占い師の壺

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1人目

「このツボを持てば、あなたは億万長者ですよ」
「ではなぜあなたは占い師を続けているのですか?」

2人目

「それはな、占い師は自分を占ってはいけない。自分の力は自分に使ってはいけないと言う決まりがあるんじゃ」
まるで流れるように占い師は答えた。そりゃそうかこんな聞かれると分かりきった質問に対する答えは予め用意しとくよね。
さてなんと返そうかな、なんて考える。
占い師を論破する為に占ってもらうなんて我ながら悪趣味だよな。

3人目

ばつ悪く逸らしていた視線を元に戻すと、にっこりと笑みを浮かべる占い師と目が合った。
「気になさらなくて結構。よくある質問です。それに誤解も」
皮のようなモノで蓋をしたツボの口を指しながら、占い師は続けた。
「『あなたは』億万長者になれる……誰でも、という訳ではありません。それに条件があります」
「へぇ」
あなただけトクベツ。スピリチュアルな詐欺によくある手法だ。
「莫大な財産と引き換えに、か。危なそうだ」
「何を危険とするかによりますが、いかがでしょう。お持ちになりますか?」

4人目

「スリルがあるほうが唆るので、良いですよ。その壺を持ちますよ」

「フェッフェッフェッ………よろしい、では、壺をお渡ししましょう。億万長者になれることを願っておりますよ……」

男が壺を受け取ると、占い師は素敵な笑みを浮かべながら、姿が消失していた。

5人目

「……消えた」

男は呆気にとられたが、すぐにニヤリと笑った。いかにも胡散臭い展開だが、逆に面白くなってきた。彼は重さのない壺を抱え、占い師がいた場所を後にした。
翌日、男の元に一本の電話がかかってきた。
「〇〇様のお宅ですか? 宝くじの高額当選の件で……」
男は耳を疑った。軽い気持ちで買ったスクラッチくじが、なんと一等に当選していたのだ。当選金額は、億万長者と呼ぶにふさわしい額。

6人目

「待て。なんで俺ん家の電話番号知ってるんだよ」
「え?」
「ちょっと嬉しくなっちゃっただろーがコラ」
「つきましてはですね、受け取りのための口座開設が必要でして、そのためのお預かり金がですね」
「だからァ!」
「……っはぁ~。だから貧乏なんだよアンタ。一生貧乏してろ」
ぶつり。電話は切れてしまった。
「……っ!こういうスリルは求めてないんだよなぁ~!」
男は一人、部屋で思いのたけを叫んだあと布団にくるまった。ふて寝と洒落こもうとしているのだ。

7人目

その晩男は夢を見た。
それはマシュマロに包まれたユルフワ系おじさんの夢だった。
おじさんは女子高生達に囲まれて施政方針演説を展開していた。

「美しい日本(ニッポン)をトリモロース!」

垂れ目の優しい笑みを浮かべたおじさんは右手に拳を握りしめガッツポーズをとった。
その鼻の下は異常に長かった。
それだけ言い残しておじさんは霧のようにフワっとフェードアウトした。

「き、消えた……」

そう呟いた時は視線の向こうに見慣れた天井が霞んで見えていた。