サンタクロースと三人の子ども
北極の空は、冬の星々が瞬き、ひんやりと透き通っていました。サンタクロースの村では、ふわりと舞い降りる粉雪が灯りに照らされ、金色の粒のようにきらめいています。おもちゃ作りの工房からは、木を削るコンコンという心地よい音、エルフたちの軽やかな足音、そして厩舎からは、時おりトナカイが鼻を鳴らす声が聞こえてきます。木の香りや甘いキャンディの匂いが入り混じり、村中がまるで一つの大きなクリスマス菓子のようでした。エルフたちは色とりどりのリボンを結び、おもちゃを磨き、子どもたちから届いた手紙を一枚ずつ丁寧に仕分けています。
そんなにぎやかな村から少し離れた家の中では、サンタクロースが暖炉のそばの机に向かい、最後の仕上げを終えたところでした。ぱちぱちと音を立てる薪の火が、部屋いっぱいに木の焦げ香を満たしています。机の上には、まるで夜空の光そのものを閉じ込めたような、金色に輝く三枚のチケットがありました。
そこへ、温かい湯気と共に優しいココアの香りが漂ってきました。サンタクロース夫人がマグカップをそっと運び、微笑みながら問いかけます。
「あなた、何かやってるの?」
サンタは白いひげを揺らして微笑み返し、作り終えたばかりの三枚のチケットをそっと掲げました。
「これはね、招待状だよ。世界中の“いい子”のうち三人に届く特別なチケットさ。手にした子どもをクリスマスイブにこの村へ招いて、その子にとって一番素晴らしいプレゼントを、私が直接渡すんだ」
チケットは暖炉の光を受けて、蜂蜜のような輝きをこぼしました。
サンタは数人の信頼するエルフを呼び、慎重に三枚のチケットを託します。外に出ると、裏庭には小さな熱気球がひとつ、雪の上に静かに佇んでいました。エルフたちはチケットを大切そうに抱え、熱気球へ乗り込みました。バーナーの火がぼうっと温かい音を立てると、熱気球はふわりと浮かび上がり、星明かりの夜空へゆっくりと飛び立っていきました。チケットの光はほのかに温かく、消えることなく輝いていました。
***
──そして、12月23日の日本。
11歳の聖沢カナトは、しんと静まり返った母親の実家の縁側に座り、白い息が淡く立ちのぼるのをぼんやりと見つめていました。
「カナトは僕についてくると言っていたよ」
彼は父親が好きでした。
「……そうなの?」
母親も好きでした。
そして、彼はどちらかを選ばなければなりませんでした。彼はどちらにも同じくらいついていきたかっのですが、その時、その瞬間、『彼が自分についていくと言った』とうそをついた父親についてゆくのは、間違いであるように思ったのです。
「母さんについていくよ」
それでも、この場で嘘を糾弾するのも間違いのようにも思っていました。
そして、そうなりました。そうなったので、いま、母親の実家の縁側で、彼はぼんやりと南天の木を眺めています。
背後の戸の向こうでは、母と祖父母が何か話し合っています。
「カナちゃん、寒うないん?もう、息が真っ白やん」
従姉のリコお姉さんが声をかけてきました。彼女はおじさんとおばさんといっしょに、この家に住んでいます。
「母さんが大事な話をしてるから」
「そんなん言うたかて、こんなとこで待ってたら風邪ひくで。うちの部屋においで」