逃走

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3000文字以下 30人リレー
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  • 登場人物が死ぬの無し
  • ミステリー
  • 暴力描写無し
  • 性的描写有り
  • 自由に続きを書いて
1人目

高次は走った。目指すは北の方角にある海。この国で唯一、自分の居場所と呼べる場所だ。
「人が倒れてるぞ!」「事件だ!」
後ろから何人かの悲痛な叫び声が聞こえたが、高次は走り続けた。今はとにかく海にたどり着くことしか頭にない。
「おい!あそこだ!追え!」
サイレンの音と共に、警察官たちの怒号が近づいてくる。高次は小道に逸れ、人ごみに紛れ込んだ。
「くそっ、見失ったか…」
警察官たちの声が遠ざかっていく。高次はほっと息をついたが、まだ安心はできない。
高次は小道を抜け、人ごみから離れると再び走り始めた。海までの距離を半分ほどにしたところで、高次は小さな公園を見つけた。ベンチに座って休んでいると、後ろから近づいてくる足音がした。高次は身構えたが、足音の主は地元の漁師らしき男だった。
「警察に追われているのか?」

2人目

「は、はい。そうなんです。でも、僕には北の方角に行かないといけないところがあるんです……」

「そうか、だが、船を出してやりたいところだが、これから波が高くなるから船を出すことが厳しいな。そういえば、確か、娘がバイクで北の方に住んでいる漁師仲間に会いに行くって言っていたから、聞いてやろうか?」
高次は、差し出された提案に驚きを隠せないでいた。

3人目

警戒心と、差し伸べられた手に縋りたい気持ちがせめぎ合う。
「あの…なぜ、僕なんかに?」
高次は率直に尋ねた。
漁師は顎鬚を撫でながら、遠くを見た。高次には海原を見つめているように感じられた。
「さあな。ただ、切羽詰まった目をしているのはわかる。それに、あんたの目指す北の海は、俺たちの仲間が多く暮らす場所だ。海はな、困った者を無下にはしねえ、というのが古くからの掟でな」

4人目

高次は、漁師の優しさに思わず涙を流していた。ひたすら、走り続けて疲労している高次にとっては、この上なく、ありがたい話だった。

「あんた、楓に連絡したら、構わないって言ってくれとる。間も無く着くから、いつでも出れるようにしておけだと……」

「ありがとうございます。」
高次は、涙を流しながら、漁師の手を握っていた。

5人目

間もなく、軽快なエンジン音と共に一台のオフロードバイクが公園の脇に滑り込んできた。ヘルメットを脱いだのは、ショートカットで快活そうな女性だ。
しかし、彼女の瞳は鋭く、高次を値踏みするかのように見つめている。
「楓だ。親父から聞いた。北まででいいんだな?」
声には優しさよりも、面倒事に関わることへのわずかな苛立ちが混じっていた。高次は慌てて頭を下げる。
「はい、お願いします。本当に助かります」
漁師は高次の肩を叩き、楓に言った。
「頼んだぞ、楓。この子は急いでいるんだ。道中、気を付けてやってくれ」

6人目

「分かってるよ。やれやれ、面倒ごとに巻き込まれて……」
楓は思わずため息をついてしまっていた。

「あんた、名前は高次って言ったけ?」

「はい…」

「ほら、どうせ食べ物や飲み物を買ってる余裕ないんだろ?」
楓は、おにぎりとお茶が入った袋を高次に渡していた。

「あ、ありがとうございます。」
高次は、袋を受け取り、頭を下げていた。

「さて、追われているからちんたらしてたら、捕まるかもしれないから、さっさと行くよ。ほら?後ろに乗って……」
楓は、バイクのヘルメットを投げるとバイクに跨り、後ろに乗るように合図をしていた。

「は、はい。お願いします」

「しっかり、つかまっておきなよ。あっ……でも、どさくさに紛れて変なところ触るなよ?」

「わ、分かってますよ」
二人は、バイクに乗ると、走り出していた。

7人目

高次は、楓にしっかりしがみつきながら、バイクでの移動で少しは警察の追っ手から時間を稼げると思っていた。

しかし、予想外の出来事が待ち受けていたのである。

「どうして!?警察が目の前に……」

「悪いが、乗せていけるのはここまでみたいだ。まさか、警察が先回りしているなんてな……」

二人は、追っ手の警察から逃げることを考えていたが、先回りされていたのか、移動先に既に何人かの警察が捜索をしていたのである。