人食いの森の山賊
「【人食いの森】か」
次のイベントの目的地の名前が表示された。
そして、この森で起きるイベントの内容が表示される。
『山賊団の襲撃』
山賊団のアジトに忍び込んだ主人公パーティが、リーダーである山賊団長と一騎打ちを行うというものらしい。
人食いの森と山賊で要素が散らかっている気がしなくもない。
そもそも人食いの森とまで呼ばれる場所にアジトを作った山賊団が無事で済むはずがない。
山賊団が森の怪異に襲われない理由があるのだろうか?そうでなければ自分の命すら危うい場所を選ぶはずがない。
主人公パーティーは、目的地である人食いの森へと辿り着くと、目の前の光景に衝撃を受けていた。それもそのはず、人食いの森という名前から、モンスターがウヨウヨしているのかと思っていたが、ごく普通の森であった。
「どういうことだ!?」
パーティーリーダーが驚く。
「分からないわ。でも、今のうちに進みましょう」
前衛の女性剣士が言う。
「なら、タンクの俺が真っ先に進もう」
「万が一のために、自然治癒の魔法をかけておくね」
タンクの男性は盾を構えたまま進んでいき、後方からヒーラーの女性が自然治癒魔法を展開していた。
パーティーメンバーが奥に進むと、一人の男性が現れる。
「やっときたか、お前たちの相手になる俺が山賊のリーダーだ。俺との一騎打ちをしてもらうが、その前に俺のところに辿り着けるか見ものだな」
山賊のリーダーは、懐から注射器のような物を取り出すと、森の木に注射をしていく。注射をされた木々はまるで、生きているかのように動き出して、主人公パーティーへの襲撃を開始する。
「いま一騎打ちって言わなかった??なのになんでモンスター出してるのよ!!」
動き出した木のモンスターは枝を伸ばして攻撃してくる。人間で例えるとそれはまるでたくさんの手があるようなものである。
タンクの大きな盾でもたくさんの攻撃は防ぎきれない。
パーティーは絶体絶命のピンチになったのである。
「いいことを思いついたわ!!」ヒーラーの女性がそう言うと木に向かってヒールの魔法を唱えた。
人には癒しの魔法が邪悪なものにとっては逆の効果になるのである。
ヒーラーの機転で木のモンスターはたちまち力が弱っていったのであった。
「ナイス、ヒーラー!このまま一気に決めるぞ!」
リーダーが声を張り上げ、モンスターに斬りかかろうとしたそのとき、木のモンスターは、残された最後の力を振り絞り、ヒーラーに狙いを定めて細い枝を放った。
「危ない!」
タンクの男が叫び、とっさに防御魔法を唱えるが展開が間に合わない。
木のモンスターはヒーラーを半ば自身に埋め込まんばかりに枝や蔦で抱擁し、そのまま息絶えてしまう。
「く……固い……!とても出られないわ……」
ヒーラーは締め上げられた枝を振りほどこうとするが、力を入れてもびくともしない。
「クソ!少し待っていてくれ!タンクの戦士が斧を持って――」
パーティーリーダーの声を山賊頭のだみ声が遮る。
「一騎打ちの最中によそ見とは、余裕だなァ色男さんよ!」
「――ッ!」
鈍い打撃音。リーダーの視界が一瞬闇に沈み、遅れて衝撃と痛みが後頭部に炸裂しているのを知覚する。視界一面に赤茶けた地面が広がり、顔面の肉に小石を食い込ませながら強かにたたきつけられる。追撃を迎えるためすぐさま転がり、体勢を崩しながらも半身に剣を構えると、山賊頭はにやにやとリーダーを見下ろしている。
「泣いているのか?」
侮辱。この男は楽しんでいる。リーダーは奥歯をかみしめる。反射だ。顔が削れれば涙が出るのは体の反射に過ぎない。だがリーダーは言い返さない。心をざわめかせて勝てる相手ではない!今は敵を観察することだ!
そのこん棒は地面に立てれば肩ほどまでありそうなほど長く、有刺鉄線が幾重にも巻かれてた打撃部には、べっとりと赤黒い血糊が粘りついている。
「てめえッ!」
不意を打つタンクの背後からのシールドバッシュ!
山賊頭は身の丈ぶんも垂直に飛び上がって避け、そのまま肩に着地!右足が振り上げられ、流れるようにタンクの鼻っ柱に踵が叩き込まれた。
「おぶえっ!!」
パーティーリーダーは戦慄する。
(パワーだけじゃない……。体術も一流だ。こんな奴がいるなんて……!)
「一騎打ちの邪魔する奴ぁ……人食いに食われちまうぞぉ?」
山賊頭はところどころ刃の欠けた鉈のような刃物を取り出す。
「まいったなぁ。ダンジョンでイイ感じに柔らかくなるまで殴られてもらう予定だったのに、もう下ごしらえがすんじまった……」
「ひ、人喰いの……森……」
ヒーラーが震える唇で言葉を紡ぐ。
「そうさお嬢さん。ここは人喰いの森さ。人喰いが支配するこわーい森さ」
山賊頭の言葉に、パーティーリーダーは恐怖を通り越して疑問に駆られていた。
(なぜたかが山賊の頭が、これほどの体術を身につけている?この動き、俺が若かりし頃に教えを請うた、武術の達人のそれに酷似している…!)
パーティーリーダーの脳裏に、今はもう姿を消した師の姿が浮かび上がる。山賊頭の構え、踵を打ち込む瞬間の重心移動、すべてが師匠の教えと寸分違わぬものだった。
「お前…!一体誰からその技を教わった!」
「誰から教わっただって?誰からも教わっていないぜ。俺はな、一度見た技は完全に覚えられるだよ。この技も俺に殺されたやつが使っていた技さ」
「う、嘘だ!!その技は俺の師匠の技だ。師匠が死んだなんて、信じない!!」
パーティーリーダーは、衝撃の事実を聞かされるが、必死に否定していた。
「嘘じゃないさ。この技を使っていた奴、なかなか手強かったが、最後は泣きながら命乞いをしていたぜ……」
山賊頭は、思い出しながら、笑っていた。
「ふざけるな……師匠を侮辱するな!!」
パーティーリーダーは、何も考えずに怒り任せに立ち上がって、山賊頭に殴りかかろうとする。
それは、彼の人生で最も愚かで、最も衝動的な行動だった。彼の脳裏には、師匠の厳しくも優しい顔が焼き付いていた。
それを汚した男を、許せるはずがない。
「へへ、ガキみてぇな突っ込みだ。お前の師匠も、最期はもっと情けない声で叫んでたぜ」
山賊頭は、パーティーリーダーの攻撃を交わして、お腹に重たい一発を喰らわしていた。
「ぐはっ!?くそ、なんとしても倒さないといけないに……」
「お前にはもっと絶望してもらうとするかな……」
「い、一体何を……ま、待て!!」
パーティーリーダーは、痛みで動けないでいると、山賊頭は、パーティーメンバーの女剣士とヒーラーに近づきつつあった。
「お前に、選ばせてやるよ。そこの女剣士と身動きのとれない女ヒーラーとどちらを殺してほしい?ハッハハハ……」
山賊頭は、地面で倒れているパーティーリーダーを見ながら、高笑いをしていた。
「そ、そんなの選べるわけないだろ!!」
「フッ……そうかいそうかい。選べないなら両方殺すしかないかな……」
山賊頭は、女剣士の身体を羽交締めにしてから、女ヒーラーに近づいていた。
「くそ……どうすればいい。タンクは、気を失って動けない。彼女達を助けられるのは、俺しかいないのに……」
パーティーリーダーは、涙を流しながら、地面を掴んでいた。
「リーダー、今までありがとう。山賊頭さん、私を殺してちょうだい」