柱に登る
昔、この大陸を支配していた部族の若き王は、天から降りてきた女神に恋をした。しかし、王はその女神に見合うだけの力を持っておらず、女神を振り向かせることができなかった。
そんな王の前に現れた一人の賢者がこう言った。「石柱に登れ」と。
王はその言葉を信じ、石柱を登り始めた。
表面の凸凹をしっかりと捉える指の力、石柱を抱きしめ引き寄せる腕の力、全身を支え持ち上げ続ける腰と脚の力、そして何度も石柱の凸凹に叩きつけられなお硬くそそり起つ剛直を王は手に入れていった。
やがて王は石柱の頂上へとたどり着いた。服は磨りきれ肌は石柱に負けぬ強靭でしなやかなものへと変わっていた。
石柱の頂上で、立っていると、羽がついた光る何かが近づいてきたのである。そして、王の目の前で、激しく光ると、そこには、先に会った賢者と違った賢者に遭遇していた。
「強靱な肉体を手に入れたようだな。だが、力だけでは、ならぬ。知識を磨くのじゃ」と賢者は王に言ったのである。
そして、次の瞬間、賢者が杖を叩くと目の前にはたくさんの図書が姿を現したのである。
賢者の言葉に、王は即座に決意した。
しかし、目の前に現れた図書は、ただの書物ではなかった。
それは、王が読み進めるたびに彼の精神力と集中力を試すように、文字が揺らぎ内容が矛盾し時には脳裏に強烈な幻影を見せる「試練の書」だった。
王は試練の書を読み進めた。
最初の数冊は、歴史、天文学、そして戦術に関する深遠な知識を説いていた。
王はこれらの知識を貪欲に吸収し、その精神力は確かに磨かれていった。
文字が揺らぎ、幻影が襲うたびに、王の集中力は鋼のように固く鍛え上げられていった。
だが、ページを繰るにつれて、その内容は奇妙な方向へと傾き始めた。
王が目を通している書物の内容は、部族の歴史から、突如として古代の秘められた儀式に関する記述へと変貌した。しかし、それは神への奉納ではなく、己の剛直を神格化するための「精進の技」であった。
書物には、「王位継承者が行うべき、力と快楽の統合のための百八十の体位」と記され、そのほとんどが、王の持つ剛直を最大限に悦楽させるための、全身を使った複雑な自慰の姿勢の解説であった。