Nakajima Bros.

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1人目

「ハッ…!?ここは」
(荘厳なメロディー)
「ここは天界。あなたは死んだのです」
俺の言葉に答えたのは、美しい女神だった。
「エっ!?死……そうだ、俺はトラックに轢かれて」
「ですが……申し訳ありません。あなたは今日死ぬ定めではなかった。私が下界へ遣わした天使の手違いだったのです」
女神が下唇を噛む。
「本来であれば、あなたの魂を蘇らせるのが筋ではあるのですが、現在、神の奇跡を軽々に行使するわけにはゆかないのです」
そこで――、女神は言葉を切った。
「あなたを死なせたミスを犯した天使をあなたの供として、異世界にて転生させます。滅びゆくその世界を救ったなら、その功を以てあなたに再度の生を授けます。
また、使命を達成するため、あなたに神の奇跡の一端を預けましょう」
(これはもしや……?)
「あなたの相棒となる天使を呼びます。あの者の手違いによりあなたは死にました。容赦なくこき使いなさい」女神は振り向いて、扉に呼びかけた。「来なさい中島!」
「あいよー!」
扉を開け現れたのは、虹色の背広を着たオッサンだった。
「えろうすんまへんでした……まさかトラックの運転があんなに難しいとは思わんかって」
「轢いたのお前かよ!!!」
「ちゃうねんちゃうねん!ホンマはブレーキ間に合ったんやけど、いっぺんサイドブレーキで止まるってやつやってみたかってん!」
「最悪じゃねーか!!!」
「そしてあなたにはスキル『一度ウケたネタがいつまで擦っても大丈夫か見極める眼力』を授けます」
「待てや!!!!!!」
「さあ勇者よ、ゲイノー界を救うのです……」
(救うのです…です…です…です…)
「エコー掛けんな中島ァ!」
強烈なめまいと吐き気とともに、世界が遠ざかる……
(嘘だろこんな……せめて相棒天使は美少女であってくれよ……!)
意識が途切れ――
――どうもー!中島ブラザーズでーす!」
「なんで俺の名前が入ってないんだよ!!!!!」
俺はゲイノー界の兵士養成所で、魔物「チューバー」と闘うため、漫才の特訓を重ねていた。
なんでも、魔物「チューバー」は笑う度に弱体化するため、兵団には専門職として道化師が割り当てられているらしい。俺たちは漫才を武器に売り込んでいた。
「はい、というわけでカラフルな中島と地味なジェファーソンでやっていきたいと思いますけども」
「一文字も合ってねえよ!俺は山田だよ!いい加減に覚えろって!ということで、名前だけでも覚えて帰ってもらえたらと思います」
「ね?漫才の頭でよう言いますやろ、「名前だけでも憶えて」って」
「なんだよ、別にいいだろ。定番の挨拶だろが」
「何言うてんねん!ジブンの名前の覚えにくさを理解してへんねんから…」
「やまだだよ!やーまーだ!覚えやすい日本人の名前ランキングトップ10に入るわ!」
「それや!!!!」
「なにがだよ」
「ワイもな、もうちょっと覚えやすい名前やったらよかったのにっていつも思ってんねん」
「中島も大概覚えやすいだろ」
「もっとジェファーソンとか、そういう名前やったら憶えやすいのにって」
「ジェファーソン好きすぎか!お前の顔めちゃくちゃアジア人だろが!」

2人目

「別に好きじゃないわ!ジェファーソンは響きがグローバルだから、なんかネタが滑っても『文化の違いでウケなかった』って言い訳できるやろ?」
「待て待て、そんな後ろ向きな姿勢でどうやって世界を救うんだよ!俺たちのスキルをちゃんと活用しろ!」
俺は深呼吸し、改めて中島を睨む。

3人目

「…はぁ。それや、その『正義の味方』みたいな顔。ほんま虫酸が走るわ」
中島は露骨に顔をしかめ、舞台の端へ歩いていった。
「…なんだよ。真面目にやって何が悪いんだ」 「真面目ちゃうねん。お前のは『独りよがり』や。世界を救う自分に酔ってるだけやろ? ワイはな、お前のその、1ミリの遊びもない、教科書通りのツッコミがずっと息苦しかったんや」 「特訓なんだから、正確にやるのは当然だろ!」
「その『当然』が人を殺すんやで。お前と漫才やってると、魔物を倒す前にワイの心が死ぬわ。…なあ、もう中島ブラザーズ解散せえへん? ワイ、次はもっと不真面目で、もっと『汚い』奴と組みたいねん。お前みたいな綺麗なもんは、一人でどっかの記念碑にでもなってろや」

4人目

「…汚い奴と組みたい? それ、本気で言ってんのか」
怒りを通り越し、蔑みに近い感情が漏れ出す。
「ああ、本気や。不謹慎で、不真面目で、でも人間臭い奴や。お前みたいな『清廉潔白なサイボーグ』と心中するのは御免やわ」
「お前がただ不真面目なのを、こっちのせいにするなよ。お前がネタを飛ばすたびに、俺がどれだけフォローしてきたと思ってる? お前のその場しのぎの『遊び』は、ただの怠慢だ。お前は笑いを作ってるんじゃない、俺に甘えてるだけだろ」
「…言うたな。一番言うたらあかんこと言うたな」
中島の目が鋭く光る。