自分自身の殺し方
ただ、困ったことがある。それは、不死身であるということだ。ただの一般人なら、飛び降りたりや刃物で刺したりなどすれば死ぬが、不死身である俺は、絶対に死ねない。死にたくても死ねないのでる。
飛び降りても、まるで元からそこに立っていたかのように地面に降り立ち、何の衝撃も受けず、何の衝撃も与えない。
刃物で刺しても、確かに肌を通ったはずの刃先が、気付くとズレた位置の空気を無意味に脅かしている。
おおよそ、死につながるような出来事が、「何事もなかった」という現象に置き換わるのだ。というようなことを友人に話したところ、「病院に行け。脳の方のだぞ」と、大変ありがたいアドヴァイスをいただいたので、とりあえず行ってみることにしたのである。
「大繁盛脳外科・内科」
大層な名前の病院だ。
扉を開け、中に入る。
名前に反してがらんとした院内、日が差し込んで白さが際立った待合室、その奥から、アロハシャツに白衣、紫色の短パンに、金髪の男がやってきた。
「ヤァヤァ!僕がここの院長、死亡院骸(しぼういんむくろ)だ!どんな要件で来たのかい?」
……この病院はハズレかもしれない
「俺、死ねないんです」
バツが悪いので、伏し目がちに話してみる。
「怪我や病気も、この身体には無縁なんです」
すると医者の瞳孔が開いていくのを、俺はつぶさに感じ取った。
「だから調べて欲しいです、細部まで最後まで」
医者は笑ったり、揶揄うような表情もせず、まるで聴講する学生のように、俺の話を真剣に聞いていた。
そして彼の手癖だろう、顎に手を当てて思考し、医者は口を開いた。
「その話、聞いたことがある」
手癖を変えず、彼は話を続けた。
「僕が学生だった頃の教授で、戦争のせいで成人まで、中国に住んでいたと仰っていたよ」
いわゆる残留孤児だよ、医者は呟いた。
「それが関係ありますか」
「脳は感覚のコンピューターさ、脳が感じることを肉体は映し出す、肉体は脳の外側だよ」
奇跡に上限はあるのだろうか、俺の脳は脱糞を命じた。