やり直し
ふいに、光の粒子が部屋の中に流れ込んできたような錯覚に陥った。 ネオンの赤は血のようで、青は凍えた心臓のようだった。私はその光の中に手を差し出し、自らの輪郭が曖昧になっていくのを眺めていた。 これまでの私は、鏡の破片を繋ぎ合わせたような偽物だった。その一つ一つを丁寧に剥がしていく。痛みを伴う作業だが、不思議と心は凪いでいた。
繋ぎ合わされた最後の一片が剥がれ落ちたとき、そこには何が残るのだろう。
あるいは、最初から何もなかったのかもしれない。
空っぽの器が、ただ社会の期待という液体で満たされていたに過ぎない。
私は窓辺に腰掛け、夜風に身を任せた。冷たい風が、私の中に澱んでいた醜い熱を少しずつ奪っていく。
夜が明ける頃には、私はきっと、名前も過去も持たない「無」という名の新しい生き物になっているはずだ。
最後の一片が指先からこぼれ落ちた。鏡の破片が床に散らばる音さえ聞こえない、完全な沈黙。
私は、自分がもはや「私」ですらなくなったことを悟った。視界から色が消え、ただ輪郭だけが存在する世界。
窓の外を見れば、街は相変わらず卑俗な喧騒に満ちている。
視界が歪んでくる。
私はもう私じゃないと分かっているはずなのに。
気づけば「感情が何かわからなくなっていた。」
ああ、感情も全部偽物なんだな。
もう何もわからなくなるかもしれない。
夜明けが近づいてきた。
山の稜線(りょうせん)が明るくなる…もうすぐ太陽が姿を現すだろう。
その明るさと温もりだけが、私が まだ存在している証。
もう何も見えず、聞こえず、匂いも感じられない。
体の感覚も、どんどん無くなっていき「無」という名の新しい生き物に近づいていっている。
その変化に対しても偽物の感情を捨て去った私は何も感じない…。
淡々と、その変身を受け入れる。
私とそれ以外を区別する境目も消え、無しかなくなる。
数日後…部屋の中で、命もなにも無い からっぽの腐った肉の塊が見つかった。
・お好きなので、どうぞ…。
①「ウヴォァ~、いらっじゃいませ~」
私は可愛いバイオ・ゾンビになった。
②「コイツは酷いな…今月で【無】になったのは何人目だ?」
仏さんの顔を見ながら、警部は聞いた。
③その肉塊からは、人として大切な何かが失われていた…。
それは…