はいしん
「あー……あー……これであってるのかな?
えーと。んんっ、ボクの名前はレイ。この世界のチュートリアルみたいな存在だ。逆に言えば、ボクの許しを得ないとこの世界では生きていけない。でも安心して!ボクはこの世界の常識を教えるだけだから、むしろここでボクの言うことを聞けないような子はぱーんっ!
……怯えないでよ事実でしかないんだから。ウジウジした事は生き残る術すら教えないで放り出しちゃうよ?ボクはお助けするためにいるけど、きまぐれでもあるからね。
まぁ簡単に言うと、君たちにはここで配信をしてもらうんだ。それで規定数の同時視聴者、もしくはチャンネル登録者を手に入れたらオーケー!出られますっ!
次に、ここではウソはつけません!配信のネタはホントのことだけ。アカウント水増ししたりして同じ人で回数稼ぐのもできないから注意してね。
ルールはこれだけ!シンプルでしょ?でも、ウソをついたら即終了!ウソだけはぜっーたいについちゃだめ!じゃバイバイ」
あまりにもあっさりその画面は切れた。
「な、何かの冗談だよな?」
「どうせ、ドッキリか何かに違いないわよ」
「強制参加なのか!?」
画面を見ていた男女たちは、口々に不安や怒り動揺など露わにしていた。
「配信っても、どんなテーマで配信すればいいんだよ……誰か、何か案はあるか?」
進行を開始した男性は、提案する人がいないか質問を開始する。
頭上に『たくや』と表示された男は全員を見回した。だが残る4人は憂鬱な表情のまま反応を示さない。
突如真っ白な空間に召喚され、頭上に展開された画面からの非情な指示。こんな状況でまともな案が出てくるはずもないことはたくやも承知していた。
「まあここで配信ってのがそもそも無理あるよな」
たくやは端末を見つめながらつぶやく。
5人にはそれぞれスマホのような携帯端末が配布されていて、これを使って配信しろということらしい。
黒のパーカーにキャップ姿。慣れた手つきで端末を操作するたくやは、元配信者だった。しかし経験者という有利な立場ではあっても、何もない空間ではお手上げに近かった。
「てかこれ、前に使ってた配信アプリに似てるな」
そうつぶやいて、視聴者数の増減に一喜一憂していた日々を思い出す。
「配信か……もう二度とやらねえって決めてたのに、皮肉なもんだよな」
キュッと唇をかんだところで、空間が波打った。
全員が騒然とした時、
「か、体が透明になっていってないか! 俺まだ嘘なんて言ってないぞ!」
『やすし』と表示されたインテリ風のメガネ男が、青白い掌を眼前にかざす。その指先は確かに消えかかっていた。
「えっ私も……てみんな薄れてってるよ!」
『萌絵』と表示されたメイド服の女も声を上げる。厚底の白い靴を履いた足はガタガタと震えている。
「おい、話が違うだろレイ!」
筋骨隆々のタンクトップ男『剛士』は、スクリーンのあった空間に向かって怒鳴り散らす。
刀鍛冶の法被姿で職人然とした風貌の『たくみ』だけは、その後ろで黙ったまま目を瞑り微動だにしなかった。
悲鳴と怒号が飛び交う中、5人の体は徐々に薄れていき、1分もせず空間と同化してしまった。
誰もが死を覚悟した。
だが気がつくと彼らは、町の入り口に立っていた。石畳の広場、中央には噴水。周囲には店や民家が並ぶ。空は青く、風は穏やかだ。
「みんな、上を見て」
不意にレイの声が聞こえ、頭上に青いパネルが開き、文字が浮かび上がった。
【職業を選択して下さい(※再選択不可):戦士・魔導士・聖職者・鍛冶屋・裁縫士・製薬師】
そこには異世界らしい職業が並んでいる。
「戦士ってなんだよ、まさか俺らに戦えって言ってんのか」
剛士が声だけのレイに怒りを露わにした時、遠くから獣の咆哮が響いた。
振り向くと町の外、森の向こうに巨大な影が動いている。