勇者は必要なのか

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1人目

『勇者』とは一体なんなのだろうか?
魔王を倒す為に召喚された救世主であるはずなのに、彼は一度も戦わずに仲間達に全てを任せきりで自分は安全な場所でふんぞり返っていた。
『勇者』はこんな現状を認識すらしていない。
それどころか自分が勇者だと自覚しているかも怪しいものだ。金と地位に溺れて遊び呆けているだけのただの馬鹿野郎にしか見えない。
一部の冒険者達は『勇者』をまるで神の様にあがめているが、それ以外の者は彼を居ないものとして扱っている。

2人目

召喚士のエドセルは、その両者でもなかった。勇者に、勇者として立ってほしいというのが彼の考えだった。勇者は神ではない。だが、だからこそその勇者たるゆえんを世界に示す必要があると考えているのだ。
それには彼の師匠であるマーキュリーがも原因だった。マーキュリーは当代最高峰の召喚術の使い手であり、勇者を召喚したのも彼であった。そしてその勇者が今の体たらくであるために、マーキュリーの名誉は穢されてしまっていた。エドセルは勇者を諫めるように何度も師匠に伺いを立てたのだが、師匠は気乗りしない様子で、いつかあの勇者も必要になる時が来る、と言って会話から逃げてしまうのだ。
エドセルは、実際に勇者と対面し、その心を問うことにした。
勇者が王に用意させた御殿に足を踏み入れると、そこらじゅうで娘たちの軽薄な声が上がっている。エドセルは眉を顰めながら、その声のひときわ大きく甲高く響く一角に案内された。
勇者はまるで玉座の様に豪華な椅子にだらしなくもたれかかり、側女の肩に腕を回して彼女の耳を弄りながら、田舎者の召喚士の到来を待ち受けていた。上半身裸の半裸に、マントを羽織っている。
「お初にお目にかかります。召喚士のエドセルと申します。召喚士マーキュリーの弟子でございます」
エドセルは慇懃に頭を下げ、勇者の出方を覗う。
「マーキュリーの……彼の弟子か。では人に聞かせられぬ話もあろう。これ、外へ出て遊んでなさい」
勇者は側女を部屋から出し、王座に座り直してエドセルに視線を向ける。堂々とした体躯に、歴戦の戦士然とした傷跡が走る。かつては引き締まっていただろう筋肉質な体には、やや脂肪の気配が忍び寄っている。
「して、何用かな。あの召喚術師の弟子が、俺にしたい話というのは?」
「恐れながら申し上げます。……あなたの勇者としての実績についてです」
「楽しい話では無さそうだな」
勇者は口の端に薄い笑みを浮かべている。
「勇者として魔軍との前線にも立たず、このような場所に閉じこもって飽食淫蕩の限りを尽くしておるばかりと、市井の口さがないものたちが申しております」
「事実だ。何の申し開きのしようも無いぞ」
エドセルは、勇者が反論する者だとばかり考えていたために、二の句が継げなかった。
「俺は、ここで飽食淫蕩の限りを尽くしている」
「な、なぜですか!あなたがそのようなことをしているから、師匠は蔑まれているのです!」
勇者はすくと立ち上がり、脇に立てかけていた剣を取る。
「この剣は、お前の師匠が俺を召喚した時に身に帯びていたもの。その瞬間の十年前より俺の手にあったもの」
勇者の持ち物としては質実剛健な造りであり、華美な装飾は見当たらない。
「ここに来てからは振っていない。なぜか?それは、お前の師匠の為にこの剣を振るまいと自らに誓ったからだ。あの時、あの召喚の光が俺の体を包んだ時。それは、俺が俺の仇に最後の一太刀を振るうその時だった。俺は、あの瞬間のためだけに生きていた。そして、気付けば俺の剣は空を裂き、自らをどことも知れぬ城の一室に見出した。俺の十年は無駄になった。そしてそう、それはお前の師匠の所為なのだ。
……俺はかつてあの地で勇者と呼ばれていた。俺を勇者と呼ぶことを許したのはあの地の者たちだけだ。この地の民草など知ったことか」