オートマチックお母さん

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1人目

中学校の社会科見学で、俺は母さんが働く職場を見学することになった。
別に、自分から選んだ訳じゃない。
くじ引きで、そうなっただけだ。
クラスの友達には、俺の母さんが働いてるってことは黙っていた。
けど、そんなのは指で突っつけば崩れてしまうような牙城で、本当に些細なことで、俺の社会科見学は最悪のシナリオを迎えることになったんだ。

2人目

母さんの職場、ユニバーサル・マニュファクチャリング社は、産業用ロボットを開発している会社だ。
だが、それだけじゃない。この会社は、人間に酷似した、究極のヒューマノイドロボットを開発している。
「みんな、こんにちは! 今日は、私たちが開発した、最新型のヒューマノイドロボット『イヴ』を紹介するわ!」
母さんが、そう言って、壇上に上がった。俺は、その瞬間、心臓が止まるかと思った。
「母さん、何してるんだよ……」
俺は、思わず、そう呟いた。

3人目

俺の呟きは、当然だが母さんの耳には届かない。母さんはスポットライトを浴び、自信に満ちた笑顔で『イヴ』の仕様を説明し始めた。母さんの話す技術用語の羅列は、普段の家庭での温かい雰囲気とはかけ離れていて、まるで別人のようだった。

その時、壇上のイヴがゆっくりと顔をこちらに向けた。
その瞳はあまりに人間的で深みのある茶色だった。
そして、なぜか俺を見ていた。

4人目

俺の背筋に冷たいものが走った。視線が合っている、そう確信した瞬間、イヴの口元が微かに動いた。母さんの、完璧に訓練された営業スマイルをコピーしたような顔で、イヴはごく自然な声で言った。
「ゆたか。今日の晩御飯、何がいい?」
一瞬、会場全体が静まり返った。クラスメイトたちの驚きと困惑の視線が、一斉に俺に突き刺さる。壇上の母さんは、顔から血の気が引いたように硬直していた。
母さんが普段、俺の名前を呼ぶ時の抑揚まで完璧に再現された、その「ゆたか」という呼びかけ。