生贄

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  • 性的描写有り
  • 登場人物が死ぬの有り
  • 暴力描写有り
  • 楽しんだもの勝ち
  • ホラー
  • 歴史・時代
1人目

とある風習が存在していた。

それは、若い娘を神に捧げることで豊穣祈願を行うというものである。
この風習の起源については諸説あるが、有力な説の一つとして『村の外れに生えている木に、娘の生き血を捧げることで実をつける』というものが挙げられる。
それが真実かどうかは定かではないが、少なくとも近隣の村々の間では広く信じられていた。いつしかその風習は形骸化し、今では単純に若い女が生贄として選ばれるだけの儀式になっている。
そして、今年選ばれたのはとよという派手な女であった。
とよは今回の生贄騒動で、非常に運が悪い女であると言えよう。しかし一方で、村にとって生贄にするには非常にありがたい人材であるとも言えた。というのも、とよという女は極端に信仰心が薄く、村に訪れる旅人にちょっかいをだすことも珍しくないという問題児だったのだ。
そんな女が村の風習によって消えてくれるのであれば、むしろ万々歳といったところだろう。

2人目

村人達は、生贄を捧げる儀式のための準備を開始していく。しかし、このときはまだ村人達は思いもしなかったはずである。まさか、信仰心が薄い問題児であるとよが、身代わりを用意しているとは……

3人目

村の長老であり、儀式の中心人物である吾作は、神殿へと向かう。彼の役目は、明日の夜明けに執り行われる儀式まで、とよが逃げ出さないよう見張ることだ。

重厚な木の扉を開けると、神殿の中は薄暗く、僅かな月明かりが差し込んでいる。長老は、いつもならここで生贄となる娘が恐怖に震えている様子を見るはずだった。それが信仰の力を示すものだと、彼は信じていた。
しかし、そこにいたのは、予想だにしなかった人物だった。
「…あんたは?」
吾作は目を細めた。
そこに座っていたのは、見慣れない男だった。旅人か?明らかに、村の者ではない。

4人目

「私は、橘響也と言います。ソロキャンパーです。」

「どうして、ソロキャンパーがこんなところに?とよがこの神殿の中に居てるはずじゃが……」
吾作は、響也に状況を詳しく知るため、質問していた。

「実は、私も記憶があんまり……目が覚めたらここに……頭がクラクラして……あっ!?」
響也は頭をおさえていると、何かを思い出した様子だった。

「何か思い出したのか!?」

「は、はい。実は、この近くで、キャンプをしていたら、女の子に声をかけられて、少し話をしていたんです。その後、荷物の整理をしているときに背後から誰かに頭を殴られて気を失ってしまったみたいなんです」
響也は、うっすらと思い出した記憶を吾作に話していた。