夜のプール
プールの水が、月光を呑んで黒く沈んでいる。
深い、深い、闇だ。
水面にわずかに波紋が揺れる。その揺らぎは、単なる風の戯れではなかった。
深い闇の底で、何かが蠢いている。
粘りつくような、しかし形を持たない影。
それは、ゆっくりと、しかし確かに、その存在感を増している。
コンクリートの壁は濡れて鈍く光り、塩素の匂いが夜の空気に重くのしかかっている。
ここは、夜のプール。
地上にあってはならない、もう一つの世界。
若者は、プールの縁に立った。
彼が身につけているのは、黒い競泳水着だけ。
水着の布地は薄く、男のシンボルの形がくっきりと浮かび上がる。
若者は、迷うことなくその水の中へと身を投じた。
音は、ほとんどしなかった。
水は、彼を静かに受け入れた。
その瞬間、若者の意識は、現実から切り離された。
水中に入った瞬間、若者の視界を埋め尽くしたのは、無数の青白い手だった。
プールの底、排水溝の奥から伸びるそれは、逃れようとする彼を拒むのではなく、むしろ熱烈に歓迎するように彼の肉体を愛撫した。
肛門から体内へと侵入した超神秘的 上位存在は狂気に満ちた愛を彼へと注ぎ込んでいく…。
魔素(マナ)、あるいは瘴気とも表現すべき未知のエネルギーによって彼の体は内部より風船のように膨れあがり。プールの水でふやけた皮膚には黒や苔緑色の斑点が現れる。
「ゲホッゲホっ……げほっ……カフッ……」
(いい素材だ…どう料理してやろうか…)とでも言うように体内で無数の青白い手が蠢く。
はじめは痛く、不快だった その感覚も段々と甘美な快感へと変わっていく。
黄土色の汚れが彼の腸内から掻き出されるたびに、怒り、憎しみ、嫉妬…ちっぽけなプライドなど心に こびりついていた汚れも吐き出されていき、それらを どこからか現れた大小さまざまな魚たちが貪り喰らい処分して行く。
イニシエーションを通過し、彼は母の子宮内の赤子のように体を丸め 人という醜い芋虫から自分を偏愛する存在と同じ次元に存在する蝶へとメタモルフォーゼするため蛹となった。
蛹となった彼の内側では、もはや人間としての倫理や理性を繋ぎ止める鎖は一本も残っていなかった。
膝を胸へと強く引き寄せ、胎児のように丸まった姿勢のまま、若者はプールの底でゆるやかに回転を続ける。体内に侵入した「上位存在」の蠢きは、彼の肉体を増強させていく。
「あ…が、はっ…あ…!」
喉の奥から漏れるのは、言葉にならない悦楽の悲鳴だ。膨れ上がった腹部の奥、前立腺を直接、青白い指先が容赦なく愛撫し、掻き回す。人間の限界を超えた魔素の流入に、彼の肉体は悲鳴を上げながらも、それ以上の歓喜に従順に震えた。