書かれていく
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500文字以下
20人リレー
3日前
126回閲覧
*
1人目
一日経つたびに、私の記憶が一ページずつ、このスケッチブックに吸い取られていく。 昨日食べたものの味、初恋の人の声、母親の顔。それらが頭から消える代わりに、スケッチブックの絵や文字が鮮明になっていく。
未定
2人目
違和感に気づいたのは、母の顔のページだった。 スケッチブックに描かれた母は、優しく微笑み、私の好物であるアップルパイを焼いている。しかし、インクの隙間から、消えかかった本物の記憶が疼いた。——母は、私が幼い頃にギャンブルに入れ込んだ挙句に借金だけ残して家を出たはずだ。
私は戦慄した。
この本は記憶を保存しているのではない。私の過去を、都合のいい「美しい物語」に書き換えているのだ。 ページをめくる。
そこには、身に覚えのない輝かしい功績や、幸福な家族の風景が並んでいる。
*
3人目
私は震える指で、カサカサに乾いた自分の頬に触れた。
鏡を見れば、不摂生と孤独で荒れた肌に家賃を滞納している薄暗いアパートの壁。苦労が続き、老け込んだ顔は50歳過ぎに見える。
しかし、スケッチブックの中の「私」は、海辺の別荘で友人たちに囲まれ、屈託のない笑みを浮かべている。
「…こっちが、本当ならよかったのに」
一度そう思ってしまうと、もう止まらなかった。
現実の私は、奨学金の返済に追われ誰にも愛されず、ただ生きるために泥を啜るような毎日だ。
一方、紙の中の人生は、色彩に溢れ、愛に満ちている。