新人破壊工作員の初作戦2
前回の話・・・
特殊部隊『シルバークロウ』に入隊した新人であるアキラは、ジャングルにある施設の調査及び必要に応じて破壊するという初任務を命じられる。アキラの単独任務と聞かされ、不安で仕方なかったのである。
作戦開始エリアに到着して、ジャングルの中を進んでいくと、研究員と武装した男性達の集団を発見し、尾行すると施設を発見する。施設の中に入っていく研究員と男性達を追いかけようとするが、気付かれそうになり、断念してしまう。そんなときに、謎の無線が入る。無線の相手は、協力者を名乗る謎の女性からであった。その謎の女性からは、施設に入るためには異なる二つのパスキーが必要であること。そのうちの一つのパスキーを持つゲイル博士が廃墟の中にある牢屋に囚われていると情報を手に入れる。アキラは、作戦本部に報告し、廃墟に向かっていく。廃墟へと向かう途中、武装した男性兵士と人型モンスターと遭遇してしまうが、麻酔銃や近接格闘で乗り越えていく。
廃墟に到着すると、ゲイル博士は廃墟の中の地下室にある牢屋に居て、鍵の在処も聞き出すことに成功する。廃墟の中に侵入して、ゲイル博士を救出することに成功する。
しかし、そこでゲイル博士から衝撃的な発言を聞かされる。アキラの目的は、廃墟にいる男達を眠らせることが目的だというのだ。
「た、確かに……ゲイル博士が囚われているという情報は、協力者と名乗る女性からではありますが、こうやって実際牢屋に入れられていたじゃないですか?それに、パスキーは?博士もパスキーを持っているんですよね?」
「ああ……確かに、パスキーをもっているよ。ほら……」
ゲイル博士は、パスキーをアキラに渡していた。
「これともう一つのパスキーがあれば、ジャングルの施設の中に入ることはできるんですよね?」
「ああ……その通りだよ。」
「それじゃ……協力者の女性の言っていることあっているんじゃ?」
アキラは、何が何だかわからず、混乱していた。
「アキラ君、ただ作戦本部はこうも言っていなかったか?あまり、彼女を信用しすぎるなと、彼女は信用ならないと……」
「確かに言ってましたが……俺は、どうしたらいいんだ。何を信じれば良いんだ……」
アキラは、作戦本部、謎の協力者、ゲイル博士。誰を何を信じれば良いのか不安に陥っていた。
アキラはパスキーを握る手に力を込めた。頭の中は三つの声で飽和している。
「作戦本部の警告…謎の協力者…そして、ゲイル博士の衝撃的な主張…」
アキラは一歩後ずさり、壁に背中を預けた。ここで独断で動くのは危険すぎる。全てが絡み合い、もはや誰が味方で誰が敵なのか、作戦の真の目的すら見失いかけている。
しかし、仮に本部が自分の敵であれば今ここで動きを見せれば更なる危険に陥るだけだ。アキラは冷たい壁の感触に意識を集中させ、思考を巡らせた。
「ここの男達を眠らせるのが目的なら、眠った男達をどうするというんです?まさか回収してあの人型モンスターに改造する、とかではないですよね?」
「もし、そうだと言ったら?」
「ありえない。博士は、無理矢理やらされる研究に嫌気をさして、施設から抜け出そうとしたから、廃墟の牢屋に一生出られないように囚われたんじゃないんですか!?」
アキラは、益々、自分が今までしてきたことがなんなのかわからなくなってしまう。
「それも、作戦本部からの情報ではなく、協力者を名乗る彼女からの情報じゃないかね?」
「ううっ!?……そ、それは確かに……うん?」
「こちら、作戦本部。アキラに追加指令を出す。ゲイル博士を護衛しつつ、廃墟に向かいつつある協力者を名乗る彼女を迎え撃ち、彼女を始末したまえ……良いか!!必ず始末したまえ。我々の目的のためには必要なことだからな……」
「こちら、アキラ。一体、何がどうなっているんですか!?作戦本部からの作戦指令は、ジャングルにある施設の調査及び必要に応じて破壊じゃないんですか!?」
「君は、作戦本部からの指令に従えないのか!!作戦本部からの指令は絶対だ!!ゲイル博士を護衛しつつ、協力者を名乗る彼女を始末するんだ!!以上!!」
「くそっ!!俺は、どうすれば良いんだ……」
「フフ……君にはまだまだ頑張ってもらわないといけないからね。さあ、どうすればいいかわかるよね?」
アキラは、とてもじゃない選択に迫られていた。その後ろ姿を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。ゲイル博士は、アキラを言葉巧みに誘導しようとしていた。
「これでうまくいけば、あの女を始末してくれるだろうな……」
ゲイル博士の不敵な笑みが、アキラの決断を決定づけた。
「ええ、わかりますよ、博士」
アキラは冷たい声で言った。
「あなたが何を企んでいるかは知らないが、俺の知る『作戦の目的』を歪ませることはさせない」
アキラは瞬時に腰のホルスターから麻酔銃を抜き放ち、ゲイル博士の胸元に突きつけた。
「何を…」
博士の顔から余裕の笑みが消えた。
「作戦本部からの指令は『ゲイル博士を護衛しつつ、協力者を始末』。でも、俺の最初の指令は『施設の調査及び必要に応じて破壊』だ。博士、あなたは今から俺の人質になってもらいます。そして、俺は自分の目的のために動く」
アキラの瞳に迷いの色はもうない。博士の不敵な笑みは、彼が「作戦の目的」の核を握り、それを己の都合の良いように捻じ曲げようとしている明確な証拠だった。本部からの追加指令は、その博士を守るためのもの。ならば、本部は既に博士の手の者か、あるいは重大な事態に気づかず操られているか、そのどちらかだ。
「ズシュッ!」という微かな発射音と共に、麻酔弾がゲイル博士の胸元、ワイシャツの薄い生地を破って深く突き刺さる。博士は目を見開き、驚愕と痛みに声を上げようとしたが、それより早く薬物が作用した。
「ぐっ…な、ぜ…!?」
言葉は途切れ、博士の体から急速に力が抜けていく。
「眠ったか。まずは身体検査をしなければな」
アキラは、眠っているゲイル博士の身体検査をして、特に怪しい物は所持していないことを確認していた。
「ゲイル博士を人質としても、まだパスキーがもう一つ必要なんだよな。それに、眠っている人質を運ぶのはなかなか大変だな……」
アキラは、廃墟の廊下を上りながら、今後のことを考えていた。
「作戦本部の指令は、協力者である彼女。彼女の情報をどこまで信じられるんだろうか……ゲイル博士のこともあり、誰が信用できて、誰が信用できないのか」
アキラは、作戦本部の本意が分からない上に、素性が分からない協力者とも信用できなくなってきた。
「よし、後もう少しで出口だ……」
アキラは、眠っているゲイル博士を背負いながら、出口へと向かっていると出口が見えてきたために、警戒しながら、外に出ようとする。
確認を終えて、外へと足を踏み出していた。しかし、アキラには予想だにしていなかったことが起ころうとしていた。
「くらえ!!」
「一体、どこから!?くそっ……嘘だろ!?あれは、グレネード!?」
アキラは、日が暮れて辺りが真っ暗になっていたせいか、外に居た男性兵士に気づくのが遅くなり、声が聞こえると真上に何発かのグレネードが飛んできていた。
飛んできたグレネードを避けることに必死で、背負っていたゲイル博士を落としてしまう。
「しまった!?ゲイル博士が……」
アキラは、人質として利用しようとしていた。ゲイル博士は、アキラを狙ったグレネードに吹き飛ばされ、心臓が止まってしまっていた。
「動くな!!そこのお前、武器を下ろして、持っている武器を全て出せ!!」
「お前だな。ジャングルで、人型モンスターや仲間達を倒したという男は……お前は、一体何者だ!!」
「くっ……見える範囲だけでも、6、7人ぐらいか。既に包囲されていたなんて……日が暮れて、夜になってしまったせいで、視界が悪くて、男性兵士達やグレネードに気づくのが遅れてしまうとは……」
アキラは、周囲を見渡すと、準備をして待ち構えていたかのように、男性兵士達に包囲されてしまっていた。切り抜けるのは、並大抵な状況ではないのは、一目瞭然であった。
「ゲイル博士が巻き込まれてしまったのは、残念だが、ここで怪しい奴を始末してしまえば、問題ないはずだ……お前たちやれ!!」
男性兵士の一人の合図のもとに、銃を構えていた。
「くっ……ここまでか……」
アキラは、逃げられるスペースがないために、諦めかけていたその時……
「新人さん!!伏せて!!」
「くっ!!」
アキラは、聞こえてきた声に従い、地面に向かって、しゃがみ込んでいた。
「ぐっ!?」
「ぐわっ!?」
「うはっ!?」
アキラが、しゃがみ込んでいると、何発もの銃声音と共に、次から次へと悲鳴が聞こえていた。悲鳴が収まると、アキラは身体を起こしていく。身体を起こすと目の前には、先程まで包囲していた男性兵士達が被弾しており、既に息が止まっていたのである。
「何が起きたんだ!?確か、どこからか声が聞こえてきて……」
アキラは、声が聞こえてきた方向を探していた。
「大丈夫?生きてる?間一髪、なんとか間に合ったみたいね。ごめんなさい……遅くなって……あなたが、『シルバークロウ』の新人さんね?」
アキラは、小さな光が見えた方向に歩いていくと、そこには、ヘルメットを被り、ライダースーツを身に纏い、バイクに乗って銃を構えていた女性だった。
「あなたが、協力者を名乗って、無線に通信してきた女性は?」
アキラは、まだ彼女が協力者を名乗っていた女性かどうか、怪しかったため、銃を突きつけて、様子を伺っていた。
「どういうつもりかしら?」
女性は、銃を突きつけられていても、冷静な態度でいることは、ヘルメット越しからでも伝わっていた。
「作戦本部は、あなたを始末するように追加指令を出してきた。その作戦本部も信用ができなくなった今、誰も信じることができない」
「そういうことね。分かったわ」
「何を……」
彼女は、手にしていたピストルをこちらに放り投げると、バイクから降りていた。そして、そのままこちらに近づいて来ていた。撃たれるかもしれないということは、考えていないのか、躊躇なく少しずつ距離を詰めて来ていた。
「俺が撃たないと思っているのか、もしくは、彼女自身が撃たれるかもしれないという考えはないのか。何を考えているんだ……」
アキラは、拳銃を突きつけているにも関わらず、近づいて来る彼女が何を考えているのか分からず、緊張感で押し潰されそうになっていた。そして、気付いた頃には、銃口の先が彼女の身体と密着していた。
「どうしたの?私が信用できなくて、撃ちたいなら撃ちなさい」
「怖くないのか?」
「あなたを信頼しているからよ」
そう言うと、彼女はヘルメットを脱ぐと、銀髪の長い髪が姿を現していた。そして、彼女はそのまま驚く行動に出ていた。
「ちょっと……何して……」
「あなたの疑いをなくすにはこうした方が早いからね」
なんと、彼女はライダースーツのファスナーを下ろしていた。ファスナーを下ろしていくと、彼女の胸が露わになっていくが、彼女は動揺はしていなかった。
「うう……」
アキラは、ライダースーツ越しからも分かっていたが、かなりのスタイルの良さで、しかも、ライダースーツを脱いで、姿を現した大きな胸に思わず見惚れてしまい、言葉を失っていると彼女は身体を密着させていた。
「フフ……可愛い反応するじゃない。それで、私への疑いは晴れたかしら?」
「わ、わかった。あなたを信頼します」
アキラは、銃を下ろすと顔が赤くなっていた。
彼女は、アキラの言葉を聞くと、密着させていた身体を離して、ライダースーツを着直していた。
「フフ……少しは分かってもらえたみたいで、うれしいわ。私は、エリザよ。よろしく……」
「俺の名前は、アキラです。よろしくお願いします」
エリザから握手を差し出されたアキラは、エリザの顔を見ながら、握手をしていた。アキラにとって、エリザの顔が見えることによって、顔が見えない相手による不安や悩みから、安心できる協力者へと変わっていた。
「それじゃ、必要な物資を渡すから、とりあえず、一旦、廃墟の中に入りましょう。さっきのことで、増援が来られないとも限らないから……」
エリザは、バイクに乗せていたアタッシュケースなどアキラのために持ってきた物資を廃墟の中へと運んでいた。
エリザは、廃墟の中の窓がある部屋まで運び終え、荷物を降ろし終えると、周囲を警戒しながら、ケースを開けて行く。
「はい、あなたのために持ってきた武器よ。先ずは、アサルトライフルね。それと、小型拳銃をいくつか。これなら、あなたもジャングルで遭遇した人型モンスターを倒せるはずよ……」
アキラは、エリザからアサルトライフルと銃弾を受け取ると、気になっていたことをエリザに聞こうと口を開いた。
「ジャングルで、遭遇したあの人型のモンスターは何ですか?それに、あなたの情報では、ゲイル博士は無理やりやらされる研究に嫌気をさしたと言っていましたけど、その情報は間違っていました。一体、どういうことなんですか?」
エリザは、申し訳なさそうな顔をしながら、下を向いていたが、アキラの方を向き直していた。
「ゲイル博士のことは、本当に申し訳なかったわ。まさか、ゲイル博士は、積極的に研究を進めていた人間側だったなんて思わなかったのよ。どうやら、私のことを疑い始めたゲイル博士は私を始末しようと考えたみたい。だから、私にもあの人型モンスターについて、それほど情報が手に入れられていないのよ……ごめんなさい」
「あっ……いえ、俺の方こそすみません。とりあえず、これで、しばらくは対処できそうです。それじゃ、急がないと……」
アキラは、エリザから武器を受け取ると、廃墟から出て行こうとする。それに気づいたエリザはアキラを止めるために、声をかける。
「待ちなさい。ずっと、移動続きで疲れているんじゃない?」
「大丈夫ですよ……それに、今は少しでも早く移動しないと……」
アキラは、エリザを振り払おうとすると、身体がふらついてしまっていた。
「ほら?やっぱり、疲れているじゃない。それに、夜のジャングルは危険よ。日が昇るまでは、せめて休みなさい」
「でも、その間に増援が来ないとも限らない」
「はあ……仕方ないわね。あなたが安心して眠れるように、廃墟の部屋の窓から、増援が来ないか見張っておいてあげる。だから、あなたは少しでも身体を休めなさい……」
エリザは、無理やりにでもアキラを寝かせようと身体を横にさせていた。
「わ、わかりました。休みますよ……」
アキラは、エリザの言う通りに身体を休めることを決めると、眼を閉じて眠っていく。
アキラが横になり、数分もしないうちに深い眠りに落ちた。エリザは窓際で警戒を続けていたが、疲労からか、わずかに集中力が途切れた瞬間があった。
その時、ズン、と廃墟の外壁を揺らすような重い音が響いた。
「何っ!」
エリザは即座にアサルトライフルを構え、音のした方向に目を凝らす。
「不味いわね。増援が来たかもしれない、アキラを起こさないと……」
エリザは、大きな音がしたために、アキラを起こし始める。
「どうしました?」
「外で大きな音がしたから、増援が来たかもしれない。私が時間を稼ぐから、あなたはグレネードで開いた横壁から、気づかれないように出て行くのよ。わかった?」
「エリザさんは、大丈夫なんですか?あなたの正体がバレるかも、それに、数が多いなら一人でも多い方が……」
アキラは、エリザの心配をしてしまい、思わず口を開いていた。
「私なら、大丈夫よ。こういう修羅場なら、何度も乗り越えてきたわ。それに、まだゲイル博士以外の研究員達は、私のことを疑ってはいないみたいだったわ。それに、ボスは私に気があるみたいだったから、そこをうまく利用すれば、万が一何かあっても、大丈夫よ。あなたの作戦目的を思い出しなさい。後であなたに通信をするわ。んん……」
「ううっ!?」
エリザは、アキラの唇にキスをした後、ヘルメットを被るとバイクに跨り、バイクで勢いよく廃墟の外へと出て行った。
「エリザさんが時間を稼いでくれている間に出て行かないと……」
アキラは、武器のチェックを確認した後、グレネードで開いた部屋まで向かい、警戒しながら、廃墟の外へと出て行った。
アキラが、廃墟から出ると、増援部隊に気付かれないように、廃墟から離れようとしていた。その間も、銃撃音や人型モンスターの叫び声が激しさを増していき、アキラの頭には、エリザへの心配が増していた。
「戻っちゃダメだ。せっかく、エリザさんが時間を稼いでくれているのに、それに新人の俺よりは、こんな状況には慣れているって言っていたから、心配するのは失礼だよな……」
アキラは、余裕な態度で、エリザはいたが、銃撃音や叫び声が頭から離れず、一歩一歩が重たくなっていた。
それでも、彼女との約束を信じて、歩き出そうとした瞬間・・・
「近くにいるんだろ?早く出てこい。さもないと、人質がどうなっても知らないぞ!!」
アキラは、人質という単語が聞こえ、足が前に動けなくなっていた。
「(このままじゃ、エリザさんがあぶない。出て行くしか……)」
アキラは、ライフルだとエリザさんの身も危険だと判断し、小型拳銃を構えると、後ろに振り返り、周囲を警戒しながら、声のする方へと歩みを進めていた。
「ようやく、姿を見せたか。お前が、このジャングルにやってきた鼠のシルバークロウのアキラだな……」
アキラを待ち構えていたのは、ヘルメットを被っているエリザを羽交い締めにして、喉元にナイフを突きつけている男性の姿だった。
「どうして、俺の素性を知っているんだ?」
アキラは、喉元にナイフを突きつけられているエリザのことを気にしていると、自分のことが既に敵にバレていることを知ると動揺を隠せないでいた。
「鼠が入り込んできたことは、把握していたからな。情報が入って来ていたんだ。」
「お前も、研究施設の人間なのか?」
「俺は、研究施設に近づいてくる邪魔者を排除するために、用意された特殊部隊『ケルベロス』のファウンドだ」
「一体、あの研究施設の中で、何が行われているんだ!?」
「良いのか?人質に当たっても?」
エリザは、銃口を突きつけて、話を引き出そうとしているアキラの様子を伺っていた。アキラに夢中になって隙ができたところを狙って、ファウンドの身体を振り払おうとする。
「動くな!うん?」
ファウンドは、逃げようとしていることに気づき、人質であるエリザの身体を引っ張る。その際に触れてしまった胸の感触に違和感を感じていた。
「ん?もしかして、女スパイか?」
「くっ……はあはあ……」
エリザは、ナイフの刃先が喉に触れてしまい、思わず吐息が漏れてしまっていた。
「クンクン……雌犬め、香水なんてつけやがって、まさかもう一人の鼠が女だったとはな……」
「ファウンド、人質をどうするつもりだ?」
「そうだな、先ずは、この雌犬の正体を確認しようか?」
ファウンドは、ナイフを突きつけながら、ヘルメットを外していく。ファウンドは、ヘルメットの中から、姿を現した顔に驚いた。
「まさか、雌犬の正体が、研究施設の中にいるはずのエリザだったとは……」
「まさか、特殊部隊『ケルベロス』が、研究施設に来ているなんて思ってもいなかったわ」
「鼠を始末しに来たが、予定変更だ!」
「ぐはっ!?」
ファウンドは、エリザのお腹にパンチを喰らわせていた。エリザは、気を失うとその場に倒れてしまう。
「ファウンド、彼女をどうするつもりだ?」
「この雌犬はな、ボスのお気に入りだ。勝手に手を出すことができないことになっている」
ファウンドは、倒れているエリザを抱え上げた後、振り返って戻ろうとしたが、足を止めて、アキラに向けて、二枚のパスキーを投げ渡していた。
「どういうつもりだ?」
「お前を試すんだよ。彼女を助けたければ、研究施設の中まで辿り着くんだな。まあ、その時にこの雌犬がどうなっているかは、分からないがな。それに、パスキーを手に入れたところで、お前を始末するために、強力な刺客が待ち構えているから、簡単には入れないぞ」
ファウンドは、エリザを抱えたまま、アキラの目の前からいつの間にか姿を消してしまっていた。アキラは、ファウンドが見当たらなくなってしまい、悔しさに押し潰されそうになっていた。果たして、アキラは差し向けられる刺客を退け、無事にエリザを助けられるのだろうか、そして、無事に初任務を完遂することができるのだろうか……