ケフィアの秘宝 - Treasure of Kefia - Ep.2

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  • ファンタジー
  • ホラー
  • 登場人物が死ぬの無し
  • 性的描写有り
  • 歴史・時代
1人目

ハリスが退却を考え始めたその時、ホールの上空…虹色の光が最も強く降り注ぐ中心に変化が起こった。
空虚だったはずの空間に、濃密な「何か」が凝縮し始めたのだ。
空虚だった空間に凝縮し始めた「何か」は、みるみるうちに形を成していった。
それは巨大な虹色の水晶の塊のようでもあり、あるいは複雑に絡み合う光の網のようでもあった。
その中心からは、ホール全体を揺るがすほどのうねるような振動が発せられ始めた。
男たちの呪文がその振動に合わせて熱狂的な高まりを見せる。
彼等の全身の筋肉は汗でぐしょぐしょになり、その瞳は光の塊に釘付けだ。
「何かが起こる…」
理性の最後の砦が警鐘を鳴らした。この狂気と力の形成に立ち会うことは、自分自身を彼らの生贄にすることに等しい。ハリスは、彼らに背を向け、音を立てないように慎重に、来た道である光の通路へと引き返した。

通路のルーン文字の光は強烈で頭痛を誘発する。ハリスは半ば意識が朦朧としながらも通路を抜けた。ツルハシや衣服が残された元の坑道へと飛び出したとき、彼は安堵の息をつく。
だが、その安堵は一瞬で打ち砕かれた。
「おい、ハリスは見つかったか?」
「いや、影も形もないぜ。野郎、どこに逃げやがった?」
坑道の出口付近から、別の男たちの声が聞こえてきた。
ハリスが顔を向けると、そこには五、六人の屈強な男たちが立っていた。彼らもまたツルハシ等の道具を持ち、明らかにトレジャーハンターであることが見て取れる。
しかしただのトレジャーハンターと違うのはハリスに対して明確な殺意を持っていることだ。
あの時目撃したのはたった数人だったが、祈りを捧げる男達の人数は十数人は居た。もしかしたら自分を狙う男達は予想よりももっと多いのかもしれない。
現に今、増援らしい集団が出入り口を塞いでいる。あの集団を相手にするのは自殺行為だ。
ハリスは必死に思考を巡らせた。
このままでは袋のネズミだ。
奥に逃げればあの異様な儀式の場に戻ることになる。しかし出口はトレジャーハンター達に封鎖されている。

ハリスの心臓が激しく脈打った。出口は完全に塞がれている。
このままここで見つかれば問答無用で始末されるだろう。彼らの殺気は、隠しきれないほど濃厚だ。
「奥に…戻るしか…!」
彼は、頭の中で一つの確信に至った。あの狂気の儀式と、それが生み出しつつある「何か」――あの「光の凝縮」は、彼らが集中し、全神経を注いでいる場所だ。
もし、あの場に戻ったとしても彼等はハリスの存在に気づかない可能性が高い。もはや彼等の目的はハリスではなく、「光の凝縮」にあるのだ。
ハリスは坑道の奥へと身を翻した。
「おい、待て!」
このタイミングで出入り口のトレジャーハンターに気づかれたのは完全な誤算であった。
ハリスは、彼等が諦めて去った後でこっそり元の坑道に戻り、静かに立ち去るつもりだった。
だが、状況はそれを許さなかった。
ハリスは追いつかれぬように全力で走った。背後から男たちの荒々しい足音が迫ってくる。追いつかれれば終わりだ。捕まれば間違いなく殺される。
ハリスが光の通路に逃げ込んだ瞬間だった。彼の視界は真っ白に染まった。
最初は洞窟の崩落により土砂に飲み込まれたのかと思った。
しかしどうにも感触がおかしい。
身体を包む温かさ。それに意識が遠のくような恍惚とした感覚。
それら全てが混ざり合って思考力を奪っていく。
このまま何もかも放り出して眠ってしまいたい。
ハリスの周囲にはトレジャーハンターの男達までもが漂っていた。
彼等は皆、意識を失ったかのように無抵抗に浮遊していた。血走った眼差しは消え失せ、虚ろに開かれた瞳孔にはただ鈍い光が宿っているだけだ。
「あ…ぁ…」
言葉にならない呻き声をあげながらついにハリスは意識を手放した。