ゴロゴロゴロ
激しい雨が続いている。
そのとき、「うわぁぁぁ」という男の悲鳴が、、、

ウーウー

「死亡推定時刻は23時被害者は芹沢圭太さん24歳男性、会社員だと思われます。事件当時被害者は酒によっていたと見られます。」
「了解した。」

俺は高野守、警察官だ。
昨夜、この別荘で事件があり来てみたが被害者は酒によっていたということでうっかり足をすべらせてバルコニーから落ち転落したんだろう。

　「うーん、これは、、、」

こいつは小暮雄一。俺の同僚だ。こいつはいつも自分のヤマではないことに首を突っ込んでくるので、とても迷惑している。

「これは他殺の可能性が高いな。」

はぁ？雄一は何を言っているんだ。

「いやいや、これは事件性がないということで決まりだろう。」

なぜこいつは他殺だと思ったんだろう。

「はぁ本当に守は、、、」

なんだコイツ俺のことバカにしてんのか。

「お前本当に何なんだよ。俺のことバカにしやがって。いい加減にしろよ。」
「守のことバカにしたつもりはないんだけど、、、まあいいや。邪魔してゴメンな。」

　雄一は納得しない様子でそう言って去っていった。

「あの...」

振り返ると、そこには若い男が立っていた。

「どうしましたか？ここは立入禁止のはずですが。」

男は焦ったような顔をして口を開く。

「えっと、僕は芹沢の元友人です...すみません。ここ、立入禁止なんですよね。でも、芹沢が亡くなったって聞いて思わず来てしまって...」

明らかに気弱そうで、立入禁止の現場に無断で踏み込むような人物には見えない。
それに「元友人」？

「お名前は？」
「あ...瀬田祐也です。」

手帳を取り出し瀬田の名を記す。

「瀬田さんは芹沢さんのことを元友人と言いましたが、具体的にはどんな関係だったんですか？」
「...いわゆる、幼馴染だったんです。地元が同じだったので小学校が同じで。それから、大学卒業までずっと同じ学校に通っていました。」

かなり長い間交友関係があったようだ。
それなのに、なぜ今は「元」なのか。

「でも、あいつは大学二年生になった頃から様子が変わっていって...以前だったら絶対にしないようなことをするようになって。変な噂も流れ始めていて。僕はどう接するべきか悩んでいるうちに、芹沢の方から縁を切られてしまいました。」

｢変な噂、とは?」

｢芹沢が…怪しいヤクザのような奴らと関わっているという噂です。今まであいつは危ないことなんて一切しない奴だったのでなおさらおかしく感じました。」

瀬田の話を聞き、(ヤクザ…そういえば最近組同士の小競り合いが激しくなっていると雄一が言っていたな…そこに関係しているのか?）　思わず考え込む。

｢あのー刑事さん?」

ハッとして現実に引き戻される。深く考えすぎてしまうのも悪いクセだ。

｢貴重なお話ありがとうございました。また詳しくお伺いしたいため後で署までご同行できますでしょうか。」

｢あ…もちろんです。僕にできることがあれば何でも。芹沢とは長い付き合いでしたから、誰かに殺されたのなら敵を取ってやりたいです。」



瀬田と一旦別れ、一人になったところへ雄一がやってきた。

｢おーーい　なんか手がかりあったか?」

遠くから大声で呼んでくる。

｢大声やめろよ…」

呆れた目を雄一へ向ける。

｢ごめんごめん　で?どうだったんだ?」

俺は瀬田さんとの話を伝える。

｢なるほどな。」

署に戻り捜査を進めた。
とりあえず芹沢さんが、本当に怪しいヤクザに関わってたのか調べるか。
．．．どうやら芹沢さんは蓮渡町のヤクザの一員だったようだな。
すると誰かが部屋に入ってきた。


「おい守、何か掴めたか？」
俺は溜息をつき、しぶしぶ芹沢さんについてわかったことを伝えた。

「なるほど．．．」

「なぁお前、この前組同士の小競り合いが激しくなってるって言ってたよな？そのことと今回のこと、何か関係あるんじゃないか？」

「そうかもしれないな．．．あれは梅花町のヤクザと蓮渡町のヤクザとの小競り合いなんだ。梅花町のヤクザの一人と蓮渡町のヤクザの一人の金銭トラブルが原因でな。」

「そういうことだったか．．．もしかして、その蓮渡町のヤクザの一人って、芹沢さんのことなんじゃないか？」

「だとすると、梅花町のヤクザの一人って誰のことなんだ？」

「とりあえず、このことを瀬田さんに伝え、他に知っていることがないか聞こう。」


翌日このことを瀬田さんに伝えた。
その時瀬田さんが、一瞬動揺したように見えた。

「瀬田さん、芹沢さんについてもっと詳しくお話いただけますか？」
「は、はい．．．」

「芹沢は前に言ったように危ないことはしない、事なかれ主義のような人間でした。ヤクザとは無縁であると思っていたんですけれど．．．。」

瀬田はそこで一回押し黙り、次の言葉を発しようとしなかった。
不審に思うも、その続きを促す。

「蓮渡町のヤクザとの関わりなどがあったとかの話は聞いたことはありませんか。」

「僕は、芹沢の噂が流れてからは関わってきていなかったので直接、ではないのですが、知り合いからは少し、聞いたことがありまして。なんでも、起業やら就職やらなんやらで借金をつくっていたみたいで、その大元が蓮渡町のヤクザだったとか。まぁホントかどうかは知りません。」

話を聞いていても特に嘘をついているような様子はなさげだ。

「そのお知り合いの名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「えぇ、もちろん。原谷大河です。確か今は梅花町の方に住んでるはずですね。」

梅花町
このつながりは偶然ではないかもしれない。

「ご協力ありがとうございました。また新しく教えられることがありましたらお伝えします。」

「ありがとうございます。それでは。」

瀬田さんは何回か会釈したあと部屋を出ていった。

「はぁ」
瀬田さんの出て行った部屋で1人溜息をこぼす。
一つの死亡事件にヤクザの小競り合いまで関わっているかもしれないなんてな。

「どうした溜息なんかついて」
背に降った言葉に振り向くとそこにはやはり雄一がいた。

元はと言えばコイツが変なことを言うから
…待てよ？

「なぁお前はなんであの事件現場を見てすぐに事件性があると判断したんだ？」

慎重にそう問うと雄一はいとも簡単に答えた。

「だって考えてみろよ。そもそも酔った人間が急にバルコニーなんかに出るか？」

「それは、夜風に当たろうとか思うだろ」
言い訳がましくそう言えば雄一は笑った。

「だって事件当日は“稲妻の夜”だったんだぜ？夜風も何もベランダと違い屋根のないバルコニーは雨が防げないだろ？」

確かにそうだ。でもそれならば
＿犯人は被害者に恨みがあった、かつ被害者の住居を知り入り込む隙のあった人物。
…いや候補が多いな（（
まぁまずは

「どこ行くんだ？」

「梅花町」

ヤクザとの関わりを調べなくては。
それに“何故それを瀬田さんが知っているかも”…

少なくとも解決までの折り返し地点はもう過ぎたんだ＿＿

梅花町に向かう途中、雨は降り続けていた。

｢守、瀬田の反応おかしいと思わないか？」

図星だ。確かにあの瀬田の動揺…芹沢の友人だったというには少しおかしい気がする。


梅花町に到着し、原谷に話を聞いたが、怯えるばかりであまり多くを語ろうとはしなかった。ただ一つ気になる言葉を残した。

｢芹沢が…死ぬ前に電話をかけてきたんです。『俺の場所や借金のことまで知られている…助けてほしい。』って」



原谷と別れた後、一旦署に戻り、資料を整理していると瀬田のことが頭をよぎった。

原谷の言っていたこともそうだが、芹沢との長い付き合い、あの瀬田の動揺は
何かを知っているからなのでは？

｢瀬田が…何か関わっているのか？」

その時、スマホが震えた。通知には、瀬田が昨日芹沢の別荘付近を訪れていたという警備会社からの連絡だ。

｢偶然じゃないかもしれない…」

俺は雄一と目を合わせうなずく。

事件と瀬田が深く関わり合っている気配がする。