発掘

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  • 性的描写有り
  • ファンタジー
  • ホラー
1人目

ザッ!ザッ!

ゴゴゴ…!


ヘルメットに取り付けたライトが、岩肌と土を照らし出す。それ以外の場所は、跳ね返った光がうっすらと照らすのみ。

岩を削るツルハシの音、時には岩を砕く削岩機の音。
2人の男が、洞窟を掘っていた。
手を休めた1人が言った。
「そろそろ出てきそうなもんだが、本当にこっちで合ってるのか?」
「この絵図を解読した通りなら、もう少しで何かに当たるはずだ」
もう1人が取り出したタブレットも画面に、古い絵図の画像が映っている。
計算した数値や、書かれた内容の解読文があちこち書き込まれている。
「ここがこの洞窟の入り口、俺らはこう来たから、今はこの辺りだ」
「そっか。あれだけ掘れば、今頃この辺りだな」
画像上を指でなぞって説明されて、もう1人も納得した顔になった。
そしてようやく小さな青銅の壷を掘り出すのに成功した。
その壷には絵が描かれていた。それは、全裸の剣闘士のような男が背中に2本の剣を背負っている姿だった。
「おっしゃあ!」
二人は喜びの声を上げた。
「間違いない、これだぜ!」
「ああ、やっと見つけたぞ!」
掘り出された壺は、土まみれだったが異様な輝きを放っていた。

2人目

ふたりは壺の光には気づかない。ヘルメットに備え付けられた明るいライトが照らす中では、ぼんやりとした光は知覚できないのだ。
「とりあえず開けてみようぜ!」
ツルハシを持った一人が、壺の口を封じる動物の革をつんつんとつつきながら提案する。革は口を覆い、首のところで革ひもにぐるぐるにまかれている。
「まあ待て。ここで不用意に触ってふたがボロボロになると、持って帰るときに中身がこぼれるかもしれん。開けるのは外に持ち出してからだ。」
携帯削岩機の男の答えに、ツルハシ男は眉を顰める。
「つまらねえの……」
「我慢我慢。なあに、ここに到達するために費やした年月を思えば、この程度――な、何を!?」
ガキィン!
削岩機男の耳を掠めて、ツルハシが硬い岩盤に突き立てられる。
「そんなつまらねェえ男をぉオオおぉお!」
ツルハシが再度振り上げられる!
「相棒だなんて思えねえェよなァアああああ!?」
ガキィン!黄色い火花がパッと飛び散った。ツルハシはヘルメットに直撃し、ガン、ガンと音を立てながらいずこかへと吹き飛ばされる。
「何をしている!この!気が触れたか!?」
「逃ぃぃぃぃぃげぇぇぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅなアああアアアあアア!!!」
ツルハシ男は口角に泡を浮かべ、焦点の定まらない目で遮二無二ツルハシを振り回す。
「こなくそおッ!」
削岩機男は姿勢を低くするとそのままタックルし、低い姿勢から体を掬い上げると、持ち上げ、地面に叩きつける!
「なぐッ」
衝撃にツルハシ男は肺の中の酸素を吐きつくし、盛大に噎せ返る。
「ハーッ!ハーッ!」
激情と困惑の中、一瞬の隙を得た削岩機男は光を欲し、首を振ってどこかに落ちているはずのヘルメットを探す。そして気が付いた。さっき掘り出した壺が異様な光を放ち、まるで靄のような光る道筋が、ツルハシ男の口、鼻の孔へと続いている。
「ま、まさか!?」

3人目

削岩機男は、ツルハシ男の口と鼻へと流れ込む光の筋を見て、直感的に悟った。
この壺はただの埋蔵品ではない。何かを放出し、ツルハシ男はそれを吸い込んでいる。
「何が起こっている!」
削岩機男は放出を止める為に壷に近寄る。
しかし、その壷は奇妙な熱を帯びていて触ることすら出来ない。
「熱い!」
ツルハシ男の体内では、今まさに猛烈なエネルギーが嵐のように暴れ回っていた。それはまるで、熱されたマグマが血管を駆け巡るような感覚。骨が軋み、筋肉が焼き切れるような激痛が全身を襲う。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ツルハシ男は絶叫した。その声は人間の発する悲鳴というよりも、獣の咆哮に近い。
そして、その奔流のようなエネルギーは、やがて彼の体の中を駆け下り、股間へと集中していく。熱と光の塊が、性器を核として激しく脈打ちはじめる。ツルハシ男の作業服の股間部分が、まばゆい黄金の光を放ち始めた。
「ひっ!」
削岩機男は恐れおののき、思わず後ずさった。
目の前で起きているのは常識を逸脱した光景だった。
「なんだこれは…一体何が…?」
そして次の瞬間、黄金色の光が強烈に膨張し、周囲の空気を灼き尽くすほどの閃光となって爆発的に拡散した。
その閃光の中で、二人の男が身に着けていた装備品が弾け飛ぶ。作業着も防護具もすべて消滅し、二人は完全な全裸となった。
閃光が収束した後、削岩機男の目に映ったのは、ツルハシ男の変わり果てた姿だった。
彼の体は彫像のように固まっていた。全身の皮膚は青銅色に変色し、顔は苦悶の表情のまま。まるで、生きたまま何かの儀式に捧げられたかのような異様な姿だ。
そして股間では、未だ脈動する黄金の光が不気味な熱気を放っていた。
「う、うわああああああああ!」
削岩機男は反射的に、その場から逃げ出していた。
目の前の光景は、理性では処理できない純粋な恐怖でしかなかった。得体の知れない力によって、相棒は卑猥なオブジェと化してしまった。その異変は、次に自分を襲うかもしれない。

彼は全裸のまま、来た道を夢中で駆け戻った。足元の土や岩の感触、冷たい洞窟の空気が肌を刺すが、それすらも恐怖の前では意味をなさない。