
破壊と創造の境界で、全ての歯車はすでに回り始めている。

【特異点編】

 特異点リビルド・ベースにて、ペルフェクタリアは
カルデア屈指の武人・李書文と邂逅する。
互いの拳に宿る理を確かめ合うように始まった手合わせは、勝敗を競うものではなく、
「拳とは何か」「生き様とは何か」を問う、魂同士の対話へと昇華していく。

 李書文の極みに触れたペルは、
“殺す拳”とは単なる破壊ではなく、「己を活かすための術」であることを学ぶ。
未だ至らずとも、確かな一歩を踏み出したペルは、武の道を進む決意を新たにする。

 一方、夜の森で独り迷いを抱える退魔師・日向月美。父の影を斬った過去と、
その痛みは未だ彼女の心に残っていた。

 そこへ現れたエリセとの手合わせ、そして鬼一法眼、玉藻の前、牛若丸との邂逅を
通じて、月美は「迷いは弱さではなく、力の一部」であることを知る。

 牛若丸との稽古の中で、
“斬らずに収める剣”“光と影をあるべき場所へ戻す退魔”という新たな境地に辿り着き、
月美は恐れや迷いを否定せず、抱いたまま進む覚悟を固める。

 カルデア司令室では、ダ・ヴィンチの分析により、
次なる戦場がエタニティ・コア遺跡であることが示される。

 多くの英雄たちはリ・ユニオン・スクエアへ向かうが、
ペルと月美は特異点に残る決断を下す。理由はただ一つ――
ペルにとって最も大切な存在、平坂たりあの手がかりが、藤丸立香の知る夢の中に
あるからだった。

 前線へ向かう仲間たちと、後方を守る者たち。
それぞれが「守るもの」を胸に、別々の戦場へ進んでいく。

【第二次エタニティ・コア 序章編】

 特異点リビルド・ベースと、メサイア教団の空中要塞ユートピア・アイランド――
二つの戦線を越え、戦士たちがトゥアハー・デ・ダナンに集結する。
介人とソウゴは再会を果たし、宗介・かなめもまた、海上に“新たな大陸”と化した
ユートピア・アイランドの残骸を目にして、留守中に起きた事件の規模を痛感する。
クルツやマオら、後方で奮闘していた者たちも合流し、束の間の帰還ムードが流れる。

 だが、ブリーフィングでテッサが告げたのは、さらに深刻な現実だった。
ユートピア攻略と同時期、TPU本部周辺にムゲ帝国の兵器・戦艦が突如出現し
再侵攻を開始。さらに戦闘の最中、謎の集団ライラーがナースデッセイ号へ内部侵入し、
トキオカ・リュウイチ隊長が拉致されたという。敵は単独ではない。
ミケーネ帝国、暗黒魔界、メサイア教団――それぞれが別勢力でありながら、
結果として同じ方向へ噛み合うように動いている。
テッサは、これが偶然ではなく、“複数の脅威を束ねる何者か”の存在を示唆する。

 外では警戒灯が回り、嵐が終わらないどころか増していく気配が漂う。
甲板では悟飯とクリリンが、閉ざされた暗黒魔界航路の揺らぎを見つめ、
悟空たちの帰還を信じて待つ。いろは・やちよ・承太郎もまた、ペルと月美が
特異点に残った決断を知り、各々が“今できることをやるしかない”と覚悟を固める。

 そこへ葉月考太郎博士(長官)から連絡が入り、エタニティ・コア遺跡周辺の警備が
秘密裏に強化されていた事実が明かされる。しかし直後、未確認勢力が遺跡へ接近。
ついに戦端が開かれ、ミケーネの戦闘獣軍団、ジオン族、竜王軍らが
エタニティ・コア強奪へと押し寄せる。

 その瞬間、遺跡を貫く巨大砲撃――超獣機神ダンクーガが復活し、
敵陣を薙ぎ払って戦線に割り込む。操るは獣戦機隊。
彼らはトップシークレットで復元を進めており、完全ではないながらも、
“ムゲ帝国が動いたなら黙っていられない”と出撃していた。
獣戦機隊の野性と闘志は、落ち込んでいたマナカ・ケンゴの心にも再び火を灯し、
彼はトキオカ隊長奪還を誓う。

 ダンクーガ参戦に呼応し、ゲッターチームも闘志を燃やし、ゼンカイジャーや
マジンガーチームも救援出撃の準備に入る。艦橋では情報整理が加速し、
テッサは「これからの戦いは一つの敵・一つの戦場ではない」と改めて噛み締める。
そして艦は新たな異世界反応――敵増援の兆候を捉え、全面戦闘が避けられない局面へ
突入する。甲児は宣言する。

「待ってろよ、忍さん! マジンガーZが今行くぜ!」

 嵐は終わらない。むしろ、いま――さらに荒びを増していく。

2人目

【災天と昏炎】原文:霧雨さん

 ――――それは運命の裁定か、或いは滅びへの道程か。

 暇を持て余すように待機していた天宮彩香は、
誰に気づかれるまでもなく恐るべきものを感じ取っていた。
破壊神ビルス、天使ウイス、魔道元帥ゼルレッチ、魔王たるオーマジオウ。
アマツミカボシの力が『彼ら』の降臨を予感させていたのだろう。

 超越者の一人である虚数姫カグヤもまた、感じ取っていた。
同胞の降臨を、来たる裁定の時を。

 CROSS HEROESに、裁定が下ろうとしていた――――。

 時を同じくして、霧切は昏いものを未だ抱いたままだった。
一度復讐心にとらわれた脳髄が、それを手放せないように。
かに燃え盛るような劫火は消え去った。だが、復讐の昏炎は毒のように身を侵しながら、
まだ火の粉のように燃えている――――。

 裁定と復讐。
 その果てに彼らは、答えを見出すことはできるだろうか?

【暗黒魔界:撤退編】原文:ゼビウス(カソード)さん

 ターレスの進化は、悟空達の力を遥かに超えていた。
彼の持つサイヤ人の特性と暗黒神精樹によるパワーアップの合わせ技は、
悟空の超サイヤ人3すらも凌駕してしまったのだ。残ったキン肉マンは『火事場のクソ力』を発揮し、応戦。一時は善戦するも、次第に追い詰められていく。
…そこに、謎の力を宿した、意識の無い悟空が戻ってきた。

 古明地こいしが悟空の『無意識』を引き出して露わになったその力は、
今のターレスと見事に渡り合う。先程までの苦戦が嘘の様に、
ターレスの骨身に圧倒的な力を刻み込んだのだ。
だがそのまま勝利を得るかに思われた時、暗黒神精樹から光が昇った。
それは、ドラゴンボールから神龍が呼び出された光だった。
地上から消えていたドラゴンボールは、魔界の者に集められていたのだ。

 そしてドラゴンボールから光が止むと、今度は赤黒くなったドラゴンボールが飛び散り…その一つが、ターレスに埋め込まれる。直後、ターレスの体から力の本流が放たれる。
大地を蹂躙するそれを凌いだキン肉マン達が見たのは、更なる力を得たターレスの姿。
『暗黒戦士』とも呼ぶべきその者は、『神』の領域に片足を踏み入れていた。

 ターレスはその力で、キン肉マン達を一方的に叩きのめす。
先程まで戦いの主導権を握っていた悟空の『無意識』の力にすら、逆に圧倒する程に。
もはや戦いとは呼べない一方的な蹂躙に、彼らは成す術が無い。
だがそんな悟空達の窮地に、『魔界の神』が現れる。その名は神綺、悪魔将軍と共に魔界を作った神だった。

 凶悪化したターレス、『無意識』の力の代償によって倒れ伏す悟空、
そして神綺という援軍。これ等の状況を前に、キン肉マン等が下した決断は
『撤退』だった。彼らはターレスを搔い潜り、アビダインへ撤退。
期せずして悪魔将軍達とも合流し、岸辺露伴が得た情報源と共にそのまま魔界から脱出。
こうして第一次魔界大戦は、幕を閉じた。

 『神』と渡り合うには、彼らも『神の領域』に踏み込まなければならない。
…その時は、もうすぐそこまで迫っていた。

3人目

「清廉なるHeretics」  

 ――特異点リビルド・ベース。    

 リ・ユニオン・スクエアは、エタニティ・コア遺跡に侵攻した
ミケーネ、ジオン族、竜王軍を追って、ゼンカイジャー、マジンガーチーム、勇者アレク、バーサル騎士ガンダム、 宗介たちの機影が、歪む空の向こうへ消えていく。  

 その光を、ペルフェクタリアは最後まで見送っていた。
隣には、日向月美。

「……行ったね」    

 月美が、小さく言う。

「行った」    

 ペルは短く答えた。感情は抑えられている。だが、無関心ではない。  
前線に行かなかった理由は、単純だ。
ここには、まだ“取り戻していないもの”の手掛かりがある。  
そして——ここでしか、できない戦いがある。

 その時、通路の奥から、静かな足音が近づいてきた。

「まあ……やはり、こちらにいらっしゃいましたのね」    

 現れたのは、清姫だった。 陽に照らされ、和装の輪郭が柔らかく浮かび上がる。

「日向月美さま。あなたも……迷いを抱えたまま、残る選択をなさった方」
「……はい。それに、ペルちゃんだけを残していくわけにはいかないから」    

 月美は、ゆっくりと頷く。ペルは、清姫へ視線を向けた。

「藤丸立香」    

 唐突な名。

「あいつは、夢の中でたりあに会ったと言った。嘘の匂いは、しなかった」  

 清姫の目が、すっと細くなる。扇で口元を隠しながら、静かに答えた。

「ええ。ますたぁが嘘をつくはずはありませんもの」

 声色は穏やかだが、その奥に熱がある。

「わたくしは、嘘が……大嫌いですの」    

 清姫は、静かに言う。

「世界を焼き尽くすほど、嫌い。それが理由で、誰かが壊れるのを見るのは……
耐えられませんわ」    

 ペルは、わずかに目を伏せる。

「……私は、嘘の匂いが分かる」    

 短い告白。

「だから、分かる。あいつは、本当のことを言っている」    

 清姫は、ゆっくりと頷いた。

「ますたぁは時折、夢の世界へ魂を引かれるのです」    

 その時、通路の奥から、はっきりとした足音が響く。 現れたのは、藤丸立香。
その半歩後ろにはカルデアの制服姿のマシュ・キリエライト。

「……呼ばれた?」
「ますたぁ♥」    

 清姫が、即座に声を上げる。ペルは、清姫にまとわりつかれる藤丸を
真っ直ぐに 見据えた。

「問いただす」    

 短く、しかし逃げ場のない声音。

「お前が見たと言う夢の世界に行く方法は無いのか?」
「行けるとは限らない。夢は、自在に行ける場所じゃない」

「……」    

 即答。おためごかしを言っても立ち行かない。それは藤丸なりの誠意でもあった。
落ちる沈黙を、柔らかい声が破った。

「……行きたい?」  

 全員が振り向く。熊のぬいぐるみを抱く金髪・碧眼の少女が、
影から這い出るように姿を現していた。

 アビゲイル・ウィリアムズ。
その幼気な姿からは想像だにしない不気味なオーラが背後に立ち昇っていた。

(何だ、こいつは……)
「夢の世界……」  

 その額に、一瞬だけ幻のような鍵穴が浮かぶ。奥底で、何かが“瞬き”をした。

「門を開きましょう……」  

 ペルは、少女を見る。

「……たりあに……会えるのか?」
「あなたを呼んでいるわ。とても会いたがってる」

「……この魔力……」  

 マシュの声が、わずかに震えた。いつものアビゲイルではない。

「先輩……アビゲイルさんは……!」  

 盾を構えかけたその動きは、しかし途中で止まる。敵意ではない。
だが、人の手に負える領域ではない何かを、本能が感じ取っている。  
アビゲイルは、困ったように首を傾げた。

「だいじょうぶ。こわくないわ」  

 そう言いながら、抱えていた熊のぬいぐるみを、ぎゅっと胸に抱き直す。
その言葉と同時に、空間が、きしりと軋んだ。“ここ”という場所そのものが、薄く伸びる。  ペルフェクタリアは、一歩も退かなかった。
目を逸らさず、少女の額に浮かぶ鍵穴を 見据える。

「たりあに……会えるんだな?」  

 アビゲイルは、指先で空をなぞる。空間に、細い亀裂が走る。
夢と現実の、境界線そのもの。そこから、微かに――

『……ペル……』  

 聞こえた。確かに、そこに――たりあの声があった。
ペルの身体が、ほんの一瞬だけ強張る。胸の奥で、何かが強く脈打つ。  

 ――会いたい。ただそれだけの、純粋な意思。
月美も、気づいていた。隣に立つペルの空気が、僅かに変わったことを。

「……ペルちゃん……」  

 ペルは一歩、前へ出る。

「たりあ」  

 呼ぶ。

「私は、ここにいる。ここにいるぞ!」  

 アビゲイルは妖しく微笑む。

「会いたい気持ちが、門を開く……」
「会いたい。それ以上の理由は、ない。そのために、ここまで来た」  

 ペルがこれまで戦って来た理由。月美が、星羅に手を添える。

「……一緒に行くよ、ペルちゃん。戻る時も、戻れない時も」  

 藤丸は、マシュを振り返る。

「覚悟は?」
「……はい、先輩」

 マシュは盾を構えた。次の瞬間――門が、完全に開いた。世界が裏返る。
視界が白く焼け、 次に色を取り戻した時、そこにあったのは――

「……ここは……?」  

 月美が呟く。

「似ている……私がいた世界にあった街に……」  

 ペル、月美、藤丸、マシュ……4人が立つ丘の下に広がる、
かつてペルが見た覚えのある街並みだった。だが、何かが違う。  
一方、その頃。

 特異点リビルド・ベース。ひとりその場に取り残された清姫。

「……まあ」  

 顔色が変わる。

「ますたぁに、マシュさんまで……大変ですわ……」  

 即座に踵を返す。

「ダ・ヴィンチさまに、報せなければ」  

 走り去りながら、清姫は歯を食いしばる。  


 門は開いた。胡蝶の夢が如き、現実と虚構の境界は、もはや判別できなかった。
丘を吹き抜ける風は、生温かく、どこか懐かしい。
街並みは確かに“存在”しているのに、人の気配が薄い。
遠くで聞こえるはずの生活音は、舞台装置のような無機質さを漂わせている。

「……ここは、嘘の世界だ」

 ペルが低く言う。

「壊さないために、閉じている世界だ。嘘で街全てを包みこんでいる」

 藤丸は周囲を見回し、息を整える。

「固有結界のような……優しくて、でも――徹底的だね」

 マシュは盾を構えたまま、一歩前に出る。

「先輩。この世界、今のところ、敵意はありません。
ですが……拒絶は、はっきりしています」

 月美は、街を覆う圧倒的な魔力を肌で感じながら静かに頷いた。

「途方の無い魔力を感じる……神浜市を結界で包み込んだ
キャスター・リンボのような……」

 その街の名は、見滝原。
守護する者と、取り戻す者。清廉なる異端たちの邂逅が、いま、始まろうとしていた。

「たりあ……いるのか。この街に……」

4人目

「starting case.デュエリスト・ダークサイド phase.1」

 存在しなかった世界

 遥か虚数空間の深淵、追放の終点地にある暗黒の都市。
 空に浮かぶ虚の城、その淡い光に照らされる黒い建物はまるで影絵のよう。
 臨海の繁栄都市とは異なる幻想。

 そこに、最近になって建立した塔がある。
 くすんだ白き城よりも高く聳え立たんとする鉄塔。
 神を祀る祭壇の如きそれの最上階に、それはいる。

「おお……我らが女神『メアリー・スー』よ……。」
 教団使徒の一人が目の前に浮かぶ水晶、その中心たる最奥に誕生の時を待つように蹲る存在。
 かの女神の名に、完全なる存在にして世界の破壊者、たる「メアリー・スー」の名を冠したのには、ある種の皮肉すら感じる。

「私だ。」
「お体の具合はいかがですか、魅上様。」
「私のことはいい。それよりも命令だ、お前たち『アィーアツブス強襲部隊』は童美野町に出向き、そこにいるアルキメデスの部隊に合流しろ。」
「仰せのままに。」

「それと、合流次第アルキメデスに伝えろ。」
「何でしょうか?」
「奴らからソロモンの指輪を根こそぎ奪う方法を思いついたとな。」



 赤道直下に人工的に作られし絶海の孤島。

 天に聳える、か細くも確かに存在する塔の如きケーブル。
 オゾンを突き抜け更なる高みを見んとするその正体は――――軌道エレベーター。
 そこに、彼はいた。

『システム、オールグリーン。いつでも出発できます。』
 遺跡にて千年パズルを回収した海馬瀬人は、ここにいた。
 その建物のオペレーターたちが、軌道エレベーターを動かそうとしていた。
 目的はただ一つ、主たる彼のために。
「お待ちしておりました!」
「準備はすべて整っております、海馬様!」
 海馬は
「磯野、新型デュエルディスク発表のデモンストレーションとして、海馬ランドでデュエル大会を行う!お前たちはそのための準備を急げ!」
「はっ!」

 軌道エレベーターは空へ空へと昇っていく。
 こんなSF小説やアニメでしか聞かないような建物を作り上げられる技術力を使ってまで、何をしようというのか。

『お待ちしておりました、ミスター海馬。装置の準備はできております。』
「すぐに取り掛かれ。」
『かしこまりました。』
 そうして彼は、装置に持ち込んだ千年パズルの入ったケースをセットする。
 すると、装置中心部に浮かぶスキャナー部にパズルが現れ、浮かび上がった。
『この装置は、複雑なスキャニング処理が必要なため重力の影響を受ける通常空間では稼働できませんでしたが、宇宙空間を利用し、無重力下でパズルをスキャニングすればどのような……』
 彼の目的は、冥府に帰った「カレ」を現世に呼び戻すことだった。
 あの日、闘いの儀にて敗れ去り冥府へと帰った名もなきファラオの魂。
 彼を倒すべきは己だったと悔やむ海馬の心には、今も彼の幻影が憑りついている。
 消えない想い、終わらない妄念、永遠に続く執念のように。
『流石です、ミスター海馬。』
「つまらん世辞はいい。」
『失礼いたしました。』

「遊戯……。」
 それゆえに、彼は全能力ともいえる力を注ぎ、冥府の扉をその手でこじ開けようとしている。
 過ぎた強迫観念、と一言で片づけることは誰の口でもできよう。
 だがそれでも、勝利と誇りで彩られた人生を生きる海馬にとって、唯一己に『敗北』を突きつけた彼を打倒することが生存理由となった彼にとってその台詞は最大の冒涜なのだ。

 と、そこに連絡が入った。
「兄様、大変だ!」
「モクバか、どうした?」
「童美野町に例の奴らが来ている、ニュースでやってたメサイア教団だ!」
 弟のモクバからの連絡。
 それはメサイア教団の童美野町への進攻報告だった。
(……連中め、何が目的だ。)
 海馬のこめかみがひきつく。
 己が大願に、管轄外の狂気連中のせいで水を差されるわけにはいかない。

「連中は今何をしている?」
「今は大して動いていないみたいだけど……。」

「暴れるようなら叩き潰せ。」

5人目

「偽りの見滝原 - 優しい”嘘”の世界 -」 

 丘の上に立つ四人の背後で、門は音もなく閉じていた。
まるで最初から存在しなかったかのように、夢と現実を繋いでいた裂け目は、
空気の揺らぎすら残さず消えている。

 アビゲイル・ウィリアムズの姿は、もうなかった。

「……消えた……」
「アビゲイルさんの力、でしょうか……」

 マシュが、藤丸に問う。

「この世界に入るための鍵であり、案内人……」

 月美は、静かに頷いた。

「……あの娘も、サーヴァントとか言う奴なのか」

 アビゲイル・ウィリアムズという名は、もともと――歴史の中にあった。
それは英雄譚でも、偉業でもない。むしろ、人が人を疑い、恐れ、壊していった
記録の一部だ。

 十七世紀末。新大陸、マサチューセッツの小さな町――セイレム。

 信仰が秩序であり、疑念が罪だった時代。理解できない出来事はすべて
“悪魔の仕業”とされ、恐怖は連鎖し、やがて集団そのものが狂気へと変わった。

 その渦中にいた少女の一人が、アビゲイルだった。
まだ幼い年齢。世界の理を知るには早すぎ、それでも大人たちの恐怖と期待を、
一身に背負わされた子供。

 彼女は“見た”と言った。彼女は“聞いた”と告げた。
夜に囁く声を、黒い影を、理解不能な何かを。

 それが嘘だったのか。錯覚だったのか。
あるいは――本当に、何かがそこにあったのか。史実は、答えを残していない。
ただ確かなのは、その言葉が、多くの人を死へ追いやったという事実だけだ。

 裁かれたのは魔女とされた者たち。
だが、壊されたのは町であり、信仰であり、そして――子供たち自身の心だった。

 人理の外側――人が決して触れてはならない領域と繋がってしまった者に与えられる、
「降臨者」と言う名の異端の座。

 誰かの「会いたい」。誰かの「信じたい」。誰かの「救われたい」。
その想いが、力を持った時、彼女の額に、再び鍵穴が浮かぶ。

「普段のアビーには、あんな力は無い。彼女じゃない何かが、この現象を引き起こした……
と思う」

 マスターである藤丸でさえも御し得ぬ、アビゲイルの秘められた力。

 たりあに会いたいと強く願う魔殺少女、ペルフェクタリア。
次元を渡る奥義を伝承する退魔師の家系、日向月美。 
魂が夢の世界へと導かれる特異体質を持つ人類最後のマスター、藤丸立香。
そのファースト・サーヴァントであるシールダー、マシュ・キリエライト……

 本来揃う事の無かった因子たちが特異点なる異質な場に集う事で、
此度の現象が引き起こされたと言う事なのか……

「……」

 ペルフェクタリアは、丘の下に広がる街並みを見下ろしていた。見覚えがある。

「ここは……リ・ワールドにあった街だ。名を、見滝原……」

 低く、断定する声。

「私の世界。その残骸だ。その一部を……丸ごと切り抜いたような……」

 ペルが住んでいた世界、リ・ワールド。神によって再構成された世界。
数々の奇跡が繋ぎ合わされ、ひとつになった世界……

「滅びたはずの私の世界は、完全には消えていなかった。断片が集められ、縫い合わされ、嘘で固定された。壊れないように。誰も傷つかないように」

 月美の胸に、嫌な予感が走る。

「……守るために、閉じた世界」
「そうだ」

 ペルは拳を握り締めた。
たりあ。名を呼ばずとも、胸の奥が熱を持つ。会いたい。それだけで、ここまで来た。

「先輩は、夢の世界に“引かれる”と言っていましたね。今の感覚がそうなのですか?」
「うん。意図してじゃないけど……気がつくと、向こうから呼ばれる」

 夢の世界に引き寄せられ、意識を失う藤丸。その姿をマシュは何度も観測してきたが、
その状況にマシュ自身も立ち会うのは初めてのことだった。

「ここは夢。でも、ただの夢じゃない。誰かの“願い”で維持されている世界」
「日向家には……代々伝えられている奥義があります」

 全員が月美を見る。

「“次元を越える”。本来は、異界に堕ちた魂を連れ戻す、或いは異界へと送るためのもの。
夢、虚構、結界……そういう境界に干渉する術です。アビゲイルさんの力は、
それと似ている」

 父・月光の奥義によって滅びゆく世界から逃がされた月美。
彼女は、はっきりとペルを見た。

「ペルちゃん。あなたが、ここで“たりあさんを取り戻す”なら……私も協力する」
「……ありがとう」

 短い言葉に、重い覚悟が宿る。

「……行ってみよう。あの街に」

 探索は始まった。街は静かだった。建物は整然と並び、人は行き交い、
信号は規則正しく点滅し、風に揺れる木々さえ“用意された背景”のように整いすぎている。

「……違和感が強い」

 マシュが言う。

「人、街……全てが日常であるはずなのに、全てが異常に思えてくるような……
上手く説明出来ませんが……」

 角を曲がった、その時だった。

「……あれ?」

 誰かの声。

 振り向くと、橋のたもとに、青い髪の少女が立っていた。どこか、懐かしい気配。

「美樹、さやか……?」

 ペルの声が、僅かに揺れる。

「え?」

 少女――美樹さやかは、きょとんとした顔でこちらを見た。

「……誰?」

 胸が、冷たくなる。少し離れた場所から、赤い髪の少女が歩いてくる。

「おい、さやか。ゲーセン行くんだろ?」
「佐倉杏子……」

 その悪友、佐倉杏子もまた、警戒した目でペルたちを見ていた。

「……っていうか、あんたたち、誰だよ。さやか、知り合いか?」
「いや……知らない……と思うんだけど……」

 記憶が、ない。ペルは理解する。嘘を言っているわけではない。
かつてリ・ワールドで共に戦った仲間……この世界は、壊れないために、
削ぎ落とされている。痛みも、戦いも、喪失も。だから――彼女たちの“過去”も。

「……そうか」

 ペルは、小さく息を吐いた。

「ここは、優しい嘘の世界だ」

 ペルの呟きは、風に溶けるように街へ落ちた。さやかと杏子は、
その言葉の意味を理解できず、互いに顔を見合わせる。

「……何だよ、それ」

 杏子は肩をすくめた。記憶は消されている。
だが、それでも魂の奥底までは、嘘で覆いきれない。

「意味分かんねえ。こいつら変だぞ。行こうぜ、さやか」
「う、うん……」

 怪しいものを見るような目でペルたちを一瞥すると杏子はさやかを連れて去って行った。 

「ペルちゃん、あの子たちは……」
「魔法少女だ。環いろは達と同じ、な。私の世界で共に戦った…恐らく…本人だ」 

 ペルの言葉は、確信と迷いの境界にあった。

「本人……?」

 月美が小さく問い返す。

「記憶は無い。だが、魂の形が同じだ」

 藤丸は、去っていく二人の背中を見つめていた。

「先輩……この世界、安定しているようで……どこか“脆い”です」
「……そうだね」

 藤丸は、低く頷く。

「壊れないように作られてる」

 誰かが、必死に縫い留めた世界。喪失を、喪失のままにしないための、嘘。
月美は街の空を仰ぎ、ペルが静かに息を吐いた。

「魔法少女は、戦う存在だ。願いと引き換えに、戦場に立つ者だ。
だが、今の彼女らは……」

6人目

「starting case.デュエリスト・ダークサイド phase.2」

 超越者たちの降臨。
 CROSS HEROESの「神」なるものたちへの接触の時が迫っているころ。



 エジプトの砂漠で、ディーヴァは商人から受け取ったタリスマンを眺めていた。
 彼は目を閉じ、タリスマンの裏側に書かれた文字に触れる。
 まるで誰かを悼むように、誓いを反芻するように。

 不思議なことに、その文字は彼自身も驚くほど、すらすらと読めた。
 プラナの力が故に解読を可能としたのだろう。
 その文章がこれだ。



 ――――かの王が抱く十の指輪が散らばりしとき、世界に混沌が満ち満ちる。
 悪徳は栄えるが、それは砂上の楼閣とならん。
 悪徳に抗う正義の星が、楼閣を打ち砕くがゆえに。

 ――――やがて星は神と出会い、神は星に力と御業を与える。
 されど汝らが星ならば、ゆめこの言葉を忘れるな。
 真の悪は、正義を謳う邪悪の秘儀なり。

 ――――やがて指輪は一つに集まり、それを追う星は大いなる船を得る。
 かの洪水を越えし大船、邪悪の秘儀の懐へと向かわん。

 ――――邪悪はその秘儀により、十三の深淵より救世を謳う邪神を呼び寄せる。
 邪神は完全なる絶望となりて、宇宙を閉じる大渦とならん。
 是ぞ希望峰の混沌十字、その約束である。

 ――――誰もが沈黙するのであれば、渦となった宇宙は一つの矮星となり瞼を下ろす。
 されど我らの志を継ぐ者が、挫くものとして叫ぶなら。

 この護符は、希望の羅盤なり。



「星、か。」
 誰に聞こえるでもなく、ディーヴァはそうつぶやいた。



「行くぜ!手札の『星辰砲手ファイメナ』と手札の『星辰竜ウルグラ』で融合召喚!来い!『星辰爪竜アルザリオン』!!」
「なかなかやるじゃねーか!だが俺の『巳剣』軍団に勝てるかな!?」
「あぁ!?」「おぉ!?」
「「やんのかコラァーーッ!!」」
 腕に特徴的な機械をつけた若者たちが、街中でカードゲームに勤しんでいた。
 彼らが使役するのは、近くの建物よりも巨大なモンスターたちの幻影。

 ここは童美野町。
 カードゲーム『デュエルモンスターズ』と巨大企業『海馬コーポレーション』が支配する熱狂の町である。
 だがこの日は、一段とデュエルの熱に浮かされていた。
 周囲を見れば、確かに多くの若者がデュエルモンスターズで遊んでいる。
 というのも。
「相も変わらずすっげー盛り上がってるなぁ遊戯。」
「近いうちにデュエル大会が行われるし、みんな熱気立ってるみたいだね。城之内君。」
 何でも近々、デュエルモンスターズの大会が行われるというのだ。
 その裏で進んでいる陰謀を知る由もなく、彼らは切磋琢磨している。
 雑踏の中で、城之内と呼ばれた学生服を羽織っているいかにも不良風な青年が、これまた遊戯と呼ばれた特徴的過ぎる髪型の小柄な少年と共に町を歩いていた。

『世界中のデュエリストたちよ!我が海馬コーポレーションは次世代最新型デュエルディスクの開発に成功した!近日中に……!!』
 スピーカー越しに、海馬社長の高笑いが響く。
「新型デュエルディスクかぁ……くそ、またバイト増やさねぇとなぁ……。」
 そうやって城之内がぼやいていると、彼らの前に謎の集団が集まった。

「君たち、武藤遊戯君に城之内克也君だね?」
 周囲にいるラフな格好ばかりの若者たちとは打って変わった、軍服姿の集団。
 ざっと十数名程度だろうか。
 そんな彼らが遊戯たちを囲って、彼らを詰めている。
「キミたちは、一体?」
「我々の名前などどうでもいい、ただメサイア教団という組織の一員であることだけを理解していればよろしい。」
 傲慢に告げられたその名を聞いて、二人は戦慄した。
 自分たちはカードゲームばかりをやっているわけじゃない、ニュースで彼らのことは識っている。
 まさか、こいつらが。

「メサイア教団!?」
「こいつらがニュースでやってた例の……!」

7人目

「君の銀の庭」

「なー、さやか! 今日の晩飯何にすんだ?」
「アンタ、食うか遊ぶかしか頭に無いの!?」
「うっせー!」

 じゃれつき合いながら去っていくさやかと杏子。戦いとはまるで無縁の光景。
彼女らが辛く、苦しい思いをしてきた事は、共に戦ったペルが一番良く分かっている。

 「今の彼女らは――戦う理由を、奪われている」

 その一言が、重く空気に沈む。

「願いも、代償も、覚悟も……すべてが“起きなかったこと”にされている。
だから彼女たちは、魔法少女でありながら――ただの“日常の住人”として、
この街を歩いている」

 マシュは、はっと息を呑んだ。

「……それは……守られている、ということなのでしょうか……?」

 ペルは否定しない。

「だが、それは同時に――選ぶ権利を、失っているということだ」

 藤丸は、静かに思いを馳せる。

「選ばなくていい世界……傷つかなくていい世界……」
「そして同時に」

 ペルが続ける。

「“取り戻すこと”を、許さない世界だ」

 街路を歩く人々の流れは、途切れることがない。
制服姿の学生、買い物袋を提げた主婦、談笑しながら歩く若者たち。
どれもが“日常”の記号として正しく配置され、過不足なく流れていく。

 ――その中に。

「ねえマミ、チーズを買うのです! 今日はケーキじゃなくて、チーズの日なのです!」

 弾んだ声が、通りを横切った。

 振り向いたペルの視界に入ったのは、金色の巻き髪を揺らし、
柔らかな笑みを浮かべる少女――巴マミ。その隣を、小柄な少女が跳ねるように
歩いている。

 白い絹糸のような髪がウェーブがかって。丸い頬。
期待に満ちた、屈託のない表情。

「ふふ、なぎさ。この前もチーズ買ったばかりでしょう?」
「いいのです! チーズはいくらあっても困らないのです!」

 ――百江なぎさ。その少女を、ペルは知らなかった。

「……巴マミ……」

 思わず零れた声は、届かない。マミは、こちらを一切認識しないまま、
なぎさの手を引いて歩いていく。マミもまた、さやかや杏子と同じく……

「マミ、急がないと売り切れちゃうのです!」
「大丈夫よ。ちゃんとあるわ」

 笑い声が遠ざかっていく。チーズを買うために、ただそれだけの目的で。
ペルの胸が、微かに軋んだ。

「……巴マミは、知っている」

 ぽつりと呟く。

「だが……あの子どもは……知らない」

 月美が、慎重に言葉を選ぶ。ペルは、目を伏せる。

「だが……分かる。あの子どもも……魔法少女だ」

 年の頃から言えば、小学生ほど。ペルとそう変わりないかも知れない。
なぎさは振り返らない。マミも、振り返らない。
二人はただ、穏やかな午後の買い物へと消えていく。

 ――戦いを知らないまま。
 ――絶望を知らないまま。

 その背中を見送りながら、ペルは思考に沈んだ。

(嘘……)

 ペルフェクタリアは、嘘を嫌う。それは生まれつきの性質であり、
幾多の戦いの中で磨かれ、確信に変わった信条だった。

 嘘は、歪みを生む。
歪みは、世界を壊す。

 だからこそ、嘘は排除すべきものだと、信じてきた。

 ――だが。

 この街の嘘は、魔法少女たちを、あの苛烈な運命から遠ざけている。
契約もない。魔女もいない。絶望も、自己犠牲も、魂の摩耗も存在しない。
ただ、チーズを買いに行く少女がいるだけだ。
放課後にゲームセンターに遊びに行く少女がいるだけだ。

「……これは、善か」

 ペルの唇が、微かに動く。

「それとも……悪か」

 月美は、答えなかった。藤丸も、マシュも、言葉を挟まない。
誰も、簡単な答えを持っていなかった。悲しみも無く、苦しみも無い世界。
誰も泣かせない世界。それはカルデアも、CROSS HEROESも、目指す世界であるはずだ。

 その時――。
視界の端で、影が揺れた。建物の影。路地裏。人の流れから外れた場所。
そこに、“何か”がいる。耳を澄ますと、微かな囁きが聞こえた。

「……Tu vois ?」
「Oui, elles sont encore là……」
「Quelle drôle de scène……」

 フランス語。

 クスクスと、忍び笑う声。まるで、観劇を楽しむ観客のような気配。
ペルの背筋に、冷たいものが走る。

「……いるな……」

 低く告げる。

「人でない、何か」

 マシュが、即座に盾を構えて、藤丸を守護する。月美も星羅に手を掛ける。

「魔力反応を確認……! 数は……多数。ですが……攻撃性は低い……?」
「観察しているだけだ」

 藤丸が、苦い表情で言う。

「敵では……ない?」

 月美は、息を呑んだ。その影は、確かにこの街を覆っている。
使い魔たちは、直接干渉しない。ただ、遠くから、くすくすと囁く。

「Un monde bâti sur un mensonge…」
「Combien de temps cela tiendra-t-il ?」
「Ils veulent vraiment y croire…」

 ペルは、拳を握り締めた。

(この嘘を……壊すべきか)

 壊せば、魔法少女たちは再び戦場に立つ。絶望と引き換えに、誰かを救う運命に戻る。
そして、またあの終わりなき戦いに身を投じる……
だが壊さなければ……“嘘で守られた箱庭”として、永遠に固定される。

「……選ばなければならない」

 ペルは、静かに言った。

「嘘を壊す覚悟か。嘘を肯定する覚悟か」

 藤丸は、ペルを真っ直ぐに見つめる。

「どちらを選んでも……後悔は、残る」
「ああ」

 ペルは、否定しない。

「だが……私は、逃げない」

 遠くで、マミとなぎさの笑い声が、完全に消えた。使い魔たちの囁きも、
風に紛れて遠ざかる。

 偽りの見滝原。守るための世界。そして、選択を迫る檻。
――善と悪の境界が、これほど曖昧な場所は、他にない。

「たりあちゃん、に……会えたとしても」

 藤丸が、慎重に言葉を紡ぐ。

「元の姿じゃない……可能性もある」
「それでもだ」

 即答だった。

「それでも、会う。私は……確かめなければならない」

 月美は、星羅に手を添える。

「ペルちゃんが選ぶなら……私たちは、最後まで付き合う」

 マシュも、盾を握り直した。

「ペルさんの判断を、信じます。そして……この世界が何を隠しているのか、
必ず突き止めます」

 藤丸は、三人を見渡し、静かに頷いた。

「……行こう」

 街の中心へ。この“偽りの見滝原”が、最も優しい嘘を重ねている場所へ。

「……懐かしいわね。ペルフェクタリア」
「……暁美……ほむら」
 
 この偽りの見滝原の創造主。リ・ワールドで出会ったときとは
まるで別人のような雰囲気。そして……

「……ペル?」

 ほむらの背中からひょこり、と顔を出したのは……

「……たりあ!」

 間違うはずも無い。二人は同時に駆け出した。抱きしめたい。この手で。
しかし……

「……!?」

 ペルの両手は、空を切った。たりあに、触れられない。

「な、に……!?」
「そこに”在る”のは……平坂たりあの精神体……魂のようなものよ」

8人目

「始まりの3人」

 暁美ほむらの静かな声が、凍りついた空気を震わせた。

「精神体……?」

 ペルは、震える視線でたりあを見る。たりあは、そこに“いる”。
何処か寂しげな笑顔で、だが確かにそこに立っている。だが、輪郭がどこか曖昧で、
陽光を受けても影を落とさない。よく見れば足先も揺らめいている。

「リ・ワールドが滅びた時……」

 ほむらは、視線を伏せたまま続ける。

「グランドクロスによる次元崩壊で、あの世界は滅びた。その瞬間、たりあの肉体は……
次元の歪みに呑まれて、情報ごと消えたわ」

「……そんな……」

 月美が、思わず声を漏らす。

「魂だけが……辛うじて残ったの」

 ほむらは、たりあの隣に立つ。

「この“偽りの見滝原”は、私が構築した箱庭。魔法少女たちを、
あの運命から解放するための世界……そして同時に、行き場を失った魂たちを
留めるための、停泊地でもある」

 ペルの喉が、ひくりと鳴った。

「……私のせいだ」

 低く、掠れた声。

「私が……守れなかった……」

 たりあは、首を横に振った。

「違うよ、ペル」

 その声は、穏やかで、優しい。昔と変わらない。

「ペルが、私を守ろうとしてくれたこと……ちゃんと、知ってる」
「だが……!」

 跪くペルは、拳の中の土を握り締める。

「私は……“魔殺少女”だ。お前を守るために造られた存在だ。それなのに……!」

 言葉が、喉で途切れる。あの時の光景が、脳裏に蘇る。崩壊する空。引き裂かれる大地。伸ばした手が、届かなかった瞬間。

「……私は、失敗した」

 異世界からの帰還。連戦による疲弊。禍津星穢との対決。そして敗北。
たりあによって崩壊する世界から救われた。月美の父・月光と同じように。

「……ねえ、ペル」

 たりあは、微笑んだ。

「こうして……話せるだけで、わたしは幸せだよ」
「……何……?」

 ペルの瞳が、揺れる。

「だって……わたし、もう消えてなくなっちゃっても、おかしくなかったんだよ?」

 たりあは、空を見上げる。

「なのに……こうして、ペルと、また会えてる」
「……そんな……それで、満足だと言うのか……?」

 ペルの声は、怒りと悲しみと、自己嫌悪が混じり合っていた。

「肉体も無い……触れられもしない……それでも……?」
「うん」

 たりあは、即答した。

「それでも」

 その一言が、胸に突き刺さる。

「ペルが……生きてる。それが、何より嬉しい」

 ペルの肩が、小さく震えた。

「……私は……」
「それにね、こうなったからこそ、あの頃のペルの気持ちが分かるの。
ペルがわたしの中にいた時の事を」

 言葉が、続かない。

「……私は、たりあを失った世界で、生き続けている。それ自体が……罪だ」
「罪じゃないよ」

 たりあは、優しく否定する。

「生きてることは……罪じゃない」
「だが……私は……」

 ペルは、視線を逸らす。

「……たりあを、見殺しにした……」

 ほむらが、静かに口を挟んだ。

「ペルフェクタリア」

 その声音は、責めるものではない。ただ、事実を告げるためのもの。

「貴女は……あの時、最善を尽くした。それでも、救えなかった。
けれどそれは……貴女の罪ではない」
「……暁美……ほむら」

 ほむらもまた、まどかを救うために永遠にも等しい時間を繰り返し、
まどかが目の前で命を落とす世界線さえ見続けてきた。
守るべきものを守りきれなかった無力感、挫折、絶望……それを知っているのもまた、
ほむらであろう。

 たりあは、ゆっくりと首を振る。

「ペル」

 その呼び方は、昔と同じだった。

「私ね……ペルに、後悔してほしくない」
「……!」

「ペルが……自分を罰し続けるの、嫌だ」

 ペルの瞳に、微かな光が揺れた。

「……私には……それしか、残っていない」
「残ってるよ」

 たりあは、微笑む。

「“今”が、残ってる」
「……今?」

 たりあは、ペルを真っ直ぐに見つめる。

「あなたは……まだ、戦ってる。誰かを守ろうとしてる。わたしじゃない誰かも守る
魔殺少女として」
「……それは……」

「それが……ペルの答えなんだよ」

 その時――。

「やれやれ……」

 背後から、気の抜けた声が響いた。

「何やら、辛気臭い空気だな」

 全員が、はっと振り向く。建物の影から、ひとりの男が歩み出てきた。
長身の黒いジャケットスーツ。首に提げたトイカメラ。

「……士さん!?」

 藤丸が、目を見開く。特異点、リビルド・ベースにいたはずの士が
この偽りの見滝原にいたのだから。驚く一同に向けて、挨拶代わりにトイカメラの
シャッターを切る。

「どうしてここに……」
「通りすがりだ」

 旅人の行く先は、例え夢の導く先であっても関係が無いと言う事か。
或いは、過去に強く結ばれた”繋がり”が成せる業か……

「……ここが“偽りの見滝原”、か」

 街の風景を一瞥し、ほむらを見る。一度は旅を終えるつもりであった士に
再び力を与えたのは、ほむらであった。沈黙の中、士は、ふっと小さく鼻で笑った。

「……しかしまぁ」

 その視線が、ペルとほむらの間を行き来する。

「3人、またこうして顔を突き合わせることになるとはな」

 その言葉に、ほむらの瞼が、ほんの一瞬だけ伏せられた。過去を回想するように。
世界の破壊者と謳われたディケイドから、まどかに託された世界――
リ・ワールドを守る魔法少女として弓を引いた暁美ほむら。
仮面ライダー、魔法少女……そう言った超常的な力を管理し、世界の救済を掲げた組織
アベレイジの幹部だった魔殺少女ペルフェクタリア……

 その物語は、敵対から始まった。

「状況は芳しくない……メサイア教団、その背後にいるグランドクロス……
連中は着々と勢力を伸ばしてきている。この“偽りの見滝原”も、例外じゃない」

 士の言葉に、ほむらの黒く長い髪を掻き上げる。

「……そうでしょうね」
「この世界にも、攻め込まれるのは時間の問題だ」

 沈黙。ほむらは、ゆっくりと息を吐いた。

「……協力しろ、と言いたいのね」
「そうだ」

 士は、頷いた。

「この世界は、もう“隠れ家”じゃない」

 対するほむらの答えは……

「……断るわ」

 その一言が、場を凍らせた。

「……やはりそう言うか」

 士が、眉をひそめる。

「この世界は……私が、守ると決めた場所よ」

 ほむらの声は静かだが、揺るがない。

「私は誰の味方にもならない。この世界を脅かす者がいれば、倒す。それだけよ。
ひとつ言えるのは、平坂たりあ……その魂を貴方達に預けると言う事だけ」 
「え……?」

「ペルフェクタリアと共にある……それは貴女も望むところだったはずよ、
平坂たりあ」

「英霊を召喚する技術を確立しているカルデアなら……たりあさんを
元に戻す方法も見つかるかも知れません」
「!? 本当か!?」

「もう行けないと思ってた夢の世界に来て……
もう会えないと思っていた人に会えたんだもん。不可能なんて無いよ、きっと!」

 藤丸とマシュの言葉に、僅かながら差す希望の光……

9人目

「赤いガンダム、見滝原に現る」

 藤丸とマシュの言葉に、微かな希望が差し込んだ、その瞬間――。


 ――ズズン……!!


 地鳴りが、腹の底を揺さぶった。街の中心部から光の柱が立ち昇る。

「……なに……?」

 月美が、咄嗟に踏み込んで体勢を整える。 
見滝原の上空、赤黒い閃光が一点に収束し、次の瞬間――


 ――ズドォォォンッ!!!


 爆音と衝撃波が、街を呑み込んだ。中心部の交差点が、
まるごと“抉り取られた”かのように消失する。アスファルトは溶解し、
建物の基礎ごと崩れ落ち、半径数十メートルに渡って巨大なクレーターが出現した。

「……今度は何だ、一体……?」

 一同は現場に急行した。

「……次元転移の類か……」

 そのクレーターの中央から、赤い光が立ち昇る。
雲を裂くように現れたのは、巨大な人型の影。全身、赤い装甲、鋭角的なシルエット、
ツインアイが不規則に点滅している。両肩にマウントされた大型のビット兵器。
士もまた、トイカメラを下ろし、視線を細める。

「随分尖った意匠だが……」
「まさか……ガンダムか……?」

 ペル、そして士は数々の並行世界を巡った経験がある。
マジンガーやゲッターロボのような巨大人型兵器……「ガンダム」と遭遇した記憶。

 赤い機体は、クレーターの縁から一歩踏み出した瞬間――
――ドゴンッ!! 足場が崩れ、再び地面が陥没する。
重すぎる存在。この世界の物理法則に、完全に適合していない。

「きゃああああっ!!」

 周囲のビルから、人々の悲鳴が降り注ぐ。
粉塵が舞い、割れたガラスが雨のように落ちる。街は一瞬でパニックに陥った。

「……貴方達の仕業?」

 ほむらが、冷たい視線を藤丸たちへ向ける。

「違います!! ……と、思うんだけど……」

 藤丸が、即座に否定した。が、騎士ガンダムのような人間サイズのガンダムタイプとも
共闘した事のある手前、断言は出来なかった。

「……ですよね???」
「少なくとも、俺達も初めて見る手合だ」

「……信じるわ」

 ほむらは短く答え、すぐに視線を赤い機体へ戻す。
その背後――クレーターの縁、空間が“捻じれる”ように歪んだ。

 黒紫の靄と共に、異形の影が現れる。霊体と物質の中間。獣のような四肢。歪んだ顔。

「……グランドクロスの……魔獣……!!」

 月美が、歯を食いしばる。あの、禍津星穢が従えていた、魔獣……
さらに――赤い光の門が、クレーターの奥に開いた。
そこから、ゆっくりと歩み出る一人の男。

 黒いロングコート。仮面のような仮面具。胸元には、禍々しい紋章。

「……初めまして、諸君」

 やけに芝居がかった、ねっとりとした口調。

「私は――グランドクロス幹部、“魂蒐集官”ディルク」

 わざとらしく両腕を広げ、街の惨状を見渡す。

「くくく、私は運が良い。刻を渡る赤いガンダム。それを追っていて
まさかこんな場所に行き着くとは。くくくくく……」

 ほむらの瞳が、細くなる。懸念は現実となった。

「……グランドクロス……まさか、本当に現れるなんてね……」
「はははっ、光栄だよ。それに、この箱庭は美しい魂に満ちている。狩り甲斐がある!」

 その物言いは、どこか軽薄で、優越感に満ちている。
すると、ほむらの意識に、微かな“声”が流れ込む。

『……あなた……』
「……!?」

 ほむらは、息を呑んだ。

 それは、優しく、哀しげな声……誰にも聞こえない、心の感応。

『……この世界……危険……赤い……彼……』

 “何者か”の思念。ほむらは、唇を噛みしめる。瞬間、赤いガンダムが、
ぎこちなくこちらを向いた。

「やれやれ……」

 士が、一歩前に出た。その視線が、ディルクを射抜く。

「とうとうグランドクロスが直接攻め込んできたか。
おまけに謎のガンダムのおまけつきとはな」

 ディルクが、薄く笑う。

「他人の世界に土足で踏み込み、その上、自分は安全圏から高みの見物……」

 士は、肩をすくめる。

「三流の悪役ムーブのフルコースだな」
「な……っ!?」

 ディルクの額に、青筋が浮いた。

「貴様……この私に向かって……!」
「グランドクロスは……叩き潰す……!」

 ペルのその一言に、ディルクの余裕が一気に崩れた。

「……減らず口を……!!」

 ディルクが、苛立ちを隠さず、魔獣に合図を送る。

「蹂躙しろ!! この街の人間どもの魂を狩り尽くせ!」
「何っ……!?」 

 魔獣の群れが、見滝原の街に一斉に放たれる。即座に藤丸が叫ぶ。

「マシュ!」
「はい、先輩! やああああああああああッ!!」

 マシュが遠心力を込めたラウンドシールドをブーメランのように投擲し、
魔獣を連続して斬り裂く。

「急々如律令!!」

 月美は呪符で魔獣を封じ込め、覆滅。放たれた呪符は魔獣の邪気を追っていく。

「きゃあああああっ……」
「禍腕――」

 たりあに襲いかかる魔獣。ペルの両腕のブレスレットが怪しい光を放つ。

「祟撃ッ!!」

 ペルの魔力を込められたブレスレットが、拳を突き出したと同時に射出され、
魔獣の顔面を貫通する。

「ギャウッ!!」
「グェボッ!!」

 頭部を失った魔獣は地面に横たわると同時に、塵と消えゆく。

「ふひひ、その娘……実に美しい魂の色をしている……引っ捕らえろ!!」
「させるか……! グランドクロス……もう二度とたりあには触れさせん……!!」

 魔獣は次々に生成され、見滝原の街へと疾走していく。
その光景を見下ろしながら、ディルクは恍惚とした笑みを浮かべていた。

「ふひひ……いい……実にいい……! 逃げ惑う魂の波動……箱庭とはいえ、
こんなに上質な素材が転がっているとは……」

 両手を広げ、陶酔したように呟く。

「いやはや、望外の成果ではないかね?
幹部会議で自慢してやろう……“私一人で、この世界を制圧しました”と……!」

「……あいつ……」

 士が呆れ混じりに吐き捨てる。

「完全に小物ムーブ全開だな……」
「だが……放置すれば、この世界そのものが持たない……!」

 ほむらが、街の崩壊していく気配に眉を寄せる。

 見滝原の空が、わずかに揺らめいていた。
建物の輪郭が、ところどころノイズ混じりに歪み始めている。

「……この“偽りの見滝原”は……私の魔力で維持している箱庭よ」

 低く、しかし焦りを含んだ声。

「魔力の消費が臨界を超えれば……この世界は、形を保てなくなる……」
「……つまり……」

 マシュが、事態を察する。

「ほむらさんが前に出続けるのは、危険ってことですね」
「そうよ」

 ほむらは短く頷いた。

「ここで私が力を使いすぎれば……この街も、住民たちも、全部まとめて“崩壊”する」

 その言葉に、ペルの拳が強く握られた。

「……なら……」

 士が、一歩前に出る。

「この戦場のメインは、俺達が引き受ける……変身ッ!!」


【KAMEN RIDE DECADE】


 ディケイドのマゼンタの装甲が、街の光を反射する。

「箱庭の管理人にまで戦わせるほど、俺達は落ちぶれちゃいない。
お前はこの世界の維持に専念しろ」

10人目

〈虚数の姫と認知の王〉

アビダイン隊が合流したトゥアハー・デ・ダナンでの会議は、暗雲の兆しを見せている。
暗黒魔界、ライラー、竜王軍、ジークジオン、ミケーネ神…数々の脅威が挙って侵略の旗印を掲げている事態は、余りに絶望的だったのだ。

「だが、どうする?相手は悟空やキン肉マンの火事場のクソ力でさえどうにもならなかったようなぶっ飛んだ連中だぞ。」
「チッ、貴様と言う奴は……そんな分かりきった事など、いちいち言わなくても良いのだ、マヌケめ……」
「マ、マヌケだァ!?」

事の重大さに、ベジータでさえも士気を考え避けていた明言。
それをヤムチャが口にし、そこを皮切りに会議は喧騒の模様を醸し出す…

「_良くない空気になっているね。」

喧騒を他所に呟くのは、丸喜拓人。
彼もまた、この地球を、ひいては多元宇宙さえ、ある意味で意中にしようと目論む脅威の一人。
であるにも関わらず、どういった風の吹き回しか、この会議の成り行きを傍観している。

「とはいえ、僕も余り人の事は言えないか。」
「_あれぇ?」

そんな丸喜に、背後から語り掛ける者が一人…

「ぽぺー、見かけない顔だね?」
「…驚いたな、気付かれるとは思ってなかったよ。」
「えへへ!あたしカグヤ、こう見えても勘が良いんだ。で、君は?」

気配を消していた、虚数姫カグヤだ。
彼女は笑みを浮かべてはいるが、声色はどこか平坦だった。

「僕は丸喜拓人、しがない学者だよ。」
「丸喜、拓人?」

カグヤが纏うピリピリした雰囲気を感じ取りながらも、丸喜は自らの素性を告げた。
その名前を聞いたカグヤは、目を細めて問う。

「妙だね…その名前は確か、ここの人達と敵対している相手の名前だったと思うけど?」
「その通り。僕はCHの敵で、本来なら営倉なんかに入れられている身だ。」

カグヤの質問に対して、丸喜は素直に答える。

「ふぅん。本来なら、ね。」
「まぁ、営倉自体が無いっていうのもあるけど…停戦協定を結んだ身というのが一番大きいかな。」
「そっか、確か魔界をどうにかするまでお互いに手出ししないって言ってたね。でも、何で会議に?」
「…アビィ君の声掛けでね。」

CHと丸喜・完璧超人一派の間に結ばれた協定。
魔界が力をつけ、多元宇宙を侵略するのを防ぐ為の一時的なものだが、同時にこの地球があらゆる脅威に害される事を防ぐ為にも重要な協定だ。
そして今、地球は数多の脅威に攻められようとしている。

「こんな未曾有の危機を見せられたら、僕らは黙っていられない。それを分かってて、僕に聞かせているんだろうさ。」
「乗せられてるって分かってて、動くんだ。」
「あぁ、アビィ君は強かだよ…あの子とは別の黒い物を、腹に秘めているね。」

肩をすくめて、参ったと言わんばかりの表情を見せる丸喜。
そんな彼に、カグヤがぽつりと漏らす。

「それって、黒いアビィ君?」

黒いアビィ。
その名を聞いた丸喜の表情には、わずかだが驚愕の色が浮き出ていた。

「君、あの子に会ったのか。」
「うん、特異点で偶然ね。そっか、君が彼の言う『優しい世界』を作る仲間だったんだね。」
「…そうだね。僕らは認知を利用して、完全で欠けの無い世界を作る。それが、武道との約束でもあるから。」

丸喜の反応を見て、カグヤは納得したように頷いた。
同時に黒いアビィが掲げていた『優しい世界』が、丸喜の集合無意識を利用した『認知の世界』だという事も理解する。
成程、理想の認識が広がる世界が一人一人に与えられ、その上で無意識を管理されれば、確かに諍いや憂い、増長すらも無い世界になる事だろう。
だが…

「でも、それって何だかつまらないね。」
「…つまらない?」

カグヤには、その理想がどうにも色褪せて見えた。
争いを無くす事は、確かに素晴らしい事かもしれない。
ここ数日のメサイア教団やミケーネ神等を見れば、争いはくだらないものでしかない。
だが、そんな事は“いつまでも”続けられるものではないのだ。
例えその認識が、外的要因によって崩されないとしても。

「永遠に変わらない世界を生きる者は、生き甲斐を失い続ける事になる。その時、人は壊れちゃうんだ。それすら治すんだろうけど…そうして形を保った存在は、果たして“人”なのかな?」

カグヤの言う事は、丸喜も分からない話ではなかった。
人の認知を書き換える…それは人の過去や今といった、在り方そのものを根底から変えてしまうという事だ。
その認識を不変であると定義してしまえば、人は永遠に変わらない存在として生き続ける事になる。
だがそれが本当に幸せと言えるのかは、また別問題だろう。

「“いつまでも”変わる事の無い世界。その世界の人間って、果たして“生きている”と言えるのかな?」
「……」

一息ついて、カグヤは今までの笑みを捨てて告げる。

「あたしはそんな“人形”、嫌だな。」

嫌悪に染まったその目に、丸喜は思わず息を飲む。
超常者の威圧…武道のソレと似通った圧に、丸喜は覚えのある恐怖を抱いた。

「_確かに、成長の無い人間は“生きていない”のかもしれない。」

同時に、カグヤの言う事にも一理あると感じざるを得なかった。
人は変わる生き物だ、更に言えば“成長”という変化を内包している。
成長が無ければ、人はただ生き続けるだけの肉塊に成り下がるだろう。
“人形は生きているとは言えない”
そう考えるカグヤの考えも、また一つの真理であるのだ。
きっと、ジョーカー達も、何よりクロウがそう考えている。

「けど、死ぬ事も殺される事も無い。それはきっと、“生きている実感”よりもずっと、価値がある筈なんだ。」
「生きている事よりも価値がある、か。」
「そうだ。理不尽な現実は、もう沢山だから。」

それでも尚、丸喜はカグヤの言葉に異を唱えた。
己の道を肯定する為に。
そして、生きていく上にある悲劇を否定する為に。
そんな丸喜に、カグヤは…

「そっか。」

思わず、笑みを零した。
完璧なモノに目が眩んで、憧れる。
不完全な者だからこそ成りえるその心境は、余りにも“人間”の在り様だったから。
丸喜一派という思想ではなく、ただの丸喜拓人という一人の人間を見たカグヤは、そこに“人間らしさ”を見出した。

「…?」
「うん、確信があるなら、きっと止めても無駄だね。君を止めるのは、あたしの役割じゃないし。」

丸喜の疑問も他所に、素直に引き下がるカグヤ。
争う意思が無いなら、カグヤとしても直接立ち塞がるつもりは無い。
だが。

「止めるのは、CROSS HEROESの役目。でもその前に、皆にその資格があるかの審判が、もうすぐ来る。」
「…審判。」

カグヤの告げた言葉に、丸喜は眉を顰める。

「確かに、人類全体の重合無意識が悲鳴のような物を上げている…それほどの存在が、来ているんだね?」
「そうだよ。“皆”が来ているの。」

丸喜の問いにカグヤはあっけからんと答える。
認知を操る丸喜だからこそ感じ取れた『ソレ』に、丸喜は…

「…僕はもう、戻らないと。エタニティ・コアの事もある。」
「うん、バイバイ。」

人知れず、彼は影の中へと消える。
後には、カグヤだけが残った_

11人目

「NEVER GIVE UP」

 会議室を出た廊下の一角。
そこには、明らかに空気の沈んだ一団がいた。

 キン肉マン。テリーマン。ロビンマスク。ラーメンマンら正義超人たち……
そして、バッファローマンも――腕を組んだまま、壁に背を預けている。

「……正直に言おう」

 重い沈黙を破ったのは、キン肉マンだった。

「今回ばかりは……自信が無い」

 その言葉に、誰もすぐには返せなかった。悟空やベジータですら凌駕する敵。
“火事場のクソ力”という切り札が、通じなかった存在。
奇跡の逆転ファイター、キン肉マンがこうも深く沈んでいる。こんな事は、
キン肉王座決定戦の最中、キン肉マンマリポーサ軍がひとり、ミキサー大帝によって
火事場のクソ力を封印されてしまった時以来だ。

 その時だった。

 ――ドンッ!!

 床を踏み鳴らす、重い音。

「うつむいてる暇があるなら、顔を上げろォ!!」

 一斉に視線が集まる。

 そこに立っていたのは、ウルフマンだった。
両の拳を握りしめ、鋭い眼光で仲間たちを睨みつけている。

「お前ら……何を今さらビビってやがる!!」
「ウ、ウルフマン……」
 
 キン肉マンが驚いたように声を漏らす。

「敵が強い? ふざけるな!! 今まで楽勝の相手ばっかだったとでも言うのか!?」

 ウルフマンは一歩、また一歩と近づく。

「悪魔超人! 完璧超人! どいつもこいつも、今度ばかりは“終わった”って
言われた相手ばかりだったはずだ!!」

 ぐっと拳を握りしめる。

「それでも――お前らは立ち上がった!! 勝てる保証なんて、一度だって無かった!!」
「……」

「火事場のクソ力が通じなかったから何だ!! それで諦めちまうのか!
その程度の男だったのかよ、てめえは!!」

 キン肉マンの胸ぐらを掴み、宙に持ち上げるウルフマン。
その言葉に、バッファローマンの目がわずかに動く。

「ぐ、ぐぐ……ぐるじい……!!」
「俺たちは――“力”だけで戦ってきたんじゃねぇ!!」
 
 ウルフマンは胸を叩いた。

「意地だ! 諦めの悪さだ! 99回倒れりゃ100回起き上がる!!
みっともないと言われようが! 情けないと笑われようがな!
それ全部まとめて、キン肉マンなんだろうが!!」

 乱暴に壁に向かって放り出す。沈黙の中、嗚咽混じりのキン肉マンが
ゆっくりと顔を上げる。

「……ウルフマン」
「なんだ」

「もし……それでも勝てなかったら?」

 一瞬の間。ウルフマンは、ニヤリと笑った。

「その時は――」
「その時は?」

「立ったまま、負けりゃいい」

 全員が息を呑む。

「逃げずに! 誤魔化さずに! “やれるだけやった”って胸張って、倒れりゃいい!!」

 ウルフマンの声は、怒号ではない。それは――覚悟を叩きつける声だった。
かつて、悪魔六騎士がひとり、スプリングマンに敗れた時も、彼は最後まで逃げなかった。
例え勝てずとも、退く事だけはしない。それがウルフマンを支えるただひとつの柱だ。

「俺たちは、最初から“勝つためだけ”に戦ってきたんじゃねぇ!
“生き様”を見せるために戦ってきたんだろ!!」

 その瞬間。

「……フフ」
 
 ブロッケンJrが、静かに笑った。

「まったく……説教が板についてきたな、ウルフマン」
「うるせぇ!!」

 完璧超人・クラッシュマンに敗れ去り、重篤なトラウマを刻まれたウルフマン。
一時は二度と戦列に復帰できないかも知れないとまで言われた彼が、
自分自身を奮い立たせ、キン肉マン達が不在のリ・ユニオン・スクエアを襲った
ユートピア・アイランド攻防戦を戦い抜いた功労者となった。
彼の存在そのものが、この絶望的な状況を覆すための気概……希望と言えよう。

「……よし。少なくとも、下を向いているのは終わりだ。ウルフマンの言葉、
極寒の吹雪の中でハートにウオッカを注がれた思いだぜ」

 ウォーズマンも、静かに頷いた。そして――

「ありがとう、ウルフマン」

 キン肉マンは、いつもの笑顔を取り戻していた。

「暗黒魔界に向かう前とは、立場が入れ替わってしもうたのう」
「次にまた情けないツラしやがったら、俺の張り手で気合を入れ直してやるぞ。
分かったな!?」
「応ともよ! ネバー・ギブアップじゃい!!」

 ガッツリと手を取り合うキン肉マンとウルフマン。そう、まだ負けたわけではない。
この命ある限り……だがその一方で、トゥアハー・デ・ダナンの各区画では、それぞれが
同じ重さの現実と向き合っていた。

     ◆

 医療ブロック併設の小会議室。
簡易ホログラムに映し出される、多元宇宙侵攻ルートの予測図を前に、
二人の魔法少女が並んでいた。

「……かなり、まずいですね」

 環いろはの声は静かだが、隠しきれない緊張が滲んでいる。

「暗黒魔界、ジオン族、竜王軍……単独でも世界が傾く相手が、同時に動いてる」
 
 七海やちよは腕を組み、視線を落としたまま続けた。

「希望的観測で“何とかなる”なんて言えない状況よ」
「それでも……」

 いろはは一度、ぎゅっと拳を握る。

「それでも、逃げる理由にはなりません。ここには、守りたい“今”がある」

 やちよは一瞬、目を閉じた。かつて何度も仲間を失い、“生き残ること”を
最優先にしてきた自分。だが今は違う。

「……ええ。生き残るためじゃない」
 
 彼女は静かに顔を上げた。

「“誰かが生き続けられる世界”を繋ぐために戦う。そう決めたんでしょう?」

 いろはは、はにかむように微笑んだ。

     ◆

 格納庫上層、展望デッキ。
ルフィは手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせながら言った。

「要は“すげぇ敵が山ほど来てる”って話だろ?」
「そう単純にまとめるな」

 ゾロは刀の鍔に手を置いたまま、遠くを睨む。

「だが……まぁ、間違ってもいねェ」
「だったら決まりだな!」

 ルフィは飛び降り、歯を見せて笑う。

「邪魔する奴は、全部ぶっ飛ばす!」

 ゾロは小さく鼻で笑った。

「お前はいつも通りだな」
「当たり前だ! 怖ぇからって引っ込んでたら、海賊やってられねェ!」

 一瞬、ゾロの視線が影を帯びる。

「……敵がどれだけデカかろうが、斬れねぇ理由にはならねェ」
「だろ?」
「船長が前に出るなら、俺はその道を切り拓くだけだ」

 二人の間に、言葉はいらなかった。

     ◆

 戦術解析室。重い沈黙の中、Z戦士たちが集まっていた。
それぞれの場所で、それぞれの覚悟が固まっていく。

「悟空とベジータがまたフュージョンとかしたらさ……何とかならないかな?」

 クリリンの提案。あのブロリーを港区で制した融合戦士、ゴジータ。

「そ、そうか! その手があった!」
「すると思うか?」

 悟空の言葉を即座に遮るベジータ。

「言ったはずだぞ。貴様と融合なんぞするくらいなら死んだ方がマシだとな」
「け、けどよぉ、他に何か打つ手があんのか?」
「……さあな」

 つかつかと、ベジータは背を向け歩いて行く。

「何処行くんだ?」
「こんな所で腐ってる暇は無い。ブルマ、300倍のトレーニングルームの準備をしろ」 

12人目

「覚星デュアルスターズ phase.1」

「ッ!……はぁッ!」
 東京 某ホテル

 真夜中、ホテルの屋上で天宮彩香は剣を振っていた。
 アマツミカボシの力を得て以降、彼女はずっとこうしているというのだ。

「はぁ……はぁ……ダメだ……これじゃダメなんだよ……!」
 疲れでひざを屈し、立ち止まるたびに、あの日の光景が瞼の裏に投射される。
 あの曇天の日。
 焔坂の手により降り注いだ、破滅の一撃。
 それによって仲間のほとんどを失った。

 あの日から、ずっと彼女は剣を振っている。
 もう何も失わないように、と。そう誓って。

 だが――――。
「でも、わからない。」
 いつになく弱気な物言いで、彩香は膝をついていた。
 何か、大いなる悩みを抱えているような。
 そんな表情を浮かべていた。

「そんなところで何をしているんだ?」
 かすかに、されど確かに聞こえる声がする。
 彩香が振り向くと、そこにいたのは――――ジャバウォック島から帰ってきて同じようにご無沙汰していたリクだ。
「リク……さん?」
「そんなところで何をしているんだ?もう寒いだろ。」
「あっもうこんな時間か、ありがと。」
「……。」
 彼は彩香の秘めたる悩みに気づいたのか、

「強くなりたい気持ちばかりで、どうすればいいのかが分からないんだ。」
「?」
 彩香はその悩みを、リクに打ち明けた。
「……言い方が悪かった、技術的にどんな風に強くなるべきか。それが見えないんだよ。」
「……。」
「ボクは、どんな自分になりたいのかが、分からない。みんなを守りたいのに、どういう風に強くなりたいのかが分からない。」
 愕然とした現実。
 漠然とした未来展望。
 その二つが、彩香の目の前を曇らせる。
 熱意だけあれど、その方向性が定まらない自分が悔しくてたまらない。

「ごめん、彩香さん。実は兄から伝言を預かっているんだ。」
「なんて?」
「……これ以上、戦ってほしくないと。」
 リクは続ける。
 兄からの伝言、月夜の本心を。
「そんなのって……。」
「最後まで聞いてくれ。別に追放したいわけじゃない。だけどこれ以上強くなったら、彩香はどこか遠くへと行ってしまいそうで怖いんだってさ。」
 ある意味での戦力外通告を、彩香は黙って聞いていた。
 その本心を、本質を理解していたから。
 兄は、妹を見捨てたいわけじゃない。

 むしろその逆で、妹が遠い存在になってしまうのが、怖くてたまらないのだ、と。

「お前には、強さに溺れて優しさを捨ててほしくないって言ってた。」
 彩香にはどうもピンと来ていない様子だったが、リクはその気持ちが分かっていた。

 ――――彼女が辿るであろう「最悪の未来」を想像する。
 家族の仇、復讐にとらわれて力を欲し『そうなる』彩香の姿。
 そして過去、力を求めるあまり闇に堕ちた自分の姿。

 リクには、彼女の姿がかつての自分と重なって見えた。
 だからこそ、兄の気持ちが痛いほどわかった。
「俺も、お前にはこれ以上……。」
 一通りの話を聞いた彩香は、かつてない決意を込めた瞳で続けた。
 妹からの解答を、ここにはいない兄に告げるように。
「言いたいことは分かった。でも、さ。あんな奴らを放置して、ボクだけ黙って見届けるなんて出来るわけがない。」
「……。」
「メサイア教団の、両親を殺した奴をこの手で叩き潰すまで、逃げるわけにはいかない。もしその果てにボクが闇に堕ちて世界の敵になるっていうなら、ボクは所詮そこまでの人間だったってだけだ。」
 その決意を聞いたリクは息を強く吐いた後、立ち上がった。
「お前の主張は分かった。」
 そして彩香の前に立ったかと思えば、キーブレードを手にして彼女に突き付けた。

「彩香、俺と修行しないか?」

13人目

「悪魔と悪魔、魂の交感」

 崩れかけた見滝原の街の各所で悲鳴が上がる。

「助けて……! 誰か……!」

 瓦礫に囲まれ、逃げ場を失った少女たちがいた。

 美樹さやかと、佐倉杏子――かつて剣を振るい、血を流した“戦士”だったはずの二人。
だが今の彼女たちは、ただの中学生だ。
崩れたガードレールの向こうから、魔獣が唸り声を上げて迫る。

「……っ、杏子……」
「だ、大丈夫だって……たぶん……」

 震える声で強がる杏子。しかし、足は動かない。

 ――その時。

「下がって!!」

 藤丸が、二人の前に飛び出した。同時に、巨大な盾が空を裂く。

「――はあああああッ!!」

 マシュのラウンドシールドが、突進してきた魔獣を正面から弾き飛ばす。
衝撃で地面が割れ、魔獣は呻き声を上げて消滅した。

「え……?」
「な、なに……?」

 呆然とするさやかと杏子に、藤丸が振り向く。

「怪我はない!?」
「え、あ……う、うん……」

 マシュは二人の前に立ち、盾を構えたまま微笑んだ。

「大丈夫です。ここは私たちが守ります……逃げ道、確保しますね」

 その言葉が終わるより早く、マシュは盾で瓦礫を押し退け、通路を作る。

「今のうちに、あっちへ!」

 戸惑いながらも、二人は藤丸に導かれて走り出した。
――彼女たちは忘れていた。自分たちが、かつてどれほどの覚悟で戦っていたのかを。

「何だろう……この気持ち……」
「あたし……達は……」

 彼女らの「魂」に刻まれた、戦いの記憶が僅かに脈動する……一方、別の通り。

「……きゃっ……!」

 巴マミが足を取られ、倒れ込む。その腕の中で、百江なぎさが泣きそうな顔をしていた。

「マミ……こわいのです……」
「大丈夫、なぎさ……すぐ立つから……」

 だが、魔獣の影が、ゆっくりと二人を覆う。

「……!」

 その瞬間、空気が裂けた。

「――星羅、一閃ッ!!」

 月美の声と同時に、振り下ろされる剣。魔獣の動きが、ぴたりと止まった。

「覆滅」

 霊力が弾け、魔獣は脳天から真っ二つとなり、左右の半身がそれぞれ真逆に
ズレ落ちたかと思うと、跡形もなく消滅する。

「え……?」
「……?」

 月美は二人の前に着地し、静かに言った。

「怪我は?」
「だ、大丈夫……です……」

 マミは状況を飲み込めず、困惑した表情のまま答える。
なぎさは、不思議そうに月美を見上げた。

「……おねえちゃん、誰なのです……?」
「……」

 ほんの少し、柔らかく微笑んで。


 ――クレーター中央。ディルクは、見下ろすように戦場を眺めていた。
その背後で、全身を魔獣に纏わりつかれた赤いガンダムが唸るように駆動音を上げる。

「絶望と恐怖に彩られた魂もまた、美しい。行け、赤いガンダム。蹂躙しろ。
抵抗する者すべてを」

 ガンダムのツインアイが、妖しく点滅した。

 ――ズン……!
一歩踏み出すだけで、地面が陥没する。巨腕が振り上げられた、その瞬間。

「――させるか!」

 ディケイドが跳躍し、ブッカーガンの銃撃を叩き込む。
マゼンタの弾丸が装甲に火花を散らす。しかし、有効なダメージは与えられていない。

「ちっ……硬いな……!」
「ははは! 当然だ! 次元外規格の機体だぞ?」

 ディルクが嘲笑する。

「機械を操る……まるであの男のようだ」

 ペルは思い返していた。メサイア教団の末席、クレイヴ。
自らを機械に取り憑かせる特技「機巧憑依」にてCROSS HEROESを
思わぬ苦戦を敷いてきた男。ディルクはその名を聞くと肩をすくめ、薄く笑った。

「ふん……クレイヴか。功名心だけは一人前の、あまりに素行も出来も悪い男だった。
私の“魂の蒐集”を、力ずくで横取りしようとした愚か者だ」

 侮蔑の混じった声。

「破門して正解だったよ。あれは“支配する側”の器ではない。
――操られる側がお似合いだ」

 クレイヴはディルクに破門された後、メサイア教団の大幹部として成り上がる事を
目的としていたが、その結末は惨めなものであった。

「奴の機巧憑依は自らを機械に取り憑かせる必要があったが……この私は違う。
私が手なづけた魔獣を媒介とし、それを掌握さえすれば……これ、この通り。
これがガンダム! 悪魔の力よ! それが今、私の物に!!」

 その言葉と同時に、赤いガンダムが唸りを上げた。
――ギギギギ……! 肩部のビットが展開し、赤黒い光が収束する。

「来るぞ!!」

 士の叫びと同時に、ビームが放たれた。
――ズドォォォンッ!! 街区が、まとめて吹き飛ぶ。衝撃波が、ディケイドとペルを
弾き飛ばした。

「ぐっ……!」
「……っ!!」

 アスファルトに叩きつけられ、二人は即座に体勢を立て直す。

「威力が桁違いだ……!」
「このままじゃ、押し切られる……!」

 赤いガンダムは、ぎこちない動きのまま、再び腕を振り上げる。
その挙動は荒く、どこか“焦燥”を帯びていた。

 その時だった。ペルの背後で、ふっと空気が揺らぐ。

「……ペル……」

 淡く、か細い声。振り向いたペルの視界に、淡い光の輪郭が浮かび上がる。
肉体を持たぬ、精神体のたりあだった。

「たりあ……何を……!?」

 たりあは赤いガンダムを見つめていた。

「……あのロボット……魂が……絡め取られてる……」
「やめろ! たりあ、無理をするな! 今のお前は……肉体を持たない精神体だ!
下手をすれば……」

 たりあは、ペルを振り返り、ほんの一瞬だけ微笑んだ。

「……大丈夫……これ、あの頃のペルがいつもやってた事……」

 ――コンファイン。
かつて、たりあの記憶の番人として彼女の中にその身を宿していたペルが
得意としていた技。自らの存在を“物質”や“器”に重ね、内部に干渉する危険な能力。

「たりあ……ッ」

 制止を振り切るように、たりあの輪郭が溶ける。光が、赤いガンダムへと吸い込まれた。
――暗闇。そして、閉ざされたコクピットにそのパイロットはいた。
たりあの気配に、彼ははっと顔を上げる。

『……誰だ……?』

 そこにいたのは、二つの“存在”。

 一つは、淡く揺らぐ、優しい光――たりあ。
そしてもう一つは、紫の瞳の悪魔――ほむら。たりあのコンファインの補助を
しているのだ。

「ほむらちゃん……」
「まったく、無茶をするわね。貴女を大切に想う人間の事も少しは考えたら
どうなのかしら。まぁ……悪魔が言う事ではないかも知れないけれど」

 魂の交感。そこに、時間の流れは意味を成さない。たりあが、そっと言葉を紡ぐ。

「怖かったよね……一人で……」
『……っ……』

 少年の喉が、詰まる。

『……声が……ずっと……戦え……壊せと……ガンダムが言っている……』

 ほむらの表情が、わずかに揺れる。

「……この感覚……」

 たりあも、気づいたように目を見開く。

「……似てる……」

 声の主は、姿を持たない。ただ、歌のような響きが脳裏を流れていく。
ほむらは、確信に近い直感を覚えていた。

(……ラ……ラァ……?)

 刻を超えて“何かを導く存在”。自分と、あまりにも似ている。

参加コード

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