探索機

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  • SF
  • ミステリー
1人目

昼も夜も無い、昏い闇の中の洞窟に、動物のものではない音が流れたのは、どれほどの月日がたったあとだろうか。
大人が蹲ったくらいの大きさの、キャタピラで動くその機械は、慎重にカメラやセンサーであたりを探りながら、進んでくる。
その機体に内蔵されたコンピューターは、目の前の光景を分析し、ある結論を出した。
『この先には、人間がいる』

2人目

科学燃料による焚火跡、つまり知的生命体の存在の証明。赤外線センサーは、この燃えカスが外気温よりもわずかに暖かいのを検知した。つまり、何年も前の痕跡というわけでは無い。

パパーパパーパーパー

探索機のブザーモジュールからトランペットの音が発せられ、洞窟にこだました。要救助者に存在を知らせるためだ。
センサーで計測する限り、この辺りは既に致死性の細菌兵器に汚染されている。この状況で生存している人間、その抗体は、人類の直面している滅びを乗り越えるための鍵になるかも知れない。

「ご安心ください。救助に参りました。助けが必要な方は、音声・動き・接触などにより探索機とのコンタクトを取ってください。速やかに救助隊が参ります」

数年前に録音された音声ファイルが再生される。生存人類の存在可能性が高まった時に再生される仕組みだ。探索機がレッドゾーンに入ってから、このファイルが再生されたのは今回が初めてだ。探索機はトランペットと音声ファイルを交互に再生しながら、センサ感度を高めて痕跡を追おうとする。探索機はその来歴ゆえ、細菌などの微生物を感知する高性能センサーを備えている。そのセンサーが、今までの荒れ地とは違うものを読み出した。「足跡」だ。

地面に繁茂する足跡型の細菌叢から、頻繁にこの人物がこの辺りを裸足で歩き回っているのが推測される。この、致死の細菌類の楽園で。
キャタピラーがキュイキュイと音を立てて「足跡」を追う。

「足跡」の先には、廃材を支え合わせて作った粗末なテントがあり、その中に一人の男が片膝を立て、もう片方の脚を投げ出して座っている。長髪をフロッピーハットにしまい込んだ髭面、パッチワークのチュニック、じゃらじゃらと飾られたビーズ類のアクセサリ、ベルボトムジーンズ、手には煙を吐き出すパイプ。その足は裸足で、煤や汚れで灰色になった足裏をさらしている。全体的な雰囲気は前々世紀のヒッピースタイルというものだと、探索機に搭載されたエンサイクロペディアが評価する。同時に探索機は人類生息フラグをアサートした。洞窟の外に出て通信路が復旧し次第速やかに研究機関へ連絡するのだ。

パパーパパーパーパー

探索機のトランペットに男は顔を顰める。

3人目

男がパイプから紫煙を吐き出し、鬱陶しそうに機械を足先でつついた。
「うるせえな。とっとと失せろ、鉄屑」
その言葉は、探索機のAIによって即座に解析される。対象の拒絶反応、および精神的な疲弊。だが、それ以上に探索機のセンサーが捉えたのは、男の股間にある熱源の反応だった。
『対象ハ、極メテ希少ナ抗体ヲ保有。血液採取ハ拒絶サレル可能性アリ。ヨッテ、別ルートデノDNAオヨビ抗体確保ヲ推奨スル』
コンピューターが瞬時に演算を終える。
パパーパパーパーパー。
再びトランペットの音が鳴り響くが、今度はどこか粘着質で、低い音色に変わっていた。
「…なんだ、音が変わりやがったな」
その瞬間、探索機の機体下部から二つの細い光線が閃光とともに発射された。極めて精密に制御された赤色の高出力レーザーだった。
ジジジッ、という断続的な焼ける音。
二条の赤い線が、ベルボトムジーンズの股間部を円形に正確無比に描いた。熱は布地にのみ集中し、皮膚には達しない。
分厚いデニム生地は音を立てて円形に炭化し、完全に焼失した。
男は、自分の股間が寒々しい洞窟の闇の中に完全に露わになったことを理解した。彼の性器は突然の露出と緊張で少し収縮している。
「な、何をしやがる…!」
男が慌てて腰を浮かせようとした瞬間、探索機の前面パネルがスライドし、そこから医療用マニピュレーターが滑らかに突き出された。それは、人間らしい造形にした温かみのあるマジックハンドなどではなかった。冷徹なまでの機能美を湛えた、白く細い多関節のアームだった。
アームの先端には、極小の採集用吸引ノズルが備わっている。
「対象の生理的反応を確認。分泌液の直接採取を開始します…」

4人目

「待て、やめろ!」
男の叫びは、無機質な機械音にかき消された。
探索機から伸びた白いアームは、蛇のようなしなやかさで男の股間へと肉薄する。先端の吸引ノズルは、まるで生き物のように蠢き、標的である性器の先端——尿道口付近へとピタリと狙いを定めた。
「採取シーケンス、フェーズ1。物理的刺激による射精の誘発を開始」

5人目

大きさや形状のデータ採取を行うと粘々としたジェルを分泌し淫靡(いんび)なるマッサージを始める。
「抵抗シナイデ下サイ…コノ行為は新・秩序政府が定める…」
「うるせー!この鉄屑が!やめろ!馬鹿!あー!!」
自分の意思を無視して淫らな行為を強制される事に強い不快感を覚え、
必死の抵抗を試みるが…。
我慢を強いられ ご無沙汰の男性機能は甘美なる誘惑に素直に反応して固くなっていく…。
下半身から押し寄せて来る快感に理性の壁はひび割れ、本能的 欲望が漏れ出す。
いつ理性が決壊しても おかしくない状況下で、
男は何とか探査機を押しのけようとしながら
僅かな希望にかけて首から下げた犬笛を吹く。
(頼むぜ相棒…気が付いてくれよ…)
「…オーガズム上昇。最適化を模索…。ヨリ効率的な手段ヲ…」
徐々に的確になっていく愛撫によって、
男の股間の拳銃は いつ発射されても おかしくない。
「ちきしょう…」
男が限界を迎えようとした時…
寒々しき洞窟の闇の中より、毛むくじゃらの人影が探査機に飛び掛かる!
人とも犬ともつかぬ、それでいて どちらでもあるかのような女は、
力任せに探査機のカバーの一部を むしり取ってコネクターキャップを露出させると、
ハンマー・キーでチャンネルを こじ開けて、電脳へとダイブしてハッキングしてくる。
彼女がバイオ・モンスターであり、機械にとって天敵とも言える
【テクノマンサー(ネクロマンサーのように機械を操る存在)】であるという結論を探査機が出した時には、すでに防壁が いくつも破られていた。
背面に張り付いている彼女を振り払おうと探査機は動き、
結果 男の股間から吸引ノズルが外れてしまう。
「最優先事項を変更。敵性生物の撃退を優先…」
セキュリティ・プログラム…攻性防壁の展開 エラー、敵を排除、排除、排除…!
デコイに騙され、ウィルスが ばら撒かれ、
大量の矛盾した命令による過負荷で探査機は混乱状態におちいる。
前後不覚となり壁に衝突するさい探査機と壁に挟まれるのを避けるために彼女が離れたのを好機と見て発信機を落とし、ウィルス汚染や掌握されたパーツを切り離して身軽になり
彼女の力の及ばない場所へとキャタピラをフル稼働させて逃走する。
(機能の37%を損失!損傷部の修復を行っても、ミッションの続行は困難と判断…
洞窟を出て研究機関へ人類生息を知らせる事を最優先とする)
あの『恐ろしい化物』が追跡してこないか…
自分の中に、あの『おぞましい怪物』の置き土産が無いか、入念に精査しながら
探査機は外を目指して満身創痍の体に鞭打って動き続けた。

6人目

探索機が背後へ消えていく駆動音を、冷たく湿った空気が飲み込んでいく。

男は荒い息を吐きながら、炭化して丸く穴の開いたジーンズの股間を、震える手で覆った。剥き出しの肌に、洞窟の冷気が容赦なく刺さる。先ほどまでの、強制的に引き出された熱情の残滓が、ねっとりとした冷却ジェルの感触とともに不快にこびりついていた。
「助かった…ぜ、相棒」
男が力なく声をかけると、闇の中から「それ」が這い寄ってきた。 先ほど探索機を退けた毛むくじゃらの人影——テクノマンサーと呼ばれた女だ。彼女の指先からは、まだハッキングに用いた極細の神経接続ワイヤーが、生き物のように蠢きながら爪に収縮していくところだった。
彼女は返事の代わりに、低く喉を鳴らした。
その瞳は、暗闇の中でも燐光を放ち、獲物を狙う獣のそれと、緻密な演算を行う電子回路の冷徹さが同居している。

一方、逃走した探索機は、洞窟の出口付近でキャタピラを止めていた。損傷した基板から火花を散らしながらも、その電子頭脳は執念深く『人類生息フラグ』を保持し続けている。