男子トイレ

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  • ホラー
  • ミステリー
  • 性的描写有り
1人目

帰り支度をしていると、何やら男子生徒達が騒がしいのに気がついた。
何やら噂をしているらしい。
「おい聞いたか?水泳部の男子トイレの噂」
「ああ、知ってるぜ。便器の中からタコかクラゲみたいなヌルヌルした物が出てくるんだろ?本当ならヤバいな」
「田村と石塚は男子トイレでソレに吸われちまった、という噂だぞ」
「そういやあの二人しばらく見かけないな…」
「部活の後、そこに集まろうぜ。明るい時にはソレは出ないだろうから、暗くなってからな」
そんな会話を聞きながら僕は鞄を持って席を立った。

2人目

「吸われる」という言葉は気になったが、血液や生命力といった類ならもっと大事件になっているはずだ。隠しきれないくらいの大騒ぎに。そうじゃないということは、もっと個人的な、しかし厄介な何かだろう。
僕は教室を出て、誰もいない廊下を歩きながら考えた。
田村と石塚が学校から消えたのは事実。確実に何かが起こっている。
噂の水泳部の男子トイレは、普段使われる場所から少し離れた、プールの横にある古びた建物にある。
(タコかクラゲみたいなヌルヌルした物…何かに吸われる…)
強い好奇心が湧き上がってきた。

3人目

僕は好奇心に突き動かされ、噂の水泳部の男子トイレへと向かった。プールサイドの古びた建物。近づくにつれて、鼻を突く塩素の臭いが強くなる。
ガラガラと音を立てつつドアを開けると、中は薄暗くひんやりとしていた。
便器は三つ。どれも古い型で少し黄ばんでいる。
僕は警戒しながら一つ一つ覗き込むが、異常は無い。
しかし、一番奥の個室からほんの少しだけ甘い匂いがしたのが気になった。
その時、遠くから足音が聞こえてきた。それも複数の足音だ。
「おい、誰もいねえか?」
「まだ早いんじゃねえか?」
足音は確実に近づいてくる。
僕は反射的に、入口近くにある古びたロッカーの陰に身を隠した。彼ら──水泳部員たちは、どうせ便器を覗きに来るのだろう。
その時に、噂の「何か」が出てきて彼らを襲うのか?
僕の胸は高鳴っていた。彼らは今から、噂の通りになるのか、それとも噂を確かめるだけで終わるのか。どちらにしても、僕はその光景を最初から最後まで見届けるつもりだった。
ガラッと、乱暴にドアが開いた。
「よおし、いるのは僕らだけだな」
彼らは予想通り、黒い競パンだけの姿だった。濡れた髪と、肌に張り付いた薄い布地が、彼らがプールから直行してきたことを示していた。誰も彼も、鍛えられた体つきをしている。
水泳部員達は早速便器を一つずつ覗き込み、笑いながら冗談を飛ばし合う。
「ほら、なんもねえじゃん。タコとかクラゲとか、誰かが適当に流した噂だろ」
「でもさ、田村と石塚が消えたのはマジだよな。どこ行ったんだろ?」
彼らの会話は軽快だったが、どこか緊張感が漂っていた。僕はロッカーの陰で息を潜め、彼らの動きを観察した。
甘い匂いはまだほのかに漂っているが、便器には何の異常もないように見えた。

4人目

「なんか臭わねぇか?」
水泳部員達も甘い匂いに気づいたようだ。
「誰かここでお菓子でも食ったんじゃないか」
「ここ誰も来ないもんな」
「俺達もここで何かやっちまうか」
「いいな、それ」
水泳部員達は何か良からぬ事を考えたようだ。

5人目

水泳部員の一人、背の高いリーダー格の男が、ニヤリと笑って一番奥の個室を指差した。
「よし、じゃあここで一発抜くか。誰も来ねえし、ちょうどいいだろ」
部員たちの笑い声が、薄暗いトイレに響いた。彼らは競パンを少し下げ、下品な仕草をし始めた。

僕はロッカーの陰で顔をしかめた。その時だ。

甘い匂いが一気に濃くなった。それは、焦げ付いた砂糖のような、吐き気を催すほどの強烈な芳香に変わった。 同時に、一番奥の個室の便器から、チュルルル…という粘着質な音が響いた。
「なんだ?」
リーダー格の男が、動きを止めて便器を覗き込んだ。
便器の水面が泡立ち、そこから濃い飴色をしたゼリー状の物体がゆっくりと盛り上がってきた。
それは確かにクラゲのようにも見えるが、形は不定形で表面は油のようにぬらぬらと光っている。そして、その飴色のゼリーの先端には微かに赤い血管のような筋が透けて見えた。

6人目

「本物だ、タコクラゲ野郎だ!」
水泳部員たちは一瞬で顔色を変え、一斉にドアへ向かって押し寄せた。リーダー格の男も慌てて後ずさりする。
しかし、飴色の化け物は彼らを襲うどころか、便器の縁に静かに留まり、先端をプルプルと振動させているだけだった。