西宮トパーズ

4 いいね
500文字以下 10人リレー
3週間前 592回閲覧
1人目

「行ってきます」と元気な声を出すと食パンを
咥えた少年は急いで曲がり角まで駆けた。

車がドリフトをするようにコンクリートを足で擦らしながら曲がる。
バスがいつも通りの場所についてプシュっと
停車音を鳴らしてドアが開くと、その中に少年が飛び込んでいった。

授業が終わり昼休みでみんながそれぞれ自分の話題を仲間たちに報告していた。
少年は4人のグループ中でいつも通りに塩レモンソーダとハムカツサンドを食べながらスマホをいじっていると、普段は気にしないネットニュースが目に留まった。 「謎の騎士、街中を駆け回り戦車1台破壊」 という文字とともに黒い馬に乗った見たことのない鎧を付けた人間が戦車に槍のような物を突き刺して火を噴かせている写真だ。

2人目

こんなものアニメや漫画でしか見た事ない。
しかも戦車を突き刺しているのを見るに、きっとこの槍はコスプレのグッズ...などではないのだろう。
ともなればあとはCGの可能性か...。
だがCGの写真をネットニュースがこんな風に取り上げるだろうか?
少年は写真から顔を上げると、弁当に入った焼きそばをたった今食べている友人の肩をちょいちょいと突いた。

「ん?どした?」
「あのさ、これ...どう思う?」

そしてそのネットニュースの表示された画面をその友人に見せれば、友人はよく目を凝らし怪訝そうな顔でその画面を注視する。しかし口の中でもぐもぐと咀嚼していた焼きそばをごくんと飲み込んでは、ひらひらと手を振って弁当の方へ視線を戻してしまった。

「ばっか。そんなのCGに決まってんじゃん。ほら...あれだって!フェイクニュース...?ってやつ」

3人目

「フェイクニュース、か。でも、俺はこの騎士が本当にいるならどんなにいいかと思うよ。こんな……騎士ばかり注目されて、戦車が話題にもならないような社会はおかしいよ……。こんなに戦車が街中にあふれているのに、誰もそれがどんなに異常なことか気づいていない。こんな世界……」

30年前。激化する暴力団・暴走族との抗争の中で、警察はすでに有効な打撃力を失いつつあった。時の総理は、際限なく肥大化しつつある治安維持費を”外注”するかのように、一般市民に武器兵器の使用を解禁した。最初は拳銃程度だったのが、すでに大規模火力化した犯罪者に対抗すべく、市民たちはさらなる力を求めた。その圧力によって戦車が解禁されるまで時間はかからなかったのだ。現在、一定以上の階級に属する市民はマイタンクで通勤通学するのが一般的で、それらを襲おうとする犯罪者たちもまた、戦車で武装しているのだ。

そんな狂気の焚火にくべられるのは、持たざる弱者たちだ。どこの誰が放った砲弾か、少年の家族は一瞬で火の海に消えてしまった。戦車を憎悪する彼にとって、この騎士は何か、新しい力の象徴のように思えるのだった。

4人目

友人は、焼きそばを頬張りながら呆れたように首を傾げた。
「そりゃ、お前んとこの事情があるからそう思うんだろうけどさ。でも、戦車がないと生きていけないって人がいるのも現実だろ。お前の『異常』が俺の『日常』ってことさ」
少年の心臓がドクンと鳴った。友人の言葉は、この戦車社会の冷酷な真実を突きつける。戦車による惨劇を経験した自分と、それを日常として受け入れている友人。この断絶が、少年の孤独を深くする。
「とにかく、俺は信じない。というか、信じたくない。あんなのが本当にいたら、それこそこの世界はおしまいだ」
友人はそう言って、食後のデザートである小さなプリンにスプーンを刺した。

その日の放課後、少年は火災の被害を免れたわずかな遺品の中から父が残した手書きのノートを見つけた。
父は生前、軍事史や騎士道を深く愛しており、戦車が市民に解禁される以前からこの社会の火力偏重を憂いていた。
ノートの隅には父の荒々しい筆跡で、こう書かれていた。

5人目

『戦車が街を走るようになったのは、我々が「あれ」の存在から目を逸らしたからだ。「あれ」こそが真の脅威であり、戦車はただの盾にすぎない』
少年の頭の中に、大きな疑問符が浮かんだ。父は一体何を知っていたのだろう。彼は、惨劇を引き起こしたのが戦車ではない、別の何かだとでも言いたいのだろうか?

6人目

だが、少年の家を焼き家族を死なせたのは戦車の砲弾であることは間違いは無い。
仮に「あれ」とやらが元凶だとしても「だから戦車は悪くないから許せ」という気分にはならないし、何より今の社会情勢はその元凶の手から完全に離れた混沌とした状況になっているのではないかとも思える。

7人目

そして少年はノートのデータを自身のアーカイブに保存して端末を閉じた...。


 それに少年の目が映った、真っ黒な瞳孔を囲う虹彩がなん十本の青みがかかった白い筋で出来ていることがわかる。手を添えると表面は冷えているがとても滑らかで洗いたてのお皿みたいに擦ったら音がなりそうだ。

話によると消防士の方が赤ん坊の僕を瓦礫の中から見つけたとき、これに抱き付いた状態で発見されたらしい。それ以来引き取り先の家が保管してくれたおかげでこれだけはデータにならずに済んだ。

もう何年も経つのに錆がなく美しい限りだった。
父のレイピアに見惚れているとインターホンが鳴った。
誰か来たみたいだ。

剣を机に置いて急いで階段を降り、壁付きの小さなモニターのスイッチを入れる。

"「宅配でーす」"

ダンボールを持った宅配業者が玄関前に立っていた。

「あ、今行きます」

玄関を開けようとすると
ガチャりとチェーンが音を立てる、うっかり外し忘れていた。

引っかかりに手を伸ばしたとき少し開いたドアの隙間から入り込む光の中に黒いノズルが現れた。

バンバンバンバン----!

8人目

まだ夕暮れ時だというのに消音器も付けられていない拳銃が火を吹く。
防弾チョッキを着ていても至近距離からの4発の銃弾は少年の体を強かに打ちすえ呻き声さえ上げる事を許さずに玄関へと転がす。
チェーンが切られると真っ黒な目出し帽をした黒ずくめの屈強な男達が家へと流れ込んでくる。
その動きは高度な戦闘訓練を受けたプロの動きで、淀みなく少年に猿ぐつわをして拘束具で動きを封じると家の中を探索して行く。
数分後…「現地治安部隊の動きが思った以上に速い。目的の物は手に入った!ミッションの最終段階へ入る!」
遺品のノートなど少年の両親に関係がある品々を手にした男達は波が引くように迅速に家を飛び出していき黒いバンに乗って走り去る。
残された少年の前には黒い箱…それは爆炎でもって全てを焼き消すための爆弾。
残された時間は少ない…治安部隊が来た時には、ここは火の海だろう。
(少しでも遠くに…)
芋虫のように這いながら外を目指す…ピーと言う甲高い音の後、背後から爆炎が少年を包み 人形のように彼を吹き飛ばす。
そこで意識は途切れ、次に目が覚めた時には病院の天井を眺めていた。