最後の夏休み。大人になる前の僕ら

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  • ラブコメ
  • 恋愛
  • 性的描写有り
  • ヒロイン増やすのあり
  • ハッピーエンド
  • 自由に続きを書いて
1人目

「やまぐちー。はい、これ」
 あげるー、と俺の背後から女子の声と冷たいペットボトルが触れた。
 さんきゅー、と俺は礼の後それを受け取った。きんきんに冷えたスポーツドリンクだ。冷たさが喉を刺激する。
「調子どお?」
「まあー…ぼちぼちってところかなー」
「そっかー。でも大丈夫っ!山口ならあたしの分も絶対跳べるって」
 俺と隣の女子ーーー沢木りまは学校選抜の棒高跳びのメンバーだ。記録の上では沢木の方が常に俺よりも高い。
 しかし神ってやつは意地が悪いらしい。
 先日彼女は不慮の事故で自動車と接触。
幸い大事には至らなかったが、選手の命でもある足を駄目にしていた。事故の後学校に登校する度に松葉杖をついて歩く彼女の姿が、当初俺は受け入れられなかった。
「…なんで俺じゃなかったのかなぁ」手がふやける程冷たいペットボトルを両手で握りしめたまま俺は唇を噛みしめる。「神は不公平だよ。俺ら高校最後の大会だぞ!それに沢木の方が記録高いじゃんか」
「でもあたし本番に弱いし…。ーーーそれにさ、確かに大会出られないのは辛いけど、」
 そこまで言って沢木は一度言葉を止めた。
 不安に思って覗き込んだ俺と目があってふんわりと柔らかく笑った。
「ねぇ、山口。
 来週の日曜暇ある?花火行きたい」
 あたしこんなんだけどさ、と沢木は照れくさそうに下を向いた。
 首元で切り揃えられた艷やかな黒髪。伏せられた長い睫毛の下には少し潤んだ栗色の瞳。日に焼けた褐色の肌をした健康的で発育の良い四肢。
 俺は突然の誘いに、彼女の頭から足先までしっかり凝視したまま固まっていた。
 喉が渇く。
 
 ーーー行く、絶対っ!
 俺は条件反射で気がついた時には返事を返していた。

2人目

「少し早く来すぎたな…」
彼女…"沢木 りま"との待ち合わせ場所にした公園。
ベンチに座ったまま俺は飲み終わったストゼロの空き缶をゴミ箱に向かって投げた。
ガランと音がしてゴール。手持ち無沙汰から立ち上がって俺は今日の盆ダンス・フェスのためにキメに決めた服装を再度 確認する。
イイ感じに色あせたアロハにダメージ加工のされた短パン。
そして雑誌の特集で取り上げられていたイケてる男の必需品『髑髏付きの金のネックレス』!
完璧だ!完璧すぎる自分が恐ろしい…。
左手の黙って持ち出したオヤジのロレックスを確認する。
もうすぐだ…あと、もう少しで…「やまぐち~!」。
振り返る。手を振りながら朝顔の浴衣を着た彼女がカラコロと足音をさせながら駆けて来る。
「待った?」 「いや、今 来た所」
(可愛いんだぜ…)。俺は穴が開きそうなほど、彼女を凝視した。
「…変かな?」 「いや、似合ってるよ…」
(変だな…上手く言葉が繋げね~ぜ…)
何回もシュミレートしたのに頭の中にモヤがかかって、喉から先へと進まない。
「ええと…行こうか…」 「おう…」
彼女と並んでフェス会場へと歩き出した。
*―――
「何だか懐かしいね」 「おう、そうだな…」
焼きそばやたこ焼きのソースの香しい匂い。色とりどりの提灯が幻想的な風景を作り出している。
わたあめ、ベビーカステラ、たい焼き、りんご飴…彼女は次から次へと買っていった。
「おい、おい!ちょっと飛ばし過ぎじゃないか?」
「いいじゃない。食事制限とか私には、もう関係無いし」
ニカリと屈託のない笑顔を りま が俺に向けて来る。
(甘い…激アマ、激マブ、クリティカルヒットなんだぜ…)
美味しそうに甘味を口への運ぶ横顔に俺のハートは撃ち抜かれる。
「そういえば小学生の頃にも、こうやって二人で花火を見に来たね…」
「そうだったかな?覚えて無いな…」
「ひどい!あの時、突然 不機嫌になって私を置いていったの覚えて無いの!?」
彼女が俺を見ながらプリプリと怒る。
「ああ、そうだったな…」
(本当は覚えてるんだぜ…あの時はガキ大将に二人でいる所を からかわれて恥ずかしくてよ…)
「あの後、迷子になって大変だったんだから」
「ごめん、ごめん…ほら、チョコバナナ買ってやるから」
「そんなのじゃ誤魔化されないんだからね!」
そう言いながらも、彼女は買って渡すと目に見えて機嫌が良くなった。
(っ!!)
おもむろに彼女が俺の手を握って来た。
「こうしてれば、置いてかれずに済むでしょ。…バカ」
(最高なんだぜ…)
*―――
「やっぱり、ここは穴場だね♪」 「ああ…」
トイレの裏の立ち入り禁止の看板の先にある空き地は知る人ぞ知る盆ダンス・フェスのメイン・イベント"花火 インフェルノ"を見るのに絶好のスポットだ。
ここには鬼面をかぶったカップル絶対 許さない仮面が出るという噂もあるが、その正体を知っている俺には関係の無い話だ。
「あ!始まった!」
夜空に次々と大輪の花が咲いていく。
「きれい…」「…君の方が綺麗だよ。特に今日の沢木…"りま"は花火が霞むくらい綺麗だ」
一世一代とも言える勇気を振り絞って俺は彼女にロマンチックを贈る。
「ありがと」 「…どういたしまして」
(終わった…さようなら、俺の最後の夏)
黙って花火を二人で見上げる。
(赤、黄色、緑…綺麗だな~。ほえほえ…)
「あのね…お願いがあるの…」
"りま"が上目遣いで俺を見上げながら口を開き
俺に自分の夢『エクストリーム・オリンピックで金メダルを取る』を叶えて欲しいというプレゼンテーションを始めた。
「私にできる事な何でもするから。ねっ、お願い♡」
「何でも…(何でもだと!)」
俺のハートの中でピンク色のタイフーンが荒れ狂う!
(これは千載一遇のチャンス!据え膳食わぬは男の恥よ!)
折れた俺の自信に添え木をしてチキンハートにガソリンをぶちまけて再び勇気の炎でエンジンをふかす!
「キス…キスだ!キスしよう マイ・スイート・ハニー りま!」
「OK!」
抱き合い俺達は熱いキスをかわした。
さっきまでの地獄(ヘル)には、さようなら!ようこそ、楽園(ヘブン)へ!
(天使がラッパを吹いて俺を祝福してるぜ!)
大人への階段をスキップで上りながら、(俺は ようやく上り始めたばかりだからな この果てしなく遠いオトナ坂をよ)と さらなる要求をしようとする。
だが、そんな俺を無情にも彼女は"待った!"をかけて、小悪魔的な笑顔で「この続きは全国へのキップを手に入れたらね♪」と言って俺の腕の中から するりと抜け出していった。
(ふっ…今の俺は無敵!造作も無い事よ…)
のちに『棒高跳び界の大谷〇平』と呼ばれる山口颯斗の伝説の序章が始まった事を俺は確信していた。 
*―――
地区大会…残念ながら俺は全国へはいけなかった。
"りま"のおかげで今までで最高のコンディションだったのだが、
ライバル校の黒人選手『ナイラト・ホネフニー』には手も足も出なかった。
原石が努力によって磨き上げられて完成した"ミスター・ダイヤモンド キング"には勝てないという現実に大人になりきれない俺は荒れ…結果、留年する事になった。
時は流れ、再び俺の最後の夏がやってきた…