プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:17

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1人目

「Prologue」

【世界同時布教編】原文:霧雨さん

 ジャバウォック島より帰還したシャルル遊撃隊と流星旅団の別動隊。
そして、存在しなかった世界より帰還した銭形警部。彼らを待ち構えていたのは、
教団の頂点に立ち、女神の力と己らの武力を以て為す狂気「世界の純化」を掲げた
魅上の「全世界同時布教」であった。

 見せしめとばかりに、犯罪者の隠れ蓑であった島を謎の爆撃で破壊して見せた
彼らの要求は「魔術王の護符」という謎の宝。
それが如何な力を持っているかは知らないが、彼らに安々と渡すわけにはいかない。
そして何より、あんなものを見せつけられて指をくわえてみているわけにもいかないCROSS HEROES。

 次なる舞台は、教団の待つ悪徳の船「パール・グロリアス号」。
物語は激動と決戦の渦へと突き進んでゆく―――!

【幻想郷出立編】原文:AMIDANTさん

 「悪霊事変」から数日、人里で復興を続ける日々にも、遂に終わりが来た。
「サイクス」と「ザルディン」が、命蓮寺の「聖白蓮」との協力を取り付け、
暗黒魔界へと渡る為の方舟「星蓮船」を動かし暗黒魔界へと導く事と相なったのだ。
また偶然にも遭遇した「古明地こいし」が、何やら「悟空の無意識」に惹かれて
同行する事に。アビダインの改修も終わり、各々が準備を進める。

 しかしそれ以上に急かすアビィから、2つの不安要素が明らかになる。
1つ目は魔界で辛うじて生きていたというアシュラマンの為に、先に悪魔将軍等
悪魔超人達が先に向かい、それから連絡が取れてないという事。
唯一の連絡役であるBHを初めとして、何かが起こったのは間違いない。
2つ目は岸辺露伴の献身(?)によって明らかになった、
「悪霊量産機の全世界配備計画」という悍ましき物。
たった一つの「悪霊量産機」、もとい「廃棄孔」で以て幻想郷を震撼させた「悪霊事変」の恐怖による統治が、表の世界で起こらんとしているのだ。
悪魔超人達の安否確認、そして悪霊量産機の対処…
本来の目的であった「暗黒魔界の強行偵察」は、最早一刻の猶予も無くなったと言える。

 事態を把握した一行は食事の間も惜しんで準備を終わらせようとする。
その最中、突如として現れた「丸喜拓人」が彼等に協力を申し出る。
対価は「話し合い」、正確には彼の「認知訶学」が齎した「偽りの1年」の反芻だ。
彼の真意が今一つ読めない中、決断を迫られる心の怪盗団。
ところが「キン肉マン」がこれを快諾、周りを巻き込む形で事態を収束させ、
「丸喜拓人」を協力者として向かい入れた。

「絶対に、相容れないよ?」
「だとしても言葉を尽くす、良いではないか。悪戯に戦わんのに越した事は無い。」

 正義超人の、分かり合う為に戦うという精神。
忘れかけていた志を再び宿しながら、彼等は暗黒魔界へと旅立った。
――これから彼等を待ち受ける苦難は、想像の遥か上を行く。
悪魔超人達を助け出す事は出来るのか。
その最中で起こる「話し合い」が、どの様な結末を迎えるのか。
そしてこいしの語る「悟空の無意識」が、一体何を齎すのか。
五里霧中の最中、彼等は進む――

【特異点防衛:SIDE完璧超人編】原文:AMIDANTさん

次なる征服の地として特異点を選び、強襲したミケーネの神々。
彼等とCH、カルデア等の面々が特異点の人々を守る為に応戦を繰り広げる最中、
突如として戦闘獣等を破壊しながら乱入した完璧・無量大数軍。
そのリーダー格たる武道は、ミケーネの神の意思を問いただし、聞いた上で告げる。

「貴様等は『神』等という高尚なモノでは無い、ただの侵略者…『賊』に過ぎん。」
「貴様等『賊』にくれてやるのは_『罰』であるっ!」

カール大帝の遣いとグリムリパーが見守る中、完璧超人と神の軍勢が、今激突する。

【Lycoris Recoil・前編】

 異世界から数々の勢力が交差する街・神浜市。
CROSS HEROESの戦いの余波が残るこの地で、魔法少女たちは不穏な噂と、
次なる異変の兆しに巻き込まれていく。

 そんなある日、神浜に突如として現れたのが、異世界の喫茶店《喫茶リコリコ》。
その正体は、別の世界から建物ごと転移してきたリコリス――
秘密裏に治安を維持する少女兵士たちの隠れ蓑だった。
明るく天真爛漫な千束と、冷静沈着なたきな。そして天才ハッカーのクルミ、
元DA教官ミカや元情報官・中原ミズキらが、神浜の街で新たな日常を送ろうとしていた。

 だがその裏では、「白い彼岸花のウワサ」という都市伝説が広まりつつあった。
噂によれば、白い彼岸花を見た者は“選ばれ”、やがて返り血を浴びて赤く染まるという。
千束はその話に興味を持ち、たきなや魔法少女たちと共に調査を開始する。

 やがて現れる謎の少女――天乃鈴音。彼女は白い彼岸花を手に、
まるで感情のない瞳でリコリスたちを襲撃する。魔法少女とすら思えぬ動き、
風のような剣技。鈴音は何者かに“選ばれ”、操られているかのように見えた。

 鈴音の背後には、世界の侵略を目論む《メサイア教団》の影があった。
彼らは特殊部隊「雀蜂」を投入し、「ソロモンの指輪」の在り処を探していたが、
鈴音によって全滅させられる。

 一方、リコリスたちと魔法少女たちは、徐々に互いの正体を明かし合い、
共闘を決意する。異世界から来たというリコリスの事情も、
神浜の魔法少女たちには驚きではなかった。過去に空条承太郎ら異世界の戦士とも
出会っていた彼女たちは、鈴音が神浜の外から来た“もうひとりの魔法少女”である
可能性を重く見ていた。

 夜の神浜市。街を駆ける鈴音を、魔法少女とリコリスがそれぞれ追う。
クルミのハッキングで動線を予測した千束とたきなは、バイクによる高速追跡を敢行し、
彼女との交戦に挑む。だが鈴音は彼岸花の囁きに従うように、
千束たちの“返り血”すら欲しているようだった。

 果たして、白い彼岸花の正体とは何か? 鈴音を蝕む“声”の正体は?
リコリスと魔法少女が手を取り合い、“選ばれた少女”を救えるのか――
今、神浜に再び嵐が吹き荒れようとしている。 

【ユートピア・アイランド・始動編】

 ICPOの銭形警部は、メサイア教団を追う中で次元の狭間に囚われ、
無人島に流れ着いていた。そこで出会ったのは、かつて息子ブロリーを利用した
サイヤ人の男・パラガス。メサイア教団を見限り、島に残り続けていた。

 やがてCROSS HEROESの一員・リクやファルデウスによって救助された銭形。
彼が語ったのは、メサイア教団の“本拠地”へ潜入したという驚愕の体験だった。
その教団は、ただの宗教結社ではなく、人類の「純化」と称して破壊と再編を試みる
狂信者集団であった。

 CROSS HEROESたちは未だ互いの情報を全て共有できておらず、
悟空らは暗黒魔界に向かい、不在。悟飯や承太郎らが前線を担う中、
島を焼き払われた怒りに燃える戦士たちは、空中に浮かぶ巨大要塞
「ユートピア・アイランド」へと急行する。
神を騙る道化、操る賢者、対抗する英雄たち。
すべての勢力が動き出す中、物語は“女神の覚醒”という終着点へと走り出す――

2人目

「呻る混乱と打破の希望」

 全国布教の混乱は激しく、世界各国の政府は一同に会議を始めた。
 その議題なんて、教団以外の何があろうか。

「先も言いましたが、我々の意見としましては魔術王の護符の一件については黙殺すべきかと。」

「あのですね、相手は神秘か超兵器か、核爆弾よりも強力な何かを以て島一つを地図から消したんですよ?黙殺がばれたら、ここだって吹き飛ぶ!」

「だったら護符を探し出して、黙って渡せと!?それだって所在が分からなければ意味がないだろう!そもそも、本当に存在するかどうかも……!!」

「教団側の挑発か、ありえるな。ない物を探している我々を、見えないところで嘲笑うために……悪趣味な。」

「仮に見つけて渡したとしても我々が生かされる保証はない!連中が嘘をついている可能性もある以上、用済みと分かればこっちが消される……!」

「国民を守るためにも、奴らのたわ言に耳を傾ける必要はない!」

 長い討論の果て、各国政府の下した結論は「教団の取引、その黙殺」だった。
 具体的に言うなら「魔術王の護符の件は期日まで無視し、相手側が何かしらの声明を出したり使者を送り込んだりするなどのアクションを起こせばこちら側も抵抗する」というもの。

 この行動には二つ懸念点がある。
 一つ、先ほどの布教で島を消してしまった謎の爆撃。こちら側の意図がばれれば、教団は間違いなく攻撃してくる。
 それを放った何か、その正体が爆撃機か空中戦艦か、はたまたミサイルなのかはまだ分からない。
 そしてあの見違えるほどの狂気に満ちた魅上の顔、あれは間違いなく「やる」顔だ。

 だがこれはまだいい、それは各国の軍部に任せれば爆撃元は特定できる。
 そこに自軍の武力を送り込めば、抵抗はできよう。

 真に問題となるのはもう一つ。
 教団の本拠地、である存在しなかった世界。その位置が政府には分からない。
 魅上を捕えるにしても、抗戦の懸念点である爆撃をすぐにやめさせるにしても、場所が分からなければどうにもならない。

 そも、存在しなかった世界は虚数空間の最奥に存在する。
 対策なく入ったら即死する毒沼に嬉々として飛び込む愚か者ではない。
 そして残念ながら、通常の科学技術では虚数空間への潜航はおろか解析も不可能。
 神秘の力を頼るにしたって、わずか二週間程度では十分な準備はできないだろう。

 だがしかし、だ。
 もし仮に、この地上においてメサイア教団の本拠地の場所をよく知っている者がいるとすれば―――。
 そしてその虚数空間から無事に生還する方法を一つ知っている者がいるとするのならば。



 警視庁 会議室
 雀蜂が去った後、すれ違い様に扉を蹴り開けるものが一人。

「一体何事だぁあ!!」
 無人島より帰還した、銭形警部だ。
 警視庁の危機を聞きつけて、駆け付けたはいいが、もうその場に雀蜂兵の姿はなかった。
「くそぉ、逃げられたか……!!」
 悔しさで拳を握りしめる。
 そこに残り会議を続ける警部一同は一斉に銭形を睨む。

「貴方は……?」
「私は、ICPOの銭形だ。」
 彼は慣れた手つきで警察手帳をみせる。
 銭形と松田。2人の人間、如何な苦境も跳ねのけ正義を貫き続けた者たちがここで出会った。

「あ、ICPOの……。」
「名刺を渡しあう暇はない、だが今回はここに入ったというテロリストをとらえに来ただけではない。」
「というと……?」
 そのセリフの後、銭形は真剣な表情で言った。
「――私は魅上の、連中の居場所を知っている。」

「「「え!?」」」
 そうだ。
 この銭形警部は存在しなかった世界に先んじて突入し、その居場所を知っている。

「そ、それはどこに……!?」
「う~む、とはいえ何と説明すればいいか……。」
 言葉に詰まる銭形。
 散々怪獣や超人といった神秘の存在を見せつけられ信じる気にはなっていても、こればかりはどうしようもない。
「こことは明らかに違う、異空間が存在する」と一口に言っても通常の方法ではどう説明すればいいのか……。
 彼が眉間を指でつまみ、悩んでいると。

「私はどんなことを言われても信じますよ、銭形警部。」
 たった一人、彼の言葉を信じる者が現れた。
 パソコンのモニターに移されたアルファベット「N」の字。
 その声の主――ニアだ。

「その声は……?」
「初めまして銭形警部。私は『N』という者です。皆さん、今回の事件はどんな可能性でも考慮しましょう。固定概念を捨て、神秘や異世界と言った通常はありえないものでも信じる事。それこそが魅上確保、そして教団解体につながるのですから。」

3人目

「伝説の凸凹トリオ! の巻/出撃!! スーパーヒーロー・ガンマ1号!」

 ――病院。

 窓の外に広がるのは、どこにでもある都会の風景だった。
高層ビル群が並び、行き交う車のヘッドライトが細い線を描く。
だが、それはあくまで見た目の話。この世界は今、異質な闇に包まれつつあった。

 テレビのニュース映像が無機質な音声を響かせる。画面には崩壊した島の映像。
黒煙を上げる建物の残骸、地図上から忽然と消えた島の姿――。

「メサイア教団め……!! 好き勝手やりやがって……!!」

 ウルフマンは険しい表情で病室のテレビを見つめていた。
彼の体には無数の包帯が巻かれ、右腕にはギプス。
動かせば激痛が走るが、今の彼にとって痛みは些細な問題だった。
それ以上に彼の心を苛んでいるのは―― 「戦えない」 という事実。

 丸喜パレス――かつてキン肉マンたちと共に戦った特異点での戦い。
ウルフマンは完璧超人クラッシュマンに敗北した。その記憶が未だに頭を離れず、
傷の痛みよりも深く彼の心を締めつける。
戦士としての誇りが傷つき、彼は恐怖を克服できずにいた。

「クソッ……ッ!」

 ベッドの上で、ウルフマンは歯を食いしばる。
指先がシーツを強く握りしめ、シワが深く刻まれた。

 今、自分はただのリハビリ患者だ。
世界が混乱し、正義を貫く者たちが前線で戦っているというのに、
自分は病室で悔しがることしかできない。それが耐えられなかった。
かつては日本代表の 正義超人だった男が……。

 すると、病室の扉が音もなく開く。

「焦るなよ、ウルフマン」

 低く、落ち着いた声が病室に響いた。
そこに立っていたのは、サングラスにルーズに着流したスーツ姿の厳つい男――
五分刈刑事。人間でありながら、正義超人たちを陰ながらサポートしてきた
破天荒なベテラン刑事である。彼のスーツにはタバコの香りが染みつき、その眼光は鋭く、ただの警官とは違う異様な貫禄があった。

 その後ろには二人の影。
一人は痩せぎすで、どこか頼りなさそうな白髪の髑髏男―― キン骨マン。

「お見舞い持って来ただわさ~」

 そしてもう一人は、その舎弟・イワオ。
フルーツバスケットを誇らしげに掲げながら、ウルフマンのベッドの横に置く。

「お前ら……」

 ウルフマンの表情が一瞬だけ緩む。
傷の痛みはもはやどうでもいい。それよりも、教団の暗躍、政府の動向、
そして戦えない自分――その全てが苛立ちの種だった。

 五分刈刑事はタバコを口元に咥え、ふっと煙を吐いた。
表情は変えないが、内心では何かを思案しているのがわかる。

「……まぁ、お前さんの気持ちは分かるつもりさ」

 彼は病室の壁に寄りかかりながら、ぼそりと呟いた。

「だが、今回の相手は今までの連中とはわけが違う。あのなんたら教団とやら、
島ひとつ丸ごとふっ飛ばしやがった。そんな奴らに通常の警察なんぞが
通用すると思うか? 軍隊だって太刀打ちできるか分からん。
そんな奴らに立ち向かえる奴らがいるとしたら……心当たりはひとつしかないがね、俺は」

 ウルフマンは黙り込んだ。
理解はしている。だが、納得はできない。

「……俺は何もできねぇのかよ?」

 彼の声には、悔しさが滲んでいた。

「キン肉マンたちは今も別の世界で死ぬような思いして戦ってんだぜ。
なのに、俺だけがこんな所で……」

 ウルフマンはベッドの柵に肘をつき、俯く。
リハビリ患者としての現実が、彼を突きつけるように押し潰す。
五分刈刑事は静かに歩み寄り椅子に腰を下ろすと、視線をウルフマンの
包帯だらけの腕に向けた。

「お前は焦ってる。でもよ、それが今、一番危険なんだ」

 ウルフマンは苦しげに眉をひそめた。

「……危険?」
「お前、まだ自分の恐怖を克服できちゃいねぇんだろ?」

 五分刈刑事の言葉に、ウルフマンの顔が引き締まる。

「お前をそこまで痛めつけた奴の事が……まだ忘れられねぇんじゃねえのか?」

 ウルフマンは無言のまま拳を握る。痛みよりも深く刻まれた敗北の記憶。
あの瞬間、完璧超人の圧倒的な力を前に、自分の力では何もできないと感じたあの絶望。
その記憶が、今でも脳裏にこびりついている。


 ――Dr.ヘド研究所。

 白く輝く研究所の奥深く、巨大なシャッターがゆっくりと開いていく。
機械仕掛けのアームが動き、冷却装置の蒸気が床を這うように立ち込める。
そこに立っていたのは、一体のアンドロイド――ガンマ1号。

 そのボディはスリムでありながら、洗練されたデザインと圧倒的な強度を
兼ね備えている。 赤いマントがなびき、鋭い眼差しが前を見据えていた。

 そして、彼の前には、白衣をはためかせた男が立っていた。

「ついに完成した……!」

 Dr.ヘドは目を輝かせ、手にしたタブレット端末を操作しながら
ガンマ1号のデータを確認していた。 最新の人工知能、エネルギー効率の最適化、
戦闘能力の向上――どれを取っても過去のアンドロイドとは比べものにならないほどの
出来栄えだ。

「ふふっ……これこそ、僕の最高傑作……!」

 Dr.ヘドは誇らしげに笑い、ガンマ1号に歩み寄る。
1号は静かに彼を見下ろし、冷静な声で問いかけた。

「あなたが私のマスターか?」
「そうだとも!」

 Dr.ヘドは満足そうに頷いた。
このロールアウトしたばかりのガンマ1号を、早速実戦に投入する時が来たのだ。

「ガンマ1号、お前には世界に正義を示してもらう。
僕はお前をただの戦闘兵器とは考えていない。お前は正義のヒーローだ!」

 Dr.ヘドは、力強く拳を握る。
彼の目には、ただの科学者としての野心だけでなく、純粋な正義への憧れが宿っていた。

「ヒーロー、か……」

 ガンマ1号は腕を組み、しばらく思案するように目を閉じた。
その言葉は確かに彼のプログラムに刻まれている。
そして、彼は静かに目を開くと、Dr.ヘドに向かって一歩踏み出した。

「了解しました。正義のために、出撃致します」

 その言葉を聞いたDr.ヘドは満足げに頷き、手にした端末を操作する。

「よし、ガンマ1号! 戦場へ向かえ! そして、この世界にお前の力を示すんだ!」
「はっ!」

 次の瞬間――ガンマ1号の足元に設置されたプラットフォームが青白い光を放ち、
重力制御装置が作動する。彼の体が軽やかに浮き上がり、次の瞬間、
音速を超える勢いで空へと飛び立った。

 岩陰をかすめ、雲を切り裂きながら進むその姿は、まさに新たなるヒーローの誕生を
告げるかのようだった――

「見ていろ、メサイア教団! 今こそ、僕が作り上げた
正義のスーパーヒーローが悪にトドメを刺す! さあて、1号と来たなら
それを助ける相棒、2号ヒーローも定番だよなぁ! 早速取り掛かろう」

4人目

「常識の通用しない世界へようこそ」

「皆さん、どんな可能性でも考慮しましょう。固定概念を捨て、神秘や異世界と言った通常はありえないものでも信じる事。それこそが魅上確保、そして教団解体につながるのですから。」
 ニアは言葉を続ける。
 警部一同、その場にざわめきだけを残して考察を始める。

 突き詰めれば、ここまでの物語はあり得ないことが重なって生まれた奇跡だった。
 神秘の実在、お台場の消失、人智を超えた力を持つ英雄(ヒーロー)たちの活躍。
 どれも日常ではありえない奇跡の集結。

 ならば、自分達のような超能力も神秘も持たない人間ができることは何だ。
 自分達もその『物語』に参戦している。
 しかも過去の亡霊の狂気、その具現を逮捕しろという。
 かといって今さら彼らを否定するのは人倫として間違っている。

「では銭形警部、何があったのかを正確によろしくお願いします。」
「あ、ああ……。」
 そうして、銭形は今までのことを全て話した。
 教団信徒を追って虚数空間に落ちた事。
 そこで出会ったカグヤという女性の事。
 彼女の頼みで、教団本拠地の存在しなかった世界を訪れた事。
 魅上は、そこにいた事。
 そして命からがら逃げて、無事に帰還したこと。
「……とても信じられん、その話がすべて真実だと?」
「ああ真実だとも、俺だって今でも頭の整理がつかん。まさか本当にあんな世界があったとはな……。」
 誰も彼もが信じがたい話に、頭の整理が追い付いていなかった。

(存在しなかった世界、虚数空間という毒沼の奥に沈みこんだ悪の王国。その毒沼は対策なく触れるだけで即死と来た。なるほど……魅上が強気に出られるわけだ。)
 位置というアドバンテージでは教団に分がある。
 虚数空間という厚い壁を攻略しない限り、自分たちに勝ちの目はない。
「銭形警部、そのカグヤという人物の連絡先は持っていますか?」
「すまん、あの時はそんな暇はなかった。」
「そうですか、それは残念です。ですが彼女が魅上の有利を崩す方法を握っているのは事実。もしもう一度出会えたのならば、その時は私を紹介してもらってもよろしいでしょうか?」
「それは構わんが……。」



 爆撃から数分後 アメリカ某所 某軍事基地

「あの爆撃の正体を探れ!」
「時間はないぞ!次の爆撃の可能性がある以上、いち早く阻止すべきだ!」
 米軍指令室は大慌てだ。
 先の爆撃、その正体を探らんと動いている。

 結論から言って、爆撃の調査は案外すんなり終わった。
 その正体を看破した航空写真と衛星写真が、解決の糸口となったのだ。
 だが、その正体は彼らを驚愕させるのには十分だった。

「え……嘘だ。俺達を騙そうとしているのか?」
「何があった!?」
「大佐……その、いえ。これを見てください。これはどう見ても……!!」
 職員の一人が、大佐と呼ばれた男に衛星が撮った写真を見せる。
 それは、大西洋上に浮かぶ一つの島。
 これだけでは爆撃したという証明にはならない。
「これがどうしたっていうんだ?」
「それが……大佐。これも見てください……。」
 そうして、大佐に航空機が撮った写真を見せる。
 その写真を見た大佐は愕然とした。

「そ、そんな馬鹿な。映画じゃないんだぞ!?」
「いやしかし、これはどう解釈しても……!」
 衛星写真、航空写真。
 その2枚が写した信じがたい事実。
 それは、一つの島だった。
 赤褐色の鋭い棘が生えた巨大な岩を切り取って、そこに無数の機械を埋め込んだような風貌。
 なるほど、島というにはありふれたものだ。

 ただし、高度5000メートル上空に浮かんでいるという条件付きだが。

「上に説明する身にもなってみろ、『爆撃機』の正体が空中島(ラピュタ)だったなんてどう説明すればいい!?」 
「航空写真で見えた艦名はユートピア・アイランド……何とも皮肉な。」

 艦名――『ユートピア・アイランド』。
 メサイア教団はビショップが見出し、島一つ切り出して建造した超巨大な空中戦艦である。

5人目

「歪んだ天空の城」

――国連本部・緊急安保会議室。

 ニューヨークの国連本部。
歴史あるこの建物の中にある最高機密会議室では、各国の代表が集まり、
緊迫した空気の中で討議を行っていた。

 スクリーンには、ユートピア・アイランドと名付けられた空中要塞の映像が
映し出されている。高度5000メートルに浮かぶその姿は、
まるで神話や伝説の空中都市のように不気味な威圧感を放ち、世界各国の安全保障を
脅かしていた。

「状況は深刻だ。すでに民間人が居住していた島が消滅し、被害は甚大だ!」
 
 米国代表が声を荒げる。

「この脅威に対抗するには、我々の通常戦力では到底及ばない。
正義超人たちの力を借りる以外に方法はない!」
「CROSS HEROESに連絡を取ったのか?」
 
 英国代表が尋ねる。

「もちろんだ!」
 
 国連安全保障理事会の議長が深いため息をつきながら報告する。

「すでにCROSS HEROESには、正義超人たちの緊急出動を要請している。
彼らの力があれば、この危機を回避できる可能性が高い……しかし――」

「しかし?」
 
 各国の代表が一斉に議長を見つめる。

「彼らは現在、別の世界に向かっているため不在との事だ……」

 会議室が一瞬、静寂に包まれた。

「……別の世界?」
 
 フランス代表が呆然とした声を漏らす。

「まさか、また人造人間セルやDr.ヘル、残虐超人たちのような"多次元的脅威"か?」
 
 ドイツ代表が険しい顔をする。

「その通りだ」
 
 議長は重々しく頷く。

「CROSS HEROESの正義超人たちは、別世界で発生した深刻な危機への対応に
向かっている。現状は、この戦線には関与できない」
「馬鹿な!」
 
 イタリア代表が机を叩いた。

「彼らが不在なら、どうやってこの脅威に対抗するというのだ?
国連軍や各国の軍隊では、あの空中要塞には太刀打ちできない!」
「だからこそ、他の戦力を探すしかない」
 
 議長が腕を組みながら続ける。

「CROSS HEROES本部には、正義超人以外のメンバーもいる。
彼らに協力を仰ぐしかないだろう」
「だが、超人たちがいないとなると……」
 
 インド代表が難しい表情を浮かべる。

「そもそも、CROSS HEROESの構成メンバーにおいては不明な点が多い。
正義超人、ミスリル、マジンガーZ、GUTSセレクト……公になっている者たちの他にも
素性が明らかにされていない者たちも少なくないというぞ」
「その点においては非公表を貫いているようだ。CROSS HEROESは国連認可の組織……
独自の運営・行動をある程度は許可されているとは言え、これはあまりにも……」
「噂ではこの世界の者ではないとか?」
 
 オーストラリア代表が懐疑的な表情で尋ねる。

「悪魔超人たちをも退けたアイドル超人たちがいれば話は違った……
だが現状では、彼らの戦力を活かすしかない」
 
 スペイン代表が肩を落とす。

「仕方ない」
 
 議長は静かに言った。

「CROSS HEROESのメンバーが持つ限りの戦力を総動員して、
ユートピア・アイランドの情報を収集し、適切な戦術を立てる。
我々に残された時間は少ない」
「……それしかないな。」
 
 各国代表は納得するしかなかった。しかし……

「……日本代表。聞く所によれば、メサイア教団とやらはキラ事件において
逮捕されたはずの魅上照が率いていると言う。それに加え、不可解な事件が同時多発的に
発生しているそうだね。この件について、どうお考えかね?」
「う、うう……そ、それにつきましては、現在、鋭意調査中であり……」

 正義超人たちは不在。だが、それでも地球の危機は待ってくれない。
この瞬間、CROSS HEROESに課せられた使命は、さらに重いものとなった。
空に浮かぶ絶望の城へと挑む準備が、静かに進められようとしていた。

 ――トゥアハー・デ・ダナン、CROSS HEROES指令室。

 警報が鳴り響く指令室。CROSS HEROESの主力メンバーが次々と集まり、
巨大スクリーンに映し出された映像を睨みつけていた。

 高度5000メートルに浮かぶ空中要塞――ユートピア・アイランド。
赤褐色の鋭い棘が生えた巨大な岩盤。それに無数の機械が埋め込まれ、
まるで悪魔の巣窟のような異様な光景を作り出している。

 だが、何よりも問題なのはその島が自由に移動し、
「純化」と呼ばれる超高高度からの爆撃を加えられるという点だった。

「……あんなものが頭の上に浮かんでるんじゃ、落ち着いていられないわね」

 七海やちよが険しい表情で言った。彼女の蒼い瞳がスクリーンをじっと見つめ、
両肘を組んでいる。

「……」

 静寂が訪れる。皆、事態の深刻さを理解していた。

「空に浮かぶ島……まるでおとぎ話みたいだけど、現実なんですね……」

 環いろはが不安そうに呟いた。彼女は魔法少女として戦い続けてきたが、
ここまでの大規模な敵に対峙するのは初めてだった。

「空島を思い出すなァ、ゾロ!」
「あァ……あの島にも神を気取った馬鹿がいたっけな……」

 ルフィやゾロが暮らしていた大海賊世界にも、空中で凝固した雲海の上に浮かぶ
「空島」と呼ばれる伝説の大陸群が存在した。
その隣に立つ孫悟飯が腕を組み、冷静に状況を分析する。

「空中要塞……地上からの攻撃は届かないし、普通に飛んで行くにしても
相当なリスクがありますね。僕達なら舞空術で向かえますが……」

 Z戦士が修行していたカリン塔や神様の神殿などの高度は、成層圏周辺にまで
達すると言う。

「あのメサイア教団の事だ、何を仕込んでるか分からん……敵の懐に単独で
突っ込むのは得策じゃあ無いと思うがな……」

 承太郎らスタンド使いの定策……それは、「相手の手の内を先に見破る事」。
敵のスタンドの効果、範囲、性能……或いは先に自分のスタンド能力を知られる事。
それらを看破しないままに敵陣に足を踏み入れるのは圧倒的な不利を呼ぶ。
まして、これまでも人智を超える常識外れな事象を度々引き起こしてきたメサイア教団だ。
どんな罠があるか分からない。

「承太郎さん……」
「奴らがみすみす自分たちの手の内と居場所を俺達に晒すような真似をしたのは
何故だと思う? あんな馬鹿げた事をしでかせば真っ先に
俺達CROSS HEROESが動くだろうと考えないわけはないのに、だ」

「確かに……」
「幸い、このトゥアハー・デ・ダナンは潜水艦だ。深海を行けば、
奴らに察知される事は無く近づいていく事は出来る……その点では、俺たちはまだ
イニシアティブを握っている、と言う事だぜ……」

「――だったら、偵察は俺達に任せてくれ!」

 天界からCROSS HEROES本体に戻る途中だったクリリンらZ戦士たちは
現状の連絡を受け、一路ユートピア・アイランドの哨戒任務へと向かった。

6人目

「Zeal Shooter その1」

 大西洋5000m上空。
 異形の魔城が、空を征く。

「すっげぇ……。」
 Z戦士の一人、クリリンがただ呆然とそれを見ていた。
 今まで、いろいろなことがあったけど、これには流石に驚かされる。
 空を征く天空の城?
 現実ではありえないそれが、今事実としてそこにあった。
 映画やアニメでしか見たことのないおとぎ話。

「あの城に教団がいなかったら、観光で行きたかったな……。」

『ようこそ我が城ユートピア・アイランドへ。歓迎しますよ、CROSS HEROES。』

「お、おまえは!」
『私はビショップ。この島の主です。どうぞよろしく。』
「……お前か!島を破壊したのは!」
『ほう、流石にそれには気づきますか。でも仕方ありませんよねぇあの島には悪党しか住んでいないんですから。死んで当然のゴミクズを潰して誰が困るというのです?』
「くっ……!」

「落ち着け悟飯。挑発に乗るな!」
『とはいえ、我々にも大義がある以上タダで撃ち落とされるわけにもいきませんし、少しアトラクションでも楽しんでいただきますか。』
 そうして、ビショップは指を鳴らす。
 それと同時に―――天空の城が、牙をむいた。

 放たれるのは、無数の赤褐色の結晶体。
 それらは三角錐を無数に組み合わせた刺々しい見た目をしており、陽光に照らされて透き通る光を放ちながら空中に浮かんでいた。

「何だこれ……?」
 クリリンが結晶体めがけて、一発の気弾を放った。
「あっ!ダメ!」
 何かを悟った悟飯が叫んだのもつかの間。
 気弾は命中し、結晶体が閃光と熱を放った。

 ドグォオアアアアアンンッッ!!

「ぐわっ!」
「爆発!?」

 結晶体が、爆発した。
 その威力は、クリリンたちの知る気弾の直撃による爆破よりも明らかに上だ。
 この時の彼の判断は正しかった。
 仮に、不用心に近距離攻撃をしていようものならば、結果はさらに凄惨なものになっていただろう。

 一つの機雷爆破に連鎖されるように、爆風に飲まれた機雷もさらに爆発する。
 爆発は爆発を呼び、まるで大きな花火のように展開されてゆく。
 それだけじゃない。

 爆発と同時に、無数の光線が飛び散る。
 線上に押し固められた、純粋なエネルギーの塊。
「うわっ!」
 反撃まがいの光線弾幕を躱し、防御し続ける。
 咄嗟の防御と回避でダメージは最小限に抑えられたものの、あんな威力の爆発が目測でもあと1000以上は残っている。



「おお、さすがはCROSS HEROES、予想以上にお早い到着に素晴らしい対応力だ。」
「随分と余裕ですね、ビショップ殿?」
 ユートピア・アイランドの指令室、大将ビショップと英霊アルキメデス。
 両者ともに、こちらへと迫るZ戦士たちを見ていた。

「いかがします?撃ち落としますか?」
「いやいい。だが仮に奴らが空中機雷群を突破したのなら、お前が迎え撃て。ただしその際は奴らの実力も知りたい、くれぐれも殺してくれるなよ?他大司教の仇もある、いたぶってやれ。」
 事細かに、アルキメデスに迎撃のオーダーを伝える。
「了解しました。」
 ビショップはまるでこれから戦う相手を弄ぶように対抗するつもりだ。
 ただそれは油断しているからではない。彼らの実力を量り、この先彼らのそれを上回る兵器を生み出すためだ。
 これこそが、科学者ビショップの悪辣な一面。
 誰よりも科学を愛し、そのためなら犠牲すら厭わぬ殺戮技巧。

「さて、CROSS HEROESの皆さん。この超力鉱物『バミューダクリスタル』で出来た機雷群、突破できますか?ふふふ。」



「空中機雷……あんな威力のものが、あんなにも!?」
 冷や汗が出る。
 唾を飲み込み、覚悟を決めるクリリン。
「もしかして、この結晶……まさか。」
 その傍ら、澄明な孫悟飯は察してしまった。
 あの夜に落ちた『爆弾』。
 この正体は、きっと、この結晶の大きい個体を爆弾に変えて落としたもの。

 そして、あの結晶体でぐるっと覆われたあの島。
 あれが仮に都市圏に落ちてきたら?
「俺達なら、あの島の鉱物に攻撃して撃ち落とすとか……!」
「だめです。あんなものが落ちたら島一つじゃ済まない!!それに鉱物を半端に破壊してさっきみたいな光線が飛び散ったら、周りへの被害も甚大になる!むやみに攻撃したらだめだ!」
「くっ……あの島そのものが、超巨大な爆弾みたいなものか……!」

7人目

「英雄は可愛げのないものさ」

 ――大西洋上空、異形の魔城ユートピア・アイランドの周囲に展開する無数の機雷群。
Z戦士たちは、その圧倒的な数の前に息をのんでいた。

「うおおおっ!!」

 クリリンが仲間たちと共に機雷の隙間を縫うように飛行する。
機雷の数は目測でも千を超え、まるで空そのものが赤褐色の結晶体に
覆われているようだった。 気弾の爆風で誘爆すれば、あっという間に死地へと変わる。
緊張感が張り詰め、彼らの額には汗が滲んでいた。

「悟飯! お前が先導しろ! 俺たちが後ろからカバーする!」
「わかりました!」

 孫悟飯が先頭に立つ。目を細め、無数の機雷群の動きに集中する。
機雷はただ静止しているだけではない。ゆっくりと回転し、わずかに位置を変えながら
こちらを包囲するように動いていた。悟飯はその動きを見抜き、機雷の隙間を縫うように
進んでいく。 クリリン、ヤムチャ、天津飯、チャオズもそれに続いた。

「くっ、すごい数だな……!」
(承太郎さんの言う通りだった……メサイア教団がこれ見よがしに姿を晒した理由……
そうしたとしても僕達を抑え込めるだけの準備があった……!)

 悟飯がトゥアハー・デ・ダナンを発つ前に承太郎と交わした会話が脳裏をよぎる。
安易な攻撃は、自らの破滅に直結する。ここで選択を誤れば、爆風は都市圏まで届き、
何千、何万の命が巻き添えになるかもしれない。

 これまで、数々のぶっちぎりの強敵を打ち破ってきた悟飯達。
純粋な力だけでは解決できない。これは、守るための戦い……

 ――「ユートピア・アイランド」指令室。

「ふふ、これだけの機雷を破壊せずに突破するのは、流石の奴らとて骨を折るだろう」

 ビショップは奮闘するZ戦士たちをモニターで監視しながら、
不敵な笑みを浮かべていた。 隣には、淡々とその様子を見守る男――
英霊アルキメデスが立っている。
ビショップは手元のタブレットを操作し、機雷群の動きや爆発の軌道を分析していた。

「奴らには今まで、散々邪魔立てをされた……その答えが、これだ。
連中のお得意の馬鹿げたパワーを封じ込めてしまえば、ひとたまりもあるまい」
「回りくどいですねぇ。ひと思いにやればよいものを」

 アルキメデスが低く問う。だが、ビショップはゆったりと首を振った。

「いや、まだだ。もう少し遊ばせよう。どれだけ踏ん張れるか観察したい」

 ビショップの口元がさらに歪んだ。彼の目的は、Z戦士たちの実力を測ることだった。
彼らの反応速度、機転、判断力、すべてのデータが、彼の研究の糧となる。
次なる兵器を創り上げるための、最良の素材として――

 過去にナッパやラディッツのクローン戦士、バイオブロリーに留まらず
シャドウサーヴァント……異世界の戦士までをも再現、
そしてこのユートピア・アイランド……
彼の頭脳と科学技術はメサイア教団の異常性をさらに加速させるものとなっている。

 何故、彼ほどの天才がメサイア教団などに身をやつしているのか、
その真意は、未だ誰も知らない……

 ――その頃、トゥアハー・デ・ダナンが、静かに太平洋の水底を潜航していた。
冷たい金属の船体が海上から降り注ぐ陽光を反射させている。

「先行した悟飯さんがクリリンさんたちと合流したようですが……」
「よもや彼らの攻撃に匹敵するほどの威力を持つ機雷を撒いているとは……」

 悟飯は一足早くZ戦士と合流し、斥候を買って出たのだ。

「敵の防御は厳重です。いくら彼らでも突破は厳しいかと……」
 
 オペレーターが焦った声で報告する。モニターには、爆発の閃光が次々と広がる様子が
映し出されていた。

(焦るなよ、悟飯……こう言う時こそ、熱くなっちまったら負けだ)

 艦橋に立つ承太郎が、悟飯達の戦況を見つめながらつぶやいた。
帽子の鍔越しのその視線は、悟飯たちが懸命に機雷を避ける姿に向けられている。

「……あの機雷をどうにかしないと、私達も援護に向かえない……」

 いろは達が悟飯達と合流するためには、ユートピア・アイランドに取り付く
飛行手段が必要だ。だが、現状の制空権は完全にユートピア・アイランドに握られている。
今の状態で出撃したとしても、あっと言う間に撃墜されてしまうだろう。
CROSS HEROESが攻勢に出るためには、機雷の突破が必要不可欠だ。

「へへ、CROSS HEROESめ、いいザマだぜ」
「俺達は高みの見物と行こうぜ」

 懸命に戦う悟飯達をせせら笑い、ユートピア・アイランド内に配置された
メサイア教団の兵たちは余裕を決め込んでいた。だが……

「……ん? あんなところに戦闘機が? 何処の所属だ……」

 ふと、隊列から離れたところに一機の戦闘機が駐留していた。

「おい! 何処の隊だ! コクピットハッチを開け……うわあああああっ!?」
「ん? 何の騒ぎだ……」

「き、貴様……ぐわああああっ!!」
「おぉぉぉうりゃあああああああああああああああああっ!!」

「な、何いいいいいいーっ!?」

 異変に気づいて戦闘機に殺到するメサイア教団兵を千切っては投げ、千切っては投げ……
怪力無双、傍若無人の男の影……

「どけどけええええええええええいっ!! ウルフマンだああああああああっ!!」
「せ、正義超人がどうして我が隊の戦闘機に……」

 傷だらけの土俵の英雄……正義超人・ウルフマン。CROSS HEROES最大の窮地に、
まさかの復活。

「はっはっはっは……はっはっはっはっは……」
「今度は何だ!?」

 高笑いがこだまする。

「すり替えておいたのさ!!」 

 戦闘機の本来のパイロットであるメサイア教団兵から戦闘機を奪取し、
秘密裏にユートピアアイランドに潜入していたのは、ウルフマンだけではなかった。

「よくも島の人々を虫けらのように殺したな! 許せんッ!!
メサイア教団の野望を粉砕する男……スパイダーマンッ!!」

 そう、ミケーネ帝国の地上侵攻を食い止めた異次元よりの使者……
ピーター・パーカーとは異なる、もうひとりのスパイダーマンである。

「お前たちが消しちまったあの島にいたのは、人間たちだけじゃない。
自然や動物たちもいたんだ。メサイア教団だか何だか知らんが、面白半分に壊すなよ」
「うっ……!?」

 たじろぐメサイア教団兵の背中に立つ男……静かな声の中に怒気が籠もる。

「自然は大切にな」
「ぶげっ」

 裏拳一閃、教団兵を卒倒させる黒髪の男……人造人間17号。

「し、侵入者だと!?」 

 ウルフマン、スパイダーマン、17号……
愉悦と享楽に任せて凶行を繰り返すメサイア教団への強き怒りを燃やす
意外なる伏兵たちが、難攻不落ユートピア・アイランドに波乱を巻き起こす。

「おい、あの島、ちっと様子がおかしくないか?」
「ええ、敵の指揮系統が乱れたような……それに、この気は……」

「なるほど、機雷で外から中央突破出来ないのなら、味方を装って潜入か。まったく、
次から次に出し物が尽きんものだな、CROSS HEROES……」

8人目

「Lycoris Recoil⑧夜の帳が下りる時」

 夜の神浜の空は、どこまでも暗く重かった。
ビルの合間に吹き抜ける冷たい風が、道路の脇に積まれたゴミ袋を揺らし、
ガサガサと不気味な音を立てる。その静寂を突き破るかのように、
千束とたきなの乗るバイクのエンジン音が響き渡った。

「次の交差点を右折……!」

 クルミの声がインカムから響く。

「わかりました!」

 たきなが返事を返し、ハンドルを切る。バイクは唸るように車体を傾け、
鋭いカーブを描いた。

「……たきな、来るよ」

 千束の声に、たきなが視線を前に向ける。
廃ビルの屋上から飛び降りる影――天乃鈴音。その姿は白い彼岸花の花弁が
風に舞い散っているかのように優雅で、しかし恐ろしい気配が漂っていた。

「っ……!」

 着地の瞬間、鈴音のブーツがアスファルトをわずかに擦る音が響いた。
その動作は音もなく、闇夜に溶け込むような見事な着地だった。

「千束、準備は?」
「もちろん!」

 千束が銃を構え、狙いを定める。パンッ! 鋭い銃声が響いた。
だが――キィィンッ!

 次の瞬間、鈴音は流れるような動作で剣を振り、千束の弾丸を正確に弾き返した。
まるで弾道を見切っていたかのような正確な動きだった。

「まーた防がれちった……!」

 千束が目を見開く。

「たきな、追いかけるよ!」
「分かってます!」

 バイクがさらに加速し、鈴音の影を追いかける。だが、鈴音は飛ぶように
ビルの影を駆け抜け、まるで迷路のような街路に姿を消していった。

「なんて速さ……それに向こうはバイクと違って小回りも効く……死角に潜られたら
どうしようもない……」

 たきなが焦る声を漏らす。その頃、別ルートから包囲に回った
ももこ、レナ、かえでも、鈴音の気配を探りつつ神浜の裏道を駆け抜けていた。

「おいレナ、こっちだ! この先で合流できる!」
「……分かってるわよ!」

 レナが声を張り上げ、ついていく。
かえでは不安そうに周囲を見回しながら、魔法の力で風に感じ、鈴音の気配を辿る。

「……でも……」

 その気配は不安定で、まるで意図的にかき消しているようだった。

「魔力の気配遮断か……相当の手練れだぞ、こいつは……」

 リコリスと魔法少女の包囲網を巧みに掻い潜り、翻弄する天乃鈴音。

 
 ――神浜の高架道路。

『千束、もう少しでターゲットが現れる』

 クルミの声が響く。

「OK、まかせて!」

 次の瞬間、鈴音が横道から飛び出した。
神秘的な雰囲気を漂わせながら、鈴音は剣を構えて立ち止まる。

「たきな、急停止!」

 たきなが素早くブレーキをかける。
スキール音が鳴り響き、バイクが地面を削って急停止した。

「……よくここまでついて来られたわね」

 鈴音が低く笑う。その声は挑発的で、どこか冷たい響きを帯びていた。

「……何が目的なの?」

 千束が銃を構えたまま問いかける。

「目的? 試してるのよ、あなたたちのことをね」
「試す?」

「魔法少女でもないあなた達の実力……どこまで通用するのか、確かめたかったのよ」
「私たちを……"試す"ために?」
「もうひとつ聞きます……その白い彼岸花は、一体……」

「吸いたがっているのよ、こいつが。あなたたちの返り血をね。
この彼岸花が血で真っ赤に染まったとき……私の願いは叶う」
「願い……って」

「後ろ!」

 千束が叫ぶ。その瞬間、闇の中からメサイア教団の刺客が飛び出した。
刃が鈴音へと振り下ろされる。

「キィエエエエエッ!!」

 ――キンッ! 鈴音は鮮やかに剣を振り、刺客の刃を弾き飛ばした。

「指輪回収班を潰したのは貴様だな!? 第2小隊からの連絡も途絶えたままだ……」
「まったく、邪魔ばっかり……!」

 鈴音は忌々しげに呟き、跳躍してビルの上へ。

「行くよ、たきな!」
「了解!」

 バイクを発進させようとするたきなの前に立ち塞がるメサイア教団兵。

「邪魔しないで欲しいんだけどなぁ。アンタたち、何者? 新手?」
「お前たちが知る必要は無い!!」
「諸共死ねぇ!!」

「あっそ。あの子を相手にするよか楽に終われそう」
「舐めるな小娘ぇッ!!」

 メサイア教団兵の鉤爪が千束に迫る。

「遅いッ」

 千束が素早く身を屈めて攻撃を避わしつつ拳銃を構える。銃声が闇を切り裂いた。
弾丸は刺客の胴体を正確に直撃、その衝撃で吹き飛ばして動きを封じる。

「ぐぉあっ……!!」

 非殺傷性のゴム弾とは言え、当たれば行動不能に至らしめる程度の威力はある。

「さすが……」

 鈴音は低く呟くと、千束とたきなの戦いを高台から見物していた。

「私は千束ほど優しくはありませんので」

 たきなは情け容赦なくバイクのアクセルを全開にし、教団兵を真正面から轢き飛ばす。

「ごわあああッ!!」
「こ、この女、躊躇いもなく……」
「手加減でもして欲しかったんですか? 仕掛けてきたのはそちらです」
 
 如何なる悪党でも「いのちだいじに」をモットーに不要な殺人を禁じる千束と、
必要とあらば相手が誰であろうがリコリスの使命の名の下に
見敵必殺(サーチ&デストロイ)を完遂するたきな。
互いに真逆の主義を掲げるリコリスの最強コンビ。

「まったく次から次に物騒なのが出てくる出てくる。とんでもない街に
お引越ししちゃったのかも、私達!」
「……やるじゃない」

 鈴音はリコリスの戦いぶりに、低く呟いた。

「よっしゃ、追いついたァ! どっかーーーーーーんッ!!」

 フェリシアのハンマーが鈴音の頭上に振り下ろされる。
ひらりと避わすものの、フェリシアに続き、ももこ、レナ、かえで、さな、鶴乃、黒江……
それぞれが戦闘態勢に入り、鈴音の包囲網が完成しつつあった。

「足を止め過ぎたか……やれやれ、どうやら"本番"はこれからみたいね」
「さあ、どうするの? あたしたち全員をひとりで相手にしてみる?」

「それは流石に骨が折れるかもね……けど」
「!?」

 チカ…チカ…街灯の灯りが不自然に明滅し始める。点滅のリズムが次第に速くなり、
まるで不吉な警鐘のように暗闇へ警告を鳴らしていた。
夜の神浜の街が不気味にざわめいた。遠くのネオンがちらつき、暗闇に呑まれていく。
張り詰めた空気が次第に重くなり、肌にまとわりつくような嫌な感覚が漂い始める。
寒さとは違う、何か底知れぬ禍々しい気配が空間を蝕んでいった。

「……何……? これ……?」

 ももこが息を詰まらせ、背筋が粟立つのを感じた。
かえでも、魔法少女としての本能が警戒心を鋭く刺激され、無意識に身構えた。

「嫌な感じがする……呪い……魔女かウワサみたいな……」

 レナがわずかに震える声で呟く。

「……そろそろ来ると思ってたわ」

 不気味な静寂の中、天乃鈴音にはその怖気の正体が分かっていた。

「これだけの戦いが起きていれば、奴は必ず引き寄せられる……まるで野次馬ね。
主の性格の悪さが窺い知れるわ」

 地面から紫黒の靄が立ち上り、空気が腐ったような悪臭に満たされる。

「何だってんだよ……!」

 フェリシアは恐れに負けじとハンマーを強く握り締めた。

9人目

「Lycoris Recoil⑨ 呪の函、開く刻」

 神浜の街に吹き込む夜風は、まるで死者の吐息のように冷たく、鋭かった。
目抜き通りから少し離れた裏路地――かつて誰かの生活の痕跡があったはずのその場所も、
今はただの忘れられた影の世界。廃棄された建物、剥がれかけたポスター、
汚れたガラスの奥にちらつくネオンの反射が、どこか現実感を削いでいく。

 不気味な沈黙が神浜を包む中、空気がひときわ重くなった。
霧のように立ちこめる紫黒の靄は、まるで地面の奥から噴き出す瘴気のようで、
一歩踏み出すごとに靴裏にまとわりつき、身体の芯から熱を奪っていく感覚に襲われた。

 その異変に、ももこたち魔法少女もリコリスたちも息を呑んだ。

「……何……? この感じ……」

 鶴乃が誰にともなくつぶやいた声が、冷気を孕んだ空気に吸い込まれていく。
一同の視線が自然と靄の中心へと集まる。風は止まり、遠くの街灯がちらつき始めた。
電子ノイズのようにチカチカと明滅する灯りが、街の心臓の鼓動を狂わせるかのように、
不規則に点滅を繰り返す。張り詰めた空気の中で、誰かが小さく息を呑んだ。

 やがて、地面がぬめるように蠢き、異様な影が浮かび上がった。
それは形容しがたい“存在”だった。人のような、獣のような、影のような……
定まった形を持たず、見る者の記憶の奥底から何かを引きずり出してくるかの如き、
そんな本能的恐怖を呼び起こす、禍々しき気配。

 天乃鈴音が、一歩前に出た。
その銀白の髪が靄に溶け、陽炎のごとき衣がゆらりと揺れる姿は、
光の消えた世界にあってもなお、確かな存在感を放っていた。

「……やっぱり、来たのね」

 静かに、しかし確信に満ちた声だった。

「……これは一体……?」

 たきなが尋ねる。銃を握る手に、わずかな汗がにじんでいた。

「……“呪の函”。私が取り逃がした“災厄の欠片”よ。
誰があんなものを作り出したんだか……」

 その名に、ももこの眉がぴくりと動いた。

「呪い……まさか……」

 神浜の街で怪異と戦い続けてきた魔法少女、ももこ。この怖気には心当たりがある。

「いつぞやの、リンボとか言う……」

 ももこの語る“リンボ”の名。神浜全土を地獄へと変えた者たち――
ももこのみならず、この場にいる魔法少女たちもその当事者であった。
その気配の重さに、誰もが直感的な危機感を抱いていた。

「呪の函……それが……今、開いたってことですか……?」

 さなが呟いた言葉に、鈴音は小さくうなずいた。

「正確には、漏れ出しているのよ。完全に開いたわけじゃない。
けれど……それでもこの有様。もし、完全に封印が破られたら……
この街は“呪い”に飲み込まれるわ」

 その言葉の直後、靄の中で、呻き声が響いた。ヒュゥゥ……ウウウゥ……

 それは風でも、機械音でもない。“声”だった。
無数の魂が絡み合い、痛みに、怒りに、恨みによって蠢く声。
自我の断片が押し込められ、出口を求めて絶叫し続ける者たちの叫び。

 その怨念の波動が、空気を震わせ、地面を揺らす。
地上に立つ者たちの皮膚に焼き付くような“呪い”の感触。
言葉にできない悪寒が、背骨の奥底から這い登ってくる。

「……うう、立っていられない……!」
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」

 かえでが膝をつき、レナが即座に支える。

「身体が、縛られるような……!」
「これは“呪詛”よ……魔法の理をも侵す、“負の概念”そのもの……!」

 鈴音が歯を食いしばった。
彼女が感じるその恐怖と怒りは、過去の失敗に対する贖罪でもあった。

「……私が取り逃がしたから……あれがまだ残っていたから……!」

 拳を握る鈴音の指に、悔恨に由来する強い力が込められていた。
そして――その時、空気の流れが変わった。すうっと、白い光が視界の端を横切る。
どこからともなく、ふわりと舞い降りた一枚の花びら。
それは鈴音が忍ばせていた白い彼岸花の花弁だった。

「花が……!」
『素晴らしい……! 何と悍ましい呪い……』

 ひとひら、またひとひらと、夜風に乗って降りてくる。
その花弁たちは、まるで引き寄せられるように、紫黒の靄へと吸い込まれていく。

「……吸われてる?」

 黒江が目を見開いた。

「白い彼岸花……!」

 そう、それは鈴音の纏う衣に咲く、象徴の花。
だが、その花弁が、呪の靄に惹かれるように流れ込んでいくのだ。

『この怨念、この執着……まさに我が理想の具現……』

 白い彼岸花の花弁が、次々と呪の函へ吸われていく。
それはまるで、函を開く、最後の鍵。

「ウワサと呪いが合体したってのか……最悪じゃね―か!!」
『ウオオオオオオオッ……』

 かくて、呪の函は砕けて散った。穢れなき乙女の鮮血を欲する白い彼岸花のウワサと
世に災厄を振りまくリンボの遺産……両者が合わさり、神浜の街を滅ぼし尽くす悪鬼へと
変貌する。

「なんて事……」

 白い彼岸花に見限られた鈴音。その願いを叶える術を失った上に、
呪の函を呼び起こしてしまった。

「こんな……こんなはずじゃなかった……これじゃあ、私は……」


 ――その時だった。

 遠くから、エンジンの唸る音が響いた。
静まり返った神浜の夜に、そのけたたましい音は異様なまでに大きく感じられた。

「え……この音って……」

 千束がわずかに顔を上げた次の瞬間――ギャアアアアアアン!!
とてつもない爆音とともに、白のバンが道をぶち抜いて突っ込んできた。
地面を擦るようなスライドターン。車体を斜めに構え、紫黒の靄の手前で急停止。
バンのドアが勢いよく開き、中から身を乗り出したのは――中原ミズキ。

「やっほー! 間に合ったわね、千束、たきなっ!」

 その声に、千束がぱっと表情を明るくした。

「ミズキ! 何でここに!?」
「クルミに言われてね。やれやれ……またとんでもない騒ぎに首突っ込んでるわね、
アンタたち……! って、何なのよ、あのバケモンは! アトラクションじゃないの!?」

 そう言いながら、ミズキはバンの後部ハッチを開く。中にはびっしりと並べられた
コンテナが何段にも積まれていた。その中身は、改造銃、榴弾、閃光弾、スモーク、
そして大型のガトリングランチャーまで――まるで武器庫だった。

「すごい……! まるで戦争支度ですね」

 たきなが目を丸くする。

「リコリスが本気出すって聞いたら、これくらい当然でしょ?」

 ミズキは勝ち誇ったように笑うと、コンテナをぽんと叩いた。

「千束、たきな。今こそ“本気の火力”ってやつ、見せてやんなさい!」
「うん、ありがとうミズキ!」

 千束は頷き、たきなと視線を交わす。
白い彼岸花を取り込んだ呪の靄がうねり、空が泣き出しそうな夜の帳の下で――
リコリス最強コンビが、この神浜の街で再び“街を守る者”として立ち上がった。

「さぁて、ゴーストバスターズの出動だァい!」
「……あなたにも、責任を取ってもらいますから」

 たきなの視線が、鈴音に向けられる。

10人目

「Lycoris Recoil⑩ CROSS HEROINES」

「―――ッ……!!!」

 怪物が咆哮した。
それはこの世の理に反した、耳を裂くような不協和音。
ただの音ではない。憎悪、怨嗟、呪詛――負の感情すべてが渦巻く絶叫だった。
街に蔓延する靄は濃くなり、電灯の光すら飲み込んでいく。

 白い彼岸花、そして無数の影と怨霊を取り込んだその怪物は、もはや形容不可能な異形。
その肉体は絶えずうねり、見る者の記憶の奥底に潜む恐怖を映し出す地獄そのものだった。

「さっさと終わらせますよ! 千束!」
「もちろんっ!」

 たきなの声に、千束は気合を込めて頷いた。
二人の呼吸はぴたりと合っていた。これまで無数の死地を共に越えてきた戦友として、
今、再びこの神浜で、“街を守る者”として戦う。

 ミズキから受け取った高出力銃は、見た目は華奢ながら
従来の何倍もの火力を秘めていた。
 
「すご、何です、この銃……!?」

 たきなが装填するのは、魔法と科学の融合――八雲みたまによって調整された
“魔力融合弾”。彼女たちリコリスが、異世界の理すら突破する武器を手にした今、
もはやどんな怪異も恐れるに足らず。

「いつの間にこんなものを……」
「調整屋とかってところでちょっとね~」

 ミズキの言葉には、どこか自嘲めいた笑みが混じっていた。
飲んだくれアラサー。そう呼ばれた過去など忘れたかのような、背筋の通った眼差し。
元DA情報部――その手腕は今もなお健在であり、裏でひそかに魔法少女の世界とも
接点を築いていた。

「よっしゃ、オレ達も行くぜ!!」

 叫んだのはフェリシア。彼女の手に握られた巨大ハンマーが、地を叩いて音を鳴らす。
その音が合図となり、魔法少女たちが一斉に動き出す。

「レナ、かえで! 行くぞ!!」
「OK!」
「うん!」

 ももこが光の剣を抜き、レナが三又槍を構え、かえでは治癒の加護を周囲へ展開。

「黒江ちゃん、さなちゃん!」
「了解です!」
「護りは任せてくださいっ……!!」

 鶴乃は両手に炎の扇を広げ、黒江はクラブを構え、さなは守護結界を重ねて張る。

 いずれも、過去に傷を負い、闇と向き合い、それでも希望を抱き、ここに立つ少女たち。
絶望を知ったからこそ、再び希望のために戦える――それが魔法少女という存在だった。

「魔法少女の本気、見せてあげる! いくよ、リコリスっ!」
「あいさ!!」

 かくして、神浜の夜に“異端の戦士たち”が集結した。
魔法と銃火器、剣と術式――異なる系譜の力が、ただ一つの目的のために交わる。
「災厄を討つ」その意思が、彼女たちを束ねる絆となる。
だが――その場に立ち尽くす者がいた。

 天乃鈴音。
その銀白の髪も、靄に濡れたまま微動だにせず、ただ空虚に眼前を見つめていた。

 彼女は知っている。魔法少女という存在の末路を。
その契約の不条理を、希望と絶望の反転を。 リコリスという存在の本質も、また同じ。
命を道具のように使い捨て、功績だけが記録に残される非情な仕組み。
誰に知られる事も無く……それでも、戦う彼女たちは“誰かを守る”ことを選んでいた。

 ――自分は何をした?
ただ願いを叶えたくて、白い彼岸花のウワサに縋った。それが、この災厄を呼び寄せた。
過ちの代償は、あまりにも大きい。

「……魔法少女……リコリス……」

 声が震える。
だが、その震えの中に――微かな“熱”が宿っていた。

 “どうして、彼女たちはそれでも戦えるのか”
その問いが、鈴音の中で渦巻く絶望の靄を切り裂いた。
希望に始まり、絶望で終わる運命。それに抗う術は、きっと――

「……落とし前は、着けないとね」

 小さく、呟いた。

 地に伏せた掌を、ぎゅっと握る。
その瞬間、彼女の衣の裾から、一輪の白い彼岸花がふわりと宙を舞った。
それは、ウワサによって彼女に与えられた象徴であり、同時に呪いの鍵でもあったもの。

「……!!」

 地に落ちた花弁を踏み躙り、そして、歩き出す鈴音の瞳には、かつての迷いはなかった。

「……ツバキ……見守っていて……」

 爆ぜるように、靄が蠢いた。それはただの霧ではない。
“怪物の意志”が自らを隠すために生み出した結界。
黒い瘴気と紫紺の幻影が絡まり、視覚を狂わせ、心を揺さぶる。

 だが――少女たちは怯まない。

「ちゃらあああッ!!」
 
 鶴乃の叫びと共に、業火が扇から広がった。
紅蓮の炎が結界を焼き、視界を確保する。

「やああああああッ!!」

 レナが燃え残る煙を突き抜け、三又槍を突き出す。
呪いの触手が槍を絡め取ろうと伸びるが、その瞬間――

「シールドッ!!」

 さながレナの前に躍り出る。静かに祈りを捧げ、空間に重ねがけの守護を張る。
魔法の層が縦横に重なり、呪詛の侵食を弾く盾となる。

「ううっ……くっ……!!」

 さなの護りを無理矢理に抉じ開けんと押し寄せてくる触手の塊……

「舐めるなあッ!!」

 結界を足場として跳躍するフェリシアの大槌が触手を突破。

「どっかーーーーーーーーーーーーーーーーーーんッ!!」

 その鉄槌が怪物の脳天に直撃、頭部を叩き潰す。

「わたしだってっ……!! ええいッ!!」

 かえでが杖を地に打ち立てると、柔らかな緑の植物が脈々と溢れ出し、
怪物の巨体に絡みつき、生命の力が呪いを包みこんでいく。

「千束! 奴の動きが止まりました!!」
「了解! その間に落とす!」

 千束の身体が跳ぶ。靄を切り裂くように宙を舞い、高出力銃からの魔力弾を直撃させる。

「いい仕事です、千束……! 補正完了、射線クリア!」
 
 たきなの射撃が、それをなぞるように貫いた。
怪物の右腕が破裂するように崩れ、瘴気が噴き出す。

「……くっ、まだ動くっ……!」

 黒江がクラブを叩きつけた胴体は、一度は凹んだものの、即座に瘴気で再生した。

「これが呪いの後先……私がドッペルに飲まれそうになった、あの時と……」
「――……!!」

 かえでが生成した植物が、怪物の呪いの瘴気でみるみる腐れ堕ちていく。
拘束から解き放たれ、再び活動を開始する。

「ふゆううう……!! ど、どうしよう……!!」
「……見えたわ! あれが再生の核……!」

 レナが目を見開く。その視線の先に、かすかな赤い光――怪物の心臓部のような何か。

「あれさえ叩けば……いける! ここで決めるぞ!!」
 
 ももこが叫ぶ。大剣が、怪物の中心へ一直線に振り下ろされ――

「!?」

 だがその瞬間、フェリシアが叩き潰したはずの頭部が恐ろしい速度で再生、
巨大な“口”を開き、ももこに高出力ビームの照準を定める。

「っ……間に合わない――!?」

 そのとき、銀の閃光が割り込んだ。

 ――ザンッ!!

 白い光が、闇を切り裂くように走る。ビームは照準を外され、天高くに伸びて
雲を吹き払った。あれがもしも、ももこ諸共に市街地に向けて発射されていたら……

「……」

 天乃鈴音。銀白の髪をなびかせ、己の罪と共に戦場に立つ。
 
「アンタ……!」

11人目

「心なきノーバディを知りたくて/出陣、聖輦船」

「そちらの概ねの話は理解した、俺たちは一旦聖白蓮の元へと向かう。」
 そう告げてサイクスとザルディンは一旦、命蓮寺へと向かわんとする。
 テリーマンが2人のノーバディを引き止めた。
「待ってくれ、その……白蓮とは誰だ?」
 現在この場にいる者たちで、聖白蓮の名前は知っていてもその略歴を知る者はサイクスとザルディン以外居ない。
 この先にある命蓮寺の僧侶であること、彼女もまた人智を超えた魔法を扱う魔人であること―――そして、少し前まで暗黒魔界に封じられていたが故に。
「暗黒魔界の位置を知っている者、と言っておこうか。お前たちは暗黒魔界の存在は知っていても、それの位置がどこかまでは知らないだろう。だが、彼女の案内があれば……。」
「確実に行けるというわけか。分かった。その間にこっちはアビダインの最終調整をしておくよ。」

 かくして二人は命蓮寺に向かう。
 その道中は穏やかだ。
 彼らの強さが妖怪内のコミュニティ内で広まったが故か、誰も彼らを攻撃しようともしない。
「サイクスよ。」
 だが、2人は立ち止まる。
 足音の数が1つ多い。
 その証拠に、急に立ち止まったゆえかその足音が遅れて止まった。
「分かってる――おい。」
 サイクスが、後ろから来る何かに話しかける。

「……露伴とかいったか、そこの漫画家。言いたいことがあるなら言え。無言でついてこられても困る。」
「いや別に?そっちに害を加える気はないさ。ただ―――お前たちについて気になったことがあっただけだぜ。」
 いつの間にか、岸辺露伴がついてきていたのだ。
 その動機も目的も、彼の人隣りを知る者からすればある程度の推察はできようが。

 二人、否。三人は再び歩み始める。
 一人増えたところで何も変わらない。
 妖怪たちが襲ってくる気配もない。
「それで、何がだ。俺たちに用があったからわざわざ来たんだろ。いい加減黙ってないで話せ。」
「ああ―――単刀直入に言って、お前たち2人とも人間じゃないだろ。」
「……何の根拠があってそんなことを言う?」
 クールにふるまっていながらも、正直この時のサイクスは反射的にびくっとしていた。
 自分たちが人間なんかじゃあないと、見抜かれてしまったのだ。
「僕、自慢じゃあないがいろいろな人間を見てきた。リアリティを求める仕事柄、そういう人間観察は得意な方だと自負している方だ。」
「職業病か?」
「だからお前たちの不気味さも分かっちまうんだよ。お前たちをさっきから見ていると、うわべでは感情があるように見えても心からの感情じゃあないように見えるぜ。まるで良くできたAIかロボットと話しているようだ。お前ら何者だ?」
 実のところ露伴は、ノーバディの性質をついていた。
 ノーバディには心がない。
 如何に感情ある人間のようにふるまっていても、どこか無機質に感じるのはそのためだ。
(彼には、ノーバディがそう映るのか。)
「……分かった、そう言いつつもお前自身に敵意はなさそうだしな。終わったらいろいろ話すとしよう。ただし―――「ザルディン、露伴。ついたぞ。」―――おっと。」
 話もたけなわ、気が付くと命蓮寺に到着していた。
 3人は足を止め、目の前の寺を仰ぎ見る。
 そうしていると寺の奥から、この寺の主である聖白蓮が現れた。

「お待ちしておりましたが……そちらの方は?」
「心配するな、ただの連れだ。聖白蓮、暗黒魔界への案内を頼めるか?」
「勿論です。こちらも船の準備はできています。」
「オイオイオイオイ、船って何処にある?」
「目の前ですが……何か?」
「目の前って……どう見てもただの寺、というか倉そのものじゃあないか。本当に案内してくれるんだろうな?」
 確かに現在三人のいる命蓮寺の見た目には船の意匠はない。
 マストもなければ帆もない、果てには竜骨の気配すらないのであっては「船がどこにある」という質問に行きつくのは必定。
「ああ、俺も最初その話を聞いた時は呆然としたよ。心があったら顎が外れそうになっていたところだ。」
「(なるほどな、あのどことなく感じる無感情ぶりも踏まえると、この黒コートたちには『心』がないらしい。だからいざという時は躊躇なく非情にふるまえる。それはそれで面白いじゃあないか。)……で、この寺でどう案内する?」
「まぁ見ていてください。それ!」
 ちょっとかっこつけたかったのか、聖が指を鳴らすと―――寺が光った。
 冗談抜きに、ほのかな。されど確かに分かるように光を放ち始めたのだ。

 光が収まると、命蓮寺の体をしていた倉の底に船が生えていた。
 マストこそないものの、最初からこうであったように船の形をしている。
 伝説上でしか聞いたことがない、耀ける宝船がごときもの。
「ね?」
「「「おお……。」」」

12人目

「Lycoris Recoil⑪ GUN✕SWORD」
 
 静寂。

 ビームが逸れて穿った雲の裂け目が、夜空にぽっかりと開いたまま消えずにいた。
銀白の煙が揺らめきながら空へ溶けていき、世界が息を潜めているような一瞬。
ももこの目の前で、鈴音がゆらりと銀の刃を返す。

「……助かった」

 息を吐くように呟いたももこに、鈴音はそっと視線を向ける。

「礼なんていらない。償いの一部よ」

 その声音に迷いはなかった。あの彼岸花に囚われ、少女たちを巻き込んだ自分。
だからこそ、ここで戦うのは当然だった。

 怪物が呻く。
破壊された胴体を修復しようと、瘴気が再び集い始める。どす黒い煙が地を這い、
空を裂いていく。だが、それを待つまでもない。
各戦士たちは、迷うことなく一斉に動いた。

「魔法少女の力……ナメんなあああああッ!!」

 フェリシアの咆哮が、空気を切り裂く。
その声には、過去に失った日々への怒りと、今を生きる誇りが宿っていた。
振り上げた鉄槌は、ただの質量ではない。魔法と感情を混ぜ込んだ、巨大な意志の塊だ。

「ウルトラグレートビッグハンマァァァァァァァァァァァッ!!」

 ハンマーから魔力のブースト光が点火して加速度を増し、
フェリシアの小柄な身体諸共に引き連れていく。
拙い脳内ライブラリから思いつく限りの横文字を羅列した、何かとにかく凄い技なのだ。

「どりゃりゃりゃりゃりゃああああああああああッ!!」

 大回転による連続殴打。怪物の左足が砕け、黒い液体を撒き散らしながら吹き飛ぶ。

「粉々になるまで打ち続けてやんぞ!!」

「レナちゃん、いくよ!」
「言われなくてもッ!!」

 レナの三又槍が、湛える水の力を纏って閃く。

「……!?」

 怪物の周囲をぐるりと取り囲み、増殖する無数の鏡。鏡の数だけ浮かび上がるレナの姿。

「さあ、どれが本物か分かる!?」
「……!!」

 重なって響くレナの挑発に、怪物の五指が触手のように伸びる。
次々と甲高い音を立てて連鎖的に砕き割れる鏡。

「正解は――全部ッ!!」

 三又槍を突き立てるレナに、すべてのレナが重なり合ってひとつになっていく。

「インフィニット・ポセイドンッ!! 貫けえええええええええええッ!!」

 背後から飛んでくるレナがその軌道を補正し、まっすぐに怪物の中心を貫いた。
槍先が突き刺さったのは、赤い輝き――怪物の核。

「グアアアアアアアアアアアッ……!!」

 不協和音のような悲鳴が響く。怨念と呪詛が染み込んだその声は、
空間そのものを軋ませる。

「これでもうしつこく再生は出来ないでしょ!!」

 それでも、少女たちは止まらない。

「これで、終わらせるっ……! 燃えつきろおおおおおおおおおッ!!」

 鶴乃が両手の扇を交差させ、左右に振り抜いた。紅蓮の炎が爆ぜ、
振り撒かれた瘴気諸共を焼き尽くす。
焼け焦げた空間の奥、再生しようとする腕と脚が焼かれていく。

「癒しの大地よ……今こそ力を!」

 かえでが地面に杖を突き立てると、魔法陣が花開き、緑の蔦が
怪物の足元から絡みついた。それは瘴気を吸収し、毒を濾し取るかのように
命の力で呪いを封じ込めていく。

「今度はもう、逃がさない……!!」

 そして、ももこが剣を握り直す。

「これが……あたしの、ケリのつけ方!! おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 剣に宿るのは、決意。そして、何よりも少女たちへの祈り。
跳躍と共に振り下ろされた大剣が、怪物の身体を縦に裂いた。 
さらに畳み掛けるように上空から、青白い光が舞い降りた。

「黒江さん……!?」

 誰かが驚きに満ちた声を上げた。その姿は、まさに夜空を翔ける流星。

 黒江の背には、黒き泥で出来た翼が広がっていた。
その名は「ヨダカの翼」――絶望の夜を塗り潰さんとしたドッペルの力。呪いの象徴。
かつての自分を乗り越えた証として、黒江は今、空を飛んでいる。

「私は、もう逃げない……!」

 その翼は軽やかに風を裂き、夜の天頂から一直線に舞い降りる。
クラブが魔法の炎で燃え上がる――黒江が編み出した、新たな魔法。

「これが……私の信じた未来! みんなから、環さんから受け継いだ……!」

 黒江の声が夜に響き渡る。

「でやああああああああああああああああッ!!」

 青白い炎を纏い攻撃力を向上させたクラブが怪物に叩きつけられる。
その魔力は“恐れ”すらも燃やし尽くすような、清らかな怒りだった。
レナも目を見開く。

「ドッペルの力を……コントロールしてる……黒江……あんた、変わったわね……!」

 そして、燃え盛る核――鈴音の足が地を蹴った。
黒江の炎が、最後の扉を開いた。そこから進むのは、贖罪の果てに立つ少女。

「……これが、私の最後の“答え”――」

 鈴音の剣に宿る魔力が、燃えるように輝いた。
その背後に大量に召喚される、炎の剣。 

「降り注げッ!!」

 鈴音の号令で一斉に炎の剣が怪物の四肢目掛けて降下していく。
足、腕、胴体……次々に突き刺さり、怪物の動きを封じる。

「はにゃ~~~……目ぇ回ったァ~~~……」
「フェ、フェリシアさん! 危ないですからぁ~……!!」

 回転のし過ぎで怪物の足元でフラついているフェリシアを、さなが回収する。
シールドから飛び出す鎖が巻き付き、その場から引き離す。

 鈴音の身体を中心に、魔力の高まりが燃え上がる炎と変わる。
剣を振り上げた瞬間、炎が渦となって包み込む。怪物の核、その中心部に狙いを定めて――

「全部……終わらせる!!」

 剣が振り下ろされると同時に、まるで過去の少女たち全員の想いが収束するように、
紅蓮の炎が一点に集中し、怪物の核に留まらずその巨体を完全に包み込んだ。

「……グアアアアア……ア……ァ…………」

 呪詛の絶叫が虚空に吸われていく。
核が焼かれ、崩れ落ち、呪いの源が完全に断たれる。
その瞬間――瘴気が、すうっと引いていった。

 夜空が晴れる。月が照らすのは、もう怪物の姿ではなかった。
炎の前に立つ鈴音。たきなが、背後に立つ。

 瘴気は消えた。空は晴れ、月光がゆるやかに地を照らす。

「……終わったんですね……」
 
 たきなが、肩の力を抜いてぽつりと呟く……その瞬間だった。
風を切る音。空間が張り詰める。

「……!!」

 鈴音が、何の前触れもなく剣を振るっていた。
その軌道は一直線――たきなの首筋を狙った、殺意の刃。

「え……」

 たきなが瞬きをしたときには、もう遅かった。

「おい、何をっ……!?」

 だが、銀光が届く直前――別の光がそれを遮る。

「……ッ!!」

 千束の身体が割り込む。
その表情には、かつての“殺し屋”としての研ぎ澄まされた気配が宿っていた。
ほんの一秒にも満たない攻防。だが、二人はそこで止まらなかった。

「……」
「……」

 千束の手には銃。
その銃口は、鈴音の胸元――ネックレス型のソウルジェムへと向けられている。
そして鈴音の刃は、寸分違わず千束の頸動脈に添えられていた。

 誰が動いても、誰かが死ぬ。
その均衡が、まるで時を凍らせたように、空気を支配していた。

13人目

〈狼が如く牙を剝け!繰気弾一閃〉

「_よし、ここらでやってやるか…」
「ヤムチャさん、ここらって?」

機雷の合間を飛行する中、不意に聞こえたヤムチャの言葉に、悟飯達は首を傾げる。
一挙に視線を集めたヤムチャは、したり顔だった。

「なーに。こんなイライラ棒みたいなもん、とっとと終わらせようと思ってな。」
「何を…オイ!?」

そんな台詞を言うと同時に、ヤムチャが突如真後ろへUターン。
思わぬ動きに反応が遅れる悟飯達。
何とか静止した時には、既にヤムチャと悟飯達に大きな間が出来ていた。

「おい、そこにいたら機雷に!?」

機雷はゆっくりとだが、しかし常に悟飯達へと動いている。
直ぐに、両者の間へ機雷群が入り込む。
悟飯が咄嗟に叫ぶも、既にヤムチャを囲んだ無数の機雷により近寄れない。
絶体絶命とも言える中、しかし当のヤムチャは神妙な顔をして口を開いた。

「_ここいらでお遊びはいい加減にしろってとこを、見せてやる。」

決意の感じる、やけに澄んだ声。
同時に、懐から拳より一回り大きな鈍い金属色の球を取り出す。

「コイツが役に立つ日が来るなんてな…」

複雑な顔付きで見たその金属球を、上へ向ける。
そして金属球を持った方の手首を片手で掴み、ミシリと力ませ…

「ハァァァァ…!」
「なっ…!?」

叫ぶ…否、吠える。
険しい顔付きは、狼が如く。
そのまま眼前の金属球に気を集中し…

「繰気弾ッ!」

一瞬の間を置いて、金属球が黄金色の気に包まれる。
それは先のアスラとの戦いでも見せた、意志によって自在に動く『爆発しない』気弾。
物に纏わせたケースはクリリン達も初めて見たが、繰気弾に違いは無かった。

「ふぅ…!」
「早い…でも一体何を?」
「ふっ…爆弾処理さ。」
「…何だって?」

何を指すかは明白だった、故に困惑が一層湧いて出た。
この機雷は尋常ではない威力と加害範囲を持つ。
元より目測範囲で1千以上と尋常ではない密度があるのだ。
だから破壊出来ず、今まで避ける動きをしていた。
それを敢えて壊せば…

「正気か!?」
「あぁ分かってる、ミスったらあの世行きだ。」
「なら…」
「何、ちょっとした賭けがあるのさ…お前達は先に行けっ!」

だがヤムチャは、尚も逃げようとしない。
どころか繰気弾を宙に浮かべ、くるり振り回しだす。
そして険しい顔付きで、ヤムチャが檄を飛ばす。

「早くしろ!巻き込まれても知らんぞっ!」
「クリリンさん、もう離れないとっ!」

肩を掴んだ悟飯に急かされ、やむなく島へと身体を進めだすクリリン達。
どうあれ、留まっては居られない。
そうして遠ざかる背を見つめる中で、不意に天津飯が顔だけを向け、言う。

「ヤムチャ、死ぬ真似だけはするなよ?」
「_おうさ!例え頼まれたって、誰が死んでやるものかよ!」

言外に感じる予感を、ヤムチャは軽い笑みで飛ばす。
やられる気なら、こんな真似はしない。
そんな何の根拠もない強がりに、しかし天津飯は頷いて肯定し、島へと飛び立った。
そうして後に残るはヤムチャ、そして這い寄る機雷群。

「んで、どうせコソコソ見ているんだろ?」

返答を期待している訳では無い、一種の独り言。
それでも口に出したのは、聞いているだろうという経験則から来る予感。
事実、この機雷群を操っているビショップが、返事はせずとも聞いている。

「機雷を一斉に爆破して殺さないのは、大方俺等の実力を量る為…相手を知る事が大事なのは知ってるさ。」
(…成程、ただの脳筋バカでは無いか。)

ヤムチャの指摘に、ビショップは無言で笑みを浮かべ肯定する。
その上で。

(しかし、俺の手の上で踊る事には_)
「だが、わざわざそんな考えに乗るのも御免だ。だからお前等科学者が一番嫌いな物を見せてやる。」
『ほう?』

笑みを浮かべるのは、今度はヤムチャ。
その真意を問おうとし、それよりも先に繰気弾が近くの機雷…その『背後』を取り。

「そぉら、当身!」
_コンッ

機雷を軽く叩き、直後に遠くへ素早く離れる。
一瞬の後、叩かれた機雷は。

_ドンッ!

_先程より明らかに小さな規模で、爆発する。
ヤムチャとは『反対側』の、繰気弾に叩かれた方へと、指向性を持って。

(なっ…)

爆炎と光線が迸り、後ろに構えていた機雷もまた連鎖爆発を繰り広げる。
そちらは最初の時の様に、気弾の爆発を超えた威力を存分に振るう。
だが当の狙いであったヤムチャへは、微かな火の粉と黒煙が降りかかるのみだ。

「ケホッ…ははっ、思った通りだ。」

若干上擦った声だが、不敵な笑みを浮かべて言う。
ヤムチャは先の爆発を見極め、光線が出るのは傷付いた方向と推測した。
爆発の規模も力技で起爆したから、とも。
ならば。

「後ろから小突けば、こっちには光線も、爆発も大して飛んでこないってな。」

その推測は正しく、こうしてほぼ無傷な事からも明白だ。
気弾は勿論、後ろから狙えたとして、気円斬では過剰火力になる。
だが繰気弾はあくまで硬球、つまり最小限の力で起爆出来る。
それだけでは無い。

_ドンッ!

機雷が再び叩かれ、またもヤムチャと逆向きに爆破される。
そう、繰気弾は『持続して』使えるのだ。
器用に鋭利に動かせて、耐久性も高い。
普通の気弾なら巻き込まれて消える爆発を受けても、繰気弾なら耐えて使えるのだ。
まさかのメタ技により、機雷が次々に処理されていく。

(やってくれたな。)

ビショップにとって、今の状況は寝耳に水だ。
相手の『回避挙動』のデータを取りたかったのに、当人は不動。
機雷は次々に起爆するが、しかし目的はまるで果たせていない。
繰気弾も、汎用的な対策手段の下地には出来ない。

(成程、これは正しく_)
「『外れ値』、だろ?」
『ッ!』

思わず零した言葉…マイクが拾った『外れ値』というワードが、ヤムチャの指摘と重なった。

「元カノのお陰で知っててな。科学者は嫌いなんだろ、数字で測れない外れ値って奴が。」
『_。』

沈黙したのは、図星か、或いは_
ヤムチャは、科学者という人種の事は元より知っていた。
特にビショップに対しては、科学的実証に拠らずして人を見る事が出来ないが故に、検証やらを優先するだろう。
港区でヒューイと言い争ったビショップの映像から、それなりに察しは出来た。
…そこまで察せるならブルマと別れなかったのでは、とはなるが。

(全く、ブルマの誕生日パーティで食らったやたら固い球が、ここで役に立つとはな。)

悲しいかな、生憎この勘の良さは『戦い方を知る事』にしか発揮できないだ。
しかしそれで失言して『カッチン鋼の球』を得たのが、今の生還に繋がっている。
繰気弾単体では流石に耐えれないが、これに纏わせれば一気に耐久性が高まるという物だ。

(人生、どう転ぶか分かったもんじゃないぜ。)

心の中でぼやきながら、機雷処理を続けた。

_因みにブルマが『カッチン鋼』を持ってたのは、宇宙一硬い鋼と聞き科学者として食い付いたから、と言えば想像に容易いだろうか。
巡り巡って対科学者に繋がっているが、ソレを言ったら皮肉になるだろう_

14人目

「正義は誰がために」

 ――ヤムチャの活躍が報告され盛り上がるトゥアハー・デ・ダナン。

 作戦中枢の大型ホログラムモニターに、戦場の映像が浮かび上がる。
爆風が渦巻く中、煙の向こうに立つ人影。
その輪郭がはっきりするにつれ、司令室の空気が一変した。

「……これは……ヤムチャさん?」

 真っ先に言葉を発したのは、環いろはだった。驚きに満ちたその声に、
周囲の視線が集中する。映像には、爆炎の中に漂う男が映っている。
その口元には確かな笑みがあった。
煙にまみれた黒髪。修行の中で付いたのであろう、左目に走る傷。

 思い返せば、彼の半生は不遇に満ちていた。盗賊稼業から足を洗い武道家を志すものの
天下一武道会では思わぬ強敵たちとぶつかり早々に敗退。
ピッコロ大魔王やサイヤ人との最終局面には参戦ならず。同じ亀仙流の一門である
悟空やクリリンとの差は開く一方……しかし。だがしかし。

「本当に……ヤムチャさんがやったんだ」

 言葉を失ったのは、誰あろうクリリンだった。
最もヤムチャの近くにいた者の一人であり、栽培マンとの戦いでは命を救われた。
誰よりも彼の実力と例え敵わずとも戦列に立ち続けた男気を知っている。
そのクリリンが、ほんの数秒遅れて、静かに頷く。

「そうだ……僕たちが近寄れなかった、あの機雷群を……ヤムチャさんが……!」

 アルティメット化し、眠っていた力を呼び起こした悟飯さえ
決め手を封じられ、実力を出しきれずにいた状況を、ヤムチャが打破してみせたのだ。

 にわかにざわめく司令室。
そこに立つ者たちの多くが、この状況を予測できなかったに違いない。
――だが今、その男がやったのは、“誰も考えつかなかった処理方法”による、
戦況の打開だった。

 誰もが息を呑む中、映像に連動した戦況マップが更新される。
無数の赤点――機雷を示していた危険シグナルが、一つ、また一つと消えていく。

「……戦術的勝利と認定。対象:孫悟飯分隊所属、ヤムチャ隊員による単独処理行動。
被害軽微」

 戦術予測AI音声が淡々と戦果を告げると同時に、抑えられていた歓声が爆発した。

「よっしゃあああああああああ!!!」

 まず飛び上がったのは、ルフィだった。グーパンで天井をぶち抜かんばかりに叫ぶ。

「見たか!? ヤムチャって奴、すっげえやつじゃねえか!!」
「ルフィ、うるせえ」と隣のゾロが肩を小突くも、内心は驚きを隠せない。

「硬い金属に気を纏わせた技で指向性爆破に耐えながら機雷処理……!
それも動きの誘導を伴う連鎖起爆……一本取られたわね」

 ベテラン魔法少女であるやちよも、これには驚嘆せざるを得ないようだ。

「どうやら、俺達はあの男を見誤っていたらしい……見事だぜ……」

 と呟いたのは、承太郎だった。
しかしその目は鋭く、画面越しのヤムチャの姿を睨むように見つめている。

「これほどの機転を――ふふ、さしものメサイア教団も面食らっているだろうよ……
まさに『ザマァ見ろ!』って奴だぜ……」

 フラストレーションが募る中に、溜飲が下がる思いだったようだ。

 「――この機に乗じます! 我々も急ぎ彼らの支援に回りましょう。
残存兵力を展開、進軍ルートを彼らの突破地点に向けてください!」
「アイ・アイ・マム!」

 副官たちが一斉に端末に手を走らせる。
作戦立案班、索敵班、補給班、それぞれが一糸乱れぬ連携で動き出す。
あらゆる装備と火力が、この一瞬でヤムチャの切り開いた道を“主軸”として
再編されていく。トゥアハー・デ・ダナンのCROSS HEROES本隊は合流を急ぐ。

 誰もが驚いた。誰もが見誤っていた。
かつて天下一武道会の予選敗退常連だった男。敵幹部との交戦では真っ先に脱落し、
悟空やベジータと並ぶには“力が足りない”と、どこかで嘲笑すらされていた存在。
だが今、彼は、ヤムチャは確かに――戦局を変えた。

「科学者が最も嫌う“外れ値”」として。
「仲間のために退かない狼」として。そして何より――

「敗北を知ってなお、折れずに立ち続けた者」として。


「どすこおおおおおおおい!! ……むうう!?」

 そしてそれは、ヤムチャだけではない。先んじてユートピア・アイランドに
電撃突入作戦を敢行したウルフマンとて、そうだ。

「あれは……!」

 機雷群を破壊したヤムチャたちの姿が、遥か遠くの空の向こうに見える。

「ふふ、やはりあいつらなら、来ると思っていたぜ! そぉぉおうりゃああああッ!!」

 首投げ、打っ棄り、波離間投げ。押し寄せるメサイア教団兵達を全くものともせず、
次々に相撲技の数々で沈めていく。

「つ、強い、これが正義超人か……!」
「寝ぼけたおカルト集団に、後れを取るウルフマンかよ!!」

「スパイダーストリングスッ!!」

 粘着性のある蜘蛛の糸を放射状に展開し、メサイア教団兵を一網打尽にする
スパイダーマン。

「うわあああああっ」
「う、動けん!!」

「戦士たちの勇気に希望を見た男、スパイダーマンッ!! メサイア教団!
これ以上の悪事はもうやめるんだ!!」
「だ、黙れ! 正義は……常に我らメサイア教団にあるのだ! 貴様らこそ悪だ!!」
「我々はこの腐った世界を正すために……」

『違うな。貴様らに正義はない』
「!?」

 突如、空中から降り注ぐ光弾の雨。

「ぐぉぉああああああああああああッ」

 爆風に吹き飛ぶ教団兵。

「何だ……」
『正義は、この私が執行する』

 17号が空を見上げる。そこには。赤いマントを靡かせ、
銀色の鶏冠を掲げるレトロヒーロー風の戦士。

「だ、誰だ、貴様は!?」
『……スーパーヒーローだ』

 メサイア教団兵の問いかけに、戦士――ガンマ1号――は答えた。

「スーパーヒーローだと……? それに、あのマークは……」

 ガンマ1号の肩に刻まれた、自身の身体を無断で改造されてしまった17号にとっては
忌まわしき紋章……R・R。レッドリボン軍のエムブレム。

「まさか……新型の人造人間か? レッドリボンめ、凝りもせず……」

『我がマスターの命により……メサイア教団。貴様らに正義の罰を与える』
「黙れええええええ!!」
「撃て、撃てえええ!!」

 メサイア教団兵らの一斉射撃。だが、ガンマ1号の鋼鉄のボディは
それを一切寄せ付けない。

「ぎゃあああああッ!!」
「ぐええええッ」
『……』

 銃弾をものともせず、ガンマ1号は最前列のメサイア教団兵を鉄拳制裁。
表情を一切変えることなく、無機質に、無感情に、次々と敵を叩き伏せていく。

「な、何だ、あいつ……まったく気配を感じなかったぞ。見たことない奴だ……」
「と、とにかく、僕達も行きましょう!」

 人造人間シリーズの特色である、気が感じ取れないガンマ1号の突然の乱入に戸惑うも、
悟飯達は進路がクリアになったユートピア・アイランドへの接触を敢行する。
戦況は混沌さを増しながら、次なるステージへと移行していく……

15人目

「いざ征かん暗雲の中へ」

「これが……聖暈船……。」
 3人の前に変形した命蓮寺―――否、聖暈船が現出する。
 思った以上に、ものすごくシンプルなデザインだった。
 豪勢な金銀財宝を乗せているわけでもない、ましてや船としては必要不可欠な帆すらない、ただ大型の帆なしの船の上にこれ見よがしに倉を乗せただけのシンプルデザイン。
 ノーバディ二人と露伴の頭の中では、それこそ神話の宝船のようなデザインを想定していたからこそ愕然するのは容易かった。
「もう少し、神聖なものを想定していたが……。」
「いや、これはこれで……敵に気づかれないのには有効か……?」
「これが宝船の真実か。漫画のネタに使えるか……?」

「さっきから聞いてりゃ……仕方ないだろ!そういう意図で作ってないんだから!」
 船の奥より、頬を膨らませた少女が現れる。
 白い船乗りのセーラー服を身にまとった、大きな錨を背にした少女。
 どこか不貞腐れた顔でサイクスたちの前に現れる。

「お前は?」
「村紗水蜜、舟幽霊にしてこの聖暈船を操舵する『船長』です。」
「舟幽霊!?オイオイ、舟幽霊って言えば船を沈没させるという妖怪のことだが……大丈夫なのか!?」
 露伴に曰く。
 そも舟幽霊とは何か。
 言ってしまえば幻想郷―――否、妖怪の中でも屈指の危険度を誇る「人間への殺意の塊」。
 海を征く船の前に現れ「柄杓をよこせ」と言うそれら。素直に渡せばその柄杓を以て船は沈む。
 渡さなければ嵐を以て船を沈める。
 穴の開いた柄杓を渡さないか彼等を何かしらの方法で浄化しない限り、死は免れられない「海を征く人類の脅威」。
 それが本来の舟幽霊の在り方だ。
 行住坐臥、リアリティある漫画のネタを求める露伴のことだ。舟幽霊の存在を何かの本や媒体で知っていてもおかしくはない。
 故に、知識に基づく彼の不安は正しいのだが。

「ああ、その点については大丈夫です。」
 聖に曰く。
 彼女は元来、舟幽霊にしては素直で話の分かるタイプだという。
 そんな性質に加えて、命蓮寺が建立して以降そこで色々な人間の話を聞いていく内に彼女の心が少しずつ変化していった。
 今では相手を選んで水難事故を起こしているとか。
 露伴、ザルディンは半分感心半分呆れ気持ちで話を聞く。
(それでもはた迷惑な奴だが、そうでもしないと本来の自分の在り方を見失うのだろうな。)
「というか、なんだよー!宝船とか期待してたってのかよー!」
「そういう意味で言ったのではないんだがな。」
「見方を歪めれば、この船も宝船として見えるのですが……。」
「この形として見てしまったしな……もう遅いってやつだ。」
 現実として、この船の形を認識しまっては、イメージでいろいろと補完することもできまい。
 実物を目の当たりにしている状態であればなおのことだ。
 村紗はそんな三人に半ば呆れつつも、船に乗せようと手招く。
「早く乗れよー、魔界に行くんだろ?」
「ああ、分かってる。」



 かくして三人は船に乗り、内部を確認する。
 中は何もないどころか、言っちゃ悪いが古風で地味な幽霊船そのもの。
 ここまでがらんとしていと逆にすがすがしい。
「むしろ中でも戦いやすいまである。」
「武器を振るいづらい、ということはなさそうだが……。」
「元々は聖様を安全にここまで運ぶための船だったからな、あんまり物は乗せられなかったんだよ。」
「帆もないのにどう動くんだ?」
「私たちの法力や魔力で動かすので、そのあたりは問題ないかと。」
「そうか、確認するが位置は覚えているな?」
「もちろんです。」
 もはや後願の憂いはない。
 後はアビダインの出撃準備を待つばかり。
 サイクスは、アビダインの最終調整をしているだろうアビィに連絡を取る。
「アビィ、こちらの準備は整った。先んじて聖暈船を出撃させるから、アビダインはその後ろからついてきてくれ。」
『了解した。そちらの出航を確認したらこちらも続く。』

16人目

「Lycoris Recoil⑫花の塔、天空の彼方へ」

 千束と鈴音。均衡が破れることはなかった。
刃と銃口が互いの急所を捉えたまま、沈黙だけが場を支配していた。

(この女……ソウルジェムを……)

 戦いの中、千束は鈴音の一挙手一投足を観察していた。その最中、常に
ネックレス型のソウルジェムを常に庇うように戦っていたのを見逃さなかった。
魔法少女にとって、ソウルジェムが砕かれることは即ち死を意味する。
鈴音が刃を止めたことで、それは確信に変わった。

「……」

 どれだけの時間が経っただろう。ようやく、鈴音がそっと剣を下ろした。
千束も引き金から指を離し、銃を納める。だが、二人の間に生まれた緊張は、
完全には消えないままだ。

「……ここまでね。想像以上にヤバい街だったみたいね、神浜は。
物見遊山で足を踏み入れるべきじゃなかったわ……もう会うことも無いでしょう」

 そう言い残すと、鈴音は背を向けた。

「待って!」とたきなが一歩を踏み出すが、その背中は振り返らない。

「追ってきたら、次こそ容赦はしない……」
「!」

 月明かりの下、静かに歩き出す鈴音。その肩に乗った瘴気の残り香は、
もう風に溶けていた。あれほどの灼熱を放った剣も、今はただ冷たい鋼に戻っていた。
答えはない。だが、その背がすべてを物語っていた。
――神浜から、去るつもりなのだ。

「はあ、何はともあれ、やっと終わったわね……」

 レナは深呼吸し、ももこは剣を鞘に納め、空を仰ぐ。

「正直、退いてくれて助かった……化け物に加えて、あの魔法少女まで相手にしてたら
危なかったかも知れない……千束さんが追い返してくれたおかげだな」
「もう大丈夫だよ。明るくなればこの辺りも元通りになると思う」

 かえでは倒壊しかけた足場に花を咲かせて、浄化の余波を祈るように見守り
黒江は、遠くに去っていく鈴音の背中を見送っていた。

「あの人は、一体……」
「あの子は、人を殺めた目をしてた……それと同時に、大切な人を喪った目……」

 鈴音と命のやり取りをした、千束だからこそ分かる。
彼女もまた、同じ境遇の中で生きてきた者であるが故に……
命が失われる哀しみと、どれだけの命を犠牲にしても尽きぬ怒りを併せ持つ魔法少女、
天乃鈴音。それはもしかしたら、錦木千束が至っていた姿だったかも知れない……

 何事もなかったかのように、夜は静かに明けていく。
紫紺に染まっていた空が、薄桃色の光を孕みながらゆっくりと明るくなっていく――

 神浜の街には、騒ぎひとつない。
少女たちの戦いも、血の匂いも、瘴気も、誰にも気づかれることはなかった。
まるで、最初から何も起きていなかったかのように。

 千束とたきなは、並んで立ったまま空を見上げていた。
空の彼方には、もう鈴音の姿も瘴気もない。ただ、静けさと、凪の風だけがそこにあった。

「くあー……朝まで仕事になっちったねぇ。先生にドヤされるわぁ」

 体を震わせながら、伸びをする千束。たきなはくるくると黒髪を指で遊ばせながら、

「あの、千束……助けてくれて、ありが、とう……」
「おんやぁ~? あのたきなさんともあろうお方が何とも可愛らしいじゃないのよ~。
普段からそうであれ~?」
「は、はぁ? 調子に乗らないでください! あれくらいなら、私ひとりでも十分に
対処出来たんですから!」

「うぉい、とっとと帰るよ。車出すからさっさとしな~」
「うーい、行くよー、たきなー」

 ミズキに呼ばれ、とことこと千束が歩き出す。

「うぇーい、隙あり~」

 通りすがりざまに、たきなのお尻を足で小突く千束。

「……!!」

 顔を真っ赤にしたたきなが、K-1選手もかくやと言う回し蹴りを千束に見舞う。
倍返しと言うレベルではない。

「あぼふっ!!」

 風船が弾け飛ぶような衝撃音と共に千束が地面をもんどり打っている。

「千束のバカ! そこでずっとそうしてなさい!」
「ぐがー……」
 
 フェリシアは寝息を立て、鶴乃の膝の上で眠っている。

「しばらくは……もう、こういうことがないといいんだけど」

 ぽつりと呟く鶴乃に、ももこが力強く答える。

「私たちは守るだけだ。これまでも、これからもな。
リコリスだって、それは同じなんじゃないか?」
「……かもね。しばらくはこの街で世話になりそうだし?」

 千束は苦笑して腫れ上がったお尻を擦りながら頷いた。

 やがて、リコリスと魔法少女たちはそれぞれの帰路についた。

「喫茶リコリコへようこそ~♪」

 あれだけの戦いがあったにも関わらず、千束とたきなは元気にリコリコのウェイトレスに
出ていた。

「ガキどもは元気だねえ~んあ~」

 ミズキはカウンター席で俯せになっている。

「先生、クルミは~?」
「部屋で寝てる。夜更かしでもしてたんだろう……」

 平和に見える風景。だが、全てが終わったわけではなかった。
戦いの残り火は、まだくすぶっている。

 後日――トゥアハー・デ・ダナン・司令中枢。

「情報着信、匿名プロトコル経由。出どころは不明ですが、内容が……」

 作戦担当オペレーターが眉をひそめながら報告する。
テレサ・テスタロッサはモニターに映し出された文面に、鋭い視線を向けた。

「……バミューダ・クリスタル?」

 後に、メサイア教団の虚飾の天空城、ユートピア・アイランドにて運用される事となる
新種の鉱物に関する情報。それをCROSS HEROESにもたらしたのは……

「千束とたきなは上手くやったみたいだね~。ふわ……ねむ」

 夜通し千束とたきなのサポートをしつつ、リ・ユニオン・スクエアにまつわる情報収集に
奔走していたウォールナット……クルミであった。

「さて、この情報を活かすも殺すも、後は君たち次第だよ、CROSS HEROES。
ボクも寝るか~。今日はリコリコの手伝いはしないからな~……すやぁ」

 クルミが提供した情報は、匿名による不透明さもあり、俄には信用されなかったが
ヤムチャたちが遭遇した空中機雷にバミューダ・クリスタルが使用されていた事が判明。
その内容は、冷却処理によってバミューダクリスタルのエネルギーが安定するという
技術的考察だった。

「確認された結晶体構造、エネルギーパターン……間違いありません」
 
 オペレーターがモニターを指しながら報告する。
 
「これは、“バミューダクリスタル”です」

 その名が出た瞬間、司令室の空気が変わった。

「それは、あの送信者不明の情報にあった……」
「送信者は不明……ですが、先ほどヤムチャさんたちが破壊した機雷のエネルギー解析と
一致しています」
「情報の信頼性は……」
「高いと判断します」と、技術オペレーターが即断する。


「冷却……それは私の水の魔法でも有効でしょうか?」


 やちよが艦橋に呼ばれたのはその直後だった。
現時点のCROSS HEROSにおいて、唯一とも言える水使い。七海やちよ。テッサの言葉に、やちよは静かに頷いた。

「ええ。恐らくは。敵の拠点に到着次第、やちよさんの力をお借りすることになるかも
知れません」
「分かりました。間に合うと良いんですが」

17人目

「Zeal Shooter その2『英雄と学士』」

 天王洲アイル 某ホテル
「へぇ、あの野郎やる時はやるじゃんか。」
 元・超高校級の絶望、江ノ島盾子もヤムチャの活躍には舌を巻いていた。
 内心嘗めていたといえば嘗めていた。
 そんな彼が、あんなしなやかさと発想力を携えたとは驚きだ。

 江ノ島とデミックスは、なおも真の英雄を見る無垢な目で画面を見ている。
「こいつは絶望的におもしろくなって来たな。」
「すご……。」

 と、そこへ。
「ただいまだ、モリアーティ。」
 神浜からルクソードが帰還した。
 遅れた帰投に、モリアーティは眉をしかめる。
「ルクソード、遅かったな。どこで道草食っていた?」
「何、少女たちの喧嘩をいさめてきたのだよ。―――夕食のついで、彼女たちにラーメンを奢ってな。」
「おい……。」



『科学者は嫌いなんだろ、数字で測れない外れ値って奴が。』
「おやおや、まずいのでは?」
 アルキメデスが、ビショップを煽る。
 その顔にはいささかの笑みを浮かべている。
 だが、その根底に嘲笑はない。
 あるのは十全の余裕と、彼への全幅の信頼。

「ふ。くく、くははははは!!何を恐れる必要がある?むしろ素晴らしい!」
 それにこたえるように、ビショップも応答する。
 十全の余裕と、全幅の歓喜を以て。
「何という潜在能力!驚きだ!故に我が研究資料としては無限の価値があろうさ!」
(あいつ……心の底から喜んでいるのか!?)
 虚を突かれたような表情をするヤムチャ。
 まるで全身で歓喜するビショップにヤムチャだけではなく、その場にいた全員の口がふさがらない。

「認めよう!確かに外れ値は科学者の予想をはるかに上回り、時に災厄を招く。いわば栄光か破滅かのギャンブル!安定と調和を主とする、歯車がごときつまらん科学者共からすれば嫌悪の対象だろうとも。だが私は違う!科学の発展のためならいくらでもその賭けに乗ろうさ!」
『そのために掛け金以上の犠牲を生むのがお前だろうが!』
「それが何か?」
『そういうことを言ってる時点で、俺とは相いれないな。悪いが俺はお前の実験ネズミじゃない!』

「喜べ!私は貴様を認めている!貴様の潜在能力、殺すには惜しい!むしろ欲しくなってきた!」
『誰がてめーなんかに捕まるかよ!』

「力づくでも貴様を拘束させていただく!お前たち、彼をとらえよ!」
 その一言と共に、アルキメデスに目を合わせる。
 アルキメデスも彼の意志を理解したのか、指令室を出る。
 そして今―――。



 BOOOOOOOOM!!!

『我がマスターの命により……メサイア教団。貴様らに正義の罰を与える!』
 レッドリボン軍からの刺客にして「スーパーヒーロー」を名乗る者。ガンマ1号が襲来する。

 次々になぎ倒される教団兵士。

「下らん!シラクソン・ハルパゲー!」
 振り下ろされる巨大な鉤爪。
 叩きつけられる大地。しかし空中島は些かも崩落せず。

「この鉤爪……まさか!」
 CROSS HEROESは、この鉤爪に見覚えがあった。
 港区での戦い、ある英霊が振り下ろした殺戮機構。
 そしてビショップの存在も踏まえると、こんなものを持っている英霊なんて、一騎しかいない。

「あ、アルキメデス様!来てくださったんですか!」
「やっぱりアルキメデスか!港区の!」
 アルキメデス。
 シラクサの学士にして殺戮機構の使い手。
 果てぬ探求ゆえに悪しき教団に身をやつした、人理の裏切り者だ。
「指令だ。貴様らは迫るCROSS HEROESを相手しろ。こいつは私がやる。」
「はっ!」
 教団兵士の標的は、襲来者ガンマ1号から後方のCROSS HEROESへと切り替わった。

『お前は……?』
「そこのスーパーヒーローとやら、このアルキメデスが相手をしてあげましょう。」



「あれは……レッドリボン軍の、刺客?」
「単騎で来るところ相当の実力者か……或いは相方でも隠れているのか。」
「アルキメデス様だけで十分ですかね?空中に釘付けだったCROSS HEROESも動き出した。」
「分かっている、『ヘイルメス』を放て。奴の調整は終わっているだろう?」
「調整は終わっていますが、もう切るんですか?あれは来たる……。」
 モニターの前で笑みを浮かべつつ、ビショップは言う。

「この際、ガンマ1号などという分からん奴も捕えよう。レッドリボンの連中にも彼我の実力差を分からせてやれ。」

18人目

「科学と魔術が交差する時、歯車は廻り始める」

空中島、ユートピア・アイランド――メサイア教団が誇る、天空に浮かぶ要塞。
雲を切り裂きながら静止するその姿は、あらゆる物理法則を無視した悪意の象徴であり
歪んだ科学の結晶であった。しかし今、その絶対領域に紅蓮の一閃が突入した。

『我がマスターの命により……メサイア教団。貴様らに正義の罰を与える!』

 宣告と共に姿を現したのは、真紅のマントを翻しながら降り立つ鋼の戦士――
ガンマ1号。 レッドリボン軍が“正義”の名を冠した異端の使者。
科学に作られ、信念に燃える彼の眼差しは、明確に教団兵士を見据えていた。
――数十体、いや百を超えるであろう教団兵が迎撃に出るも、次々と叩き伏せられていく。
彼の動きは速い。設計された機械の演算処理能力、
靭やかさと柔軟性を併せ持つ戦士であった。

 その様をモニター越しに見ていたアルキメデスは、自ら重い腰を上げて出陣。
唇を吊り上げた。

「単騎で来るとは……なかなか愚かで、面白い。実に面白い」

 静かに上着を脱ぎ捨てる。白衣の下から現れたのは、
白とは対象的なダークグレイを貴重とした衣装、無造作にボサボサな黒髪。
そして奇怪な造形を伴う戦闘用装具。
彼が召喚せし、禍々しき鉤爪型の兵装、シラクソン・ハルパゲー。

 かつて英雄をも切り裂いた、人理に背を向けた裏切り者の切り札。
この男こそ、シラクサの叡智を汚し、狂気と共に教団に身を堕とした
「学士アルキメデス」だった。

 広場の中心、風を切って対峙する二人の影。

『……お前が、この島の主か?』
「違うな。私は単なる科学者に過ぎない。だが……君の処理は私の領分だ」

 静かな問答、しかし次の瞬間には爆発的な火花が飛ぶ。
アルキメデスの鉤爪が両端から斬り下ろされ、ガンマ1号が垂直に飛ぶ。

 衝突する二人の戦いが幕を開ける中、周囲の大気が異様な振動を起こす。

「君は“重力”の恐ろしさを知らないようだな?」

 ギャンッ、アルキメデスが高速でガンマ1号に追いつく。
周囲の重力を操作する事により、恰も空中を飛んでいるような現象を引き起こしている。

『何っ……』

 重力干渉――ウィザード・オブ・バランス。
空間の位相を操るその力により、ガンマ1号を追い越したかと思うと、足元の重力を反転、ピンボールのように次々と跳ねては方向転換を繰り返してガンマ1号を翻弄する。

「動きの止まった英雄など、ただの案山子に過ぎんよ」

 背後を取ったアルキメデスが突っ込む。連なったチャクラムを従え、
ガンマを斬り裂かんとする。だが――

 ――ガキィィィンッ!!

 その鉤爪を止めたのは、もうひとりの人造人間だった。
黒髪をなびかせ、無表情で佇む存在――人造人間17号。

「邪魔するぞ」
『データ照合……人造人間17号。Dr.ゲロによって生み出された戦士』

「やはり、レッドリボン由来の人造人間のようだな、お前」
『……黙秘する。機密事項だ』

「ほぉう、またもや興味深いサンプルが増えましたか」

 空中浮遊する歯車、アルキメディアン・オドメーターを足場とするアルキメデス。

「黙れ。俺は科学者って人種が大嫌いでな。他人を自分の都合で利用する事しか
考えやがらない」

 世界征服と言うレッドリボンの野望と、それを阻み、組織を壊滅させた孫悟空への復讐。そんな自分には些かも関係なかった筈のエゴによって姉の18号共々
有機体ベースの人造人間に改造された17号。
その声には怒りも、哀しみもない。ただ、深い断絶と冷めた確信があった。
そして、それは対峙するアルキメデスにも重ねていたのだ。

「奇遇ですね。私も人間ってものが大嫌いでしてね。
と言うよりは、人間と言う存在そのものの「在り方」……でしょうか。
非力、非効率、非論理的……反吐が出る。
まあ、そんな枠組みに留まっている私も含めて、ね」
 
「……お前もあのクソジジイと同じ臭いがする。数字やデータで“命”を弄び、
世界を“装置”に変えようとする側の人間だ」

 アルキメデスは口元を吊り上げ、狂気を孕んだ笑みを浮かべた。

「当然だ。“命”も“魂”も、再現可能な構造体に過ぎません。観測と変数、
最適解に沿って並べ替えるだけ。君たちは“定数”ではない。“誤差”だ。“外れ値”だ。
それを制御せずして何が科学か?」

 17号は目を細めた。かつて己の肉体を弄んだ科学者が吐いたのと、
寸分違わぬ台詞だった。

『私はマスターに与えられた任務を遂行するまでだ』
「ハッ、何処の誰が君を生み出したのかは知らないが、所詮は君も与えられた命令に
従うだけの歯車にしか過ぎないと言う訳ですね」
『それが私の存在理由だ』

「言いたい事は終わったか、ボサボサ頭。どっちにしろ、お前らメサイア教団の考えには
一ミリたりとも賛同出来ないし、興味も無い。叩き潰してやるからかかって来いよ」
『同意する。私の任務も、メサイア教団の暴挙を止める事。作戦を続行する』

 17号とガンマ1号。Dr.ゲロとその孫・Dr.ヘド。
造物主を葬った人造人間と、片や造物主に付き従う人造人間の、数奇なる共闘。

 そして人類そのものに失望し、この世界ごと終焉へと導かんとするアルキメデスが
両腕を掲げた。

「ならば証明してみろ! この私の“完成された数式”に抗えるかをな!!」

 両極端の人造人間たちが、“人理の裏切り者”アルキメデスに向かって、
共闘の一歩を踏み出す。

「ウルフマンさーん!」
「おおう、孫悟飯!!」

 殺到するメサイア教団兵を蹴散らしながら、ウルフマンとスパイダーマンが
悟飯らZ戦士たちと合流した。

「入院していたんじゃ……」
「はっはぁ、世界の一大事っちゅう時に、俺だけ呑気に寝ていられるかってィ!
この通り、俺はもう戦える!」

 虚勢を張るウルフマンであったが、悟飯たちには「気」を通して分かる。
彼がまだ、本調子では無い事を……その時である。

『ヘイルメス、出撃します』

 アナウンスと共に警報が鳴る。ユートピア・アイランドの地面が振動し
地下エレベータから迫り上がってくる、新たなる敵……

「な、なんじゃあ……!?」

 トラオムのカナディアンマン・オルタ。幻想郷に出現した悪霊「憎悪の冥鎧士」。
そしてペコオルタのデータを元に改造を施したホムンクルス兵士に
最新鋭の戦闘用ボディアーマーを装備した究極の絶対兵士。その名も、ヘイルメス。
まさに、メサイア教団のこれまでの罪業の集合体とも言える、忌むべき存在。

「つ、強そうなのが出て来やがったぞ……」
「面白いじゃねえか。雑魚ばかり相手にしてて、退屈していたところだぜ」

 気後れするクリリンを他所に、ウルフマンがずい、と前に出る。

「ウルフマンさん、奴は他の兵士たちとは様子が違います……」
「まあ見てなって。軽く捻り倒してやるさ……」

「……」

 ヘイルメスがゆっくりとエレベータの外に歩を進める。悟飯の制止も聞かず、
ウルフマンもまた、歩き出す。まるで土俵入りだ。

「容赦はしないぜ、デカブツ! うぉおおうりゃああああッ……」

 果たして、ヘイルメスの実力は……

19人目

「Zeal Shooter その3『連星のヘイルメス』」

「……。」
 量産型完成式絶対兵士「ヘイルメス」。
 寡黙にして冷酷なる『彼ら』が進軍する。

「うぉおおうりゃああああッ!!」
 咆哮しながら進撃するウルフマン。
 対するヘイルメスは――それでもなおゆっくりと歩み続ける。
 走る様子はない、銃器を構えているわけでもない。
 ただ、そのままの速度をそういう機械のように保ちながら歩き続けるのみ。

 結論から言って、この油断は必定だった。
 眼前には、腰からマチェーテを引き抜かんとするヘイルメス。
 対する自分は?超人の膂力を以てして突き飛ばせば、あの程度の速度は余裕で飛ばせる。
 何なら宇宙まで吹き飛ばしてやろうか?
「このまま押し切って……!?」
 その刹那、ウルフマンが数瞬の狼狽の後弾き飛ばされる。
「うぉああ!?」 
 急加速。
 淡い蒼光に包まれたヘイルメスのタックルを受け、押し飛ばされたのだ。
 驚くべきは、隙を突いたという前提を抜きにしても凄まじい「超人を吹き飛ばす膂力」だけではない。
 現行人類が誰一人達成できなかった『最初から最高速』という攻撃を実行し「可能である」ことを証明してみせた。

「速っ……!?」
 数瞬ひるんだウルフマンの隙を、ヘイルメスは見逃さない。
 高周波ブレードの機能を応用して作り上げた高周波マチェーテを構えながら、彼に襲い掛かる。
「あんな速度で―――!?」
 悟飯が目を丸くしているのもつかの間、空中に飛び上がったヘイルメスの一体が、高周波マチェーテの一本を投げ飛ばす。
 ユートピア・アイランドを囲う機雷群は蹴ったり殴ったり、銃撃を加えたりすれば容易く起爆する。
 だが、投げつけられたマチェーテは機雷の隙間を縫うように飛び、ヤムチャの心臓へと迫る。
「くそっ!油断も隙間ない奴らだぜ!」
 投げ飛ばされたマチェーテを腕で弾き飛ばす。
 マチェーテはあらぬ方向へと飛び、このまま海の錆になるのは必定。
 ひとまずは安心か。
「……。」
 だが、マチェーテを投げつけたヘイルメスは臆することなく、手を落ちゆくマチェーテにかざし―――そこから、電流にも似たエネルギーの奔流を放った。
 エネルギーを浴びた、空中を飛ぶマチェーテは急停止の後軌道を変え、その刃の先端をヤムチャへと向けてまるで追尾弾頭のように迫る。
「嘘だろ!?」
 操っているのは、島の上でマチェーテに手をかざしながら戦闘を行っているヘイルメスの一体。
 二つの環境にいる二人の敵を同時に相手取るという、随分と器用なことをする点を見るとかなり頭もいいらしい。
 再びマチェーテを弾き飛ばさんとする。
 次に利用したのはカッチン鋼を纏わせた操気弾。これなら腕を刃で刺すこともなく安全に弾き飛ばせる。
 が、気弾はバミューダクリスタルのもたらすエネルギーの力場と拮抗しあい、空中で押し留まり弾き飛ばすには至らない。
 これでは気のじり貧だ。

「やっぱりあいつら、あの鉱物の力をエネルギーにしている……!」
 悟飯は、そんな戦線を分析しながら兵士を相手取る。
 分かったことは、ヘイルメスという兵士たちは周囲に浮かぶバミューダクリスタルのエネルギーを身体能力の強化や武器として運用していること。通常戦力を、下手すれば世界に大穴を開けかねない危険物で補っている。
 ますますこの鉱物と、それを基にして危険な兵器群を作り上げたビショップの危険性を思い知らされる。

「はぁ、はぁ……!」
 ―――無慈悲な進撃をやめないヘイルメス。
 そのうちの4体が突如駆け出したかと思うと、突如ウルフマンを囲うような陣形をとった。
 それだけではなく、彼らの手に握られたバミューダクリスタルをかざし、そこから光の奔流を放つ。
「こいつは……!?」
「結界!?」
 ヘイルメスの手に握られた結晶が正八面体形に並び、迸る奔流で結界が作られた。
「くっ!」
 悟飯が結界の隙間を縫うよう気弾を撃ちこんでも、近くの奔流がそれを空中で爆破する。そんな特性が分かった以上外部からの破壊は不可能。
 結界を構成するバミューダクリスタルを強引に破壊すれば、ウルフマンがただでは済まない。

 ―――それだけじゃない。
 結界の壁が、ゆっくりとウルフマンに迫っていく。
 ヘイルメスは、特異点で彼に何があったのかは知らない。
 だが、今も深層心理にこびりついている『あの日』の絶望を思い起こさせるにはこれだけでも十分すぎた。
 トラウマが、危機が、迫る。

「ああ、あ……あああああ!!」

20人目

〈牙狼の隠し爪〉

「…全く、奇妙な奴に狙われたもんだ。」

苛立ちを内心に留め、迫るマチェーテを繰気弾で捌くヤムチャ。
妙な力場に阻まれ弾き飛ばすには至らないが、しかし焦りはない。

「だが、舐められてるのは分かる…俺が一発屋だなんて、思ってくれるなよ?」

言うが早いか、指先で繰気弾の軌道を変える。
拮抗してたマチェーテは自由となり、ヤムチャへと再び刃を向け。

「遅いっ!」
「……っ!」

直後、下から舞い上がった繰気弾に突き上げられる。
真正面からなら推力と力場で拮抗出来たが、横からなら片方が欠け、繰気弾に軍配が上がる。
結果、一瞬だけヘイルメスの操作を外れ、宙を舞うマチェーテ。

「……。」

だが、それ位は想定済みだと再び電流に似たエネルギーを飛ばす。
機雷の隙間を縫って、あっという間にマチェーテへと届かんとし_

「俺が武闘家だって、忘れたのか?」
「_!」

それよりも速く、ヤムチャ自身がマチェーテへと移動。
気付いた時には、既に構えの姿勢で。

「ふんっ!」

マチェーテを、肘と膝で勢いよくサンド。
ヤムチャを狙った磁力の凶刃は、今あっさりと砕け散った。
同時に、空いた手でカッチン鋼の球をキャッチする。

「そら、鉄くずならくれてやるぜ?」

砕けて粉々のマチェーテは、最早かき集めたとて刃にすらならない。
そうして目標を見失い、空を切ったエネルギーの奔流は。

「……。」
「おっと…そう来るか!」

軌道を変え、数も少なくなった機雷の一つを包み込む。
ヘイルメスが導き出した結論は、機雷を利用する事。
今までのゆっくりとした動きから一変、驚異的な速度でヤムチャへと迫る。
それだけではない。

「な、何だ…?機雷が、デカくなってやがる…」

段々と、機雷が肥大化してきている。
エネルギーを与えられ、成長しているのだ。
当たれば先程以上の爆発が起きる事は、ヤムチャでも想像に容易い。
科学の驚異を見せつけられ、ヤムチャは。

「良く分からん代物だ…けどなっ!」
_ピシュンッ!
「…!」

しかし、まるで怯まない。
どころか瞬間的に加速し、ヘイルメスの視界から消えてみせた。
驚いたヘイルメスは、すぐさま周囲を見渡し。

_ヒュゥゥ!

頭上から迫る黄金色の気弾に気付く。
瞬間、意識をスイッチ。
機雷を操る方と反対の空いた手で、装備品の改良型P90を構え、気弾に照準を合わせて引き金を引く。

_ババババッ!ドォーン!

乾いた銃声と共に弾ける気弾。
それにも目をくれず、撃った本人…ヤムチャを探そうと眼を凝らし。

「技に夢中で_」
「_っ!」

求めていた声が聞こえたのは。

「_足元が疎かだっ!」

背後。
それは、嘗てヤムチャ自身がある神に指摘された言葉。
マチェーテや機雷を繰気弾の如く扱っていたヘイルメスに刺さったのは、皮肉か意趣返しか。
振り返るのも、離脱の動きを取るにも既に遅く。

「狼牙風風拳!」
「Gaa…!?」

武闘家としての本領、格闘の一撃がマトモに入る。
ボディアーマーを軽々と貫く衝撃が、肺を叩いて息を吐き出させる。
これまで言葉一つ発しなかったヘイルメスが、呻き声に似た悲鳴を上げる。

「はいはいはいぃーーーっ!」

二撃、三撃…どころか七、八と入っていく鋭い打撃の嵐。
抵抗する間も無くボロボロな姿になったヘイルメス。
見た目もそうだが、貫く様な衝撃で骨も内臓も機能不全だ。

「俺が一芸だけ磨いてたと思ったのが、お前達の敗因だ。」
「Aa…Gaa…」
「って、聞こえてねぇか…終わらせてやるっ!」

最早、身じろぎ一つ叶わぬ容態のソレを見て、ヤムチャが宣言する。
一歩身を引き、助走。

「ラストッ!」
「Gaaaaa!!?」

腹に深々とめり込んだ膝の一撃が、ヘイルメスを弾丸めいて飛ばす。
ほぼ直線の軌道で飛んだ先にあるのは…先程まで操っていた、肥大化した機雷。

「a_」

作られた命であろうと、やはり生命か。
無駄と分かっていながらも、生存本能で身を震わせ、どうにか躱そうと藻掻き。

「かめはめ…っ!」

直撃する寸前、辺りを青く染める眩い光に気付く。
そうしてヘイルメスが眼にしたのは、両手を構えて迸る気を溜め込んだヤムチャ。

「波ーーーッ!!!」

亀仙流の看板であり代名詞、かめはめ波。
その一撃が、今。

「吹っ飛べぇーーーーーーッ!!!」

放たれる、一条の光。
強大な力の奔流が、機雷諸共ヘイルメスを呑み込む。
身体が崩れ、肥大化した機雷が砕け。
最後に見たのは、視界を埋め尽くす眩いばかりの白_

「_a」
_ドゴォォォーーーーーォォン!!!!

瞬間、巻き起こる大爆発が彼の最後を告げた。
周囲一帯を吹き飛ばす程に吹き荒れる風圧、空が割れんばかりの轟音。
四方八方に伸びる火柱と、内包されたエネルギーの奔流は。

「…おぉぉぉぉおっ!!!」

それ以上の、かめはめ波の奔流に呑まれて消し飛んでいった。
機雷処理のもう一つの手…爆発を上回るエネルギーで掻き消すという手段。
肥大化していたが故に僅かに漏れ出る爆炎も、ヤムチャが粗方処理して僅かに残った機雷を少しばかり巻き込むだけだ。
己が作った機雷の空白地帯を、ヤムチャは利用した。
詰まる所、機雷を操ったのを見た時から、今の今まで計算ずくめ。
射線上にあった、端の方の機雷も同じ様に消し飛ばされ、連鎖爆発しては消えていく。

「ふぅー…」

そうして、何もかもを蹂躙したヤムチャ。
かめはめ波の構えを解き、一息付く。

「…どうせ、これもデータに取ってるんだろ。さっきの武器捌きにでも使うんだろうな…全く、ロクなもんじゃ無い。」

だがぼやきながらも、気は緩んではない。
当然、身体もまだまだ戦える。
嘗て油断一つで栽培マンに自爆された様な無様は、もう無い。
正に孤高の狼だった。

『ヤムチャさん、直ぐに本隊が到着します!貴方が切り開いてくれた道から…』
「なーに、こんなの準備体操だ。もっとゆっくりでも良いんだぜ?」
『…フフ、思っていたよりずっと元気そうで、何よりです。』
「伊達に武闘家やってる訳じゃないさ。俺はもう少し、自分を試してみるぜ。」

_だが、孤独ではない。
彼を取り巻く絆は確かに今、彼を寄る辺に一つの光明を導いている。
これこそが信頼。互いの背中を預け、己の為せる献身に精一杯を尽くすという事だった。

(…そっちも頼んだぜ_)



(_あれだけの機雷を、あっさりと…)

一匹の鳥がいた。
ユートピアアイランドの端、地上や機雷群を一望出来る崖の上。
ウルフマン達が戦ってる戦場からも遠い、カメラすら無い地に佇む、一見ただの渡り鳥。
だが、鋭い観察眼でつぶさに事の全てを視界に収めるのは異様にも思える。
その正体は。

(流石です、ヤムチャ様!お一人で戦いを変えてみせるなんて!)

誰あろう、プーアルだ。
何時もヤムチャの傍に浮かんでいる、何の動物がモデルか絶妙に分からない、あのプーアルである。
ウーロンと同じ変化術の使い手で、今は周囲に飛んでいる渡り鳥に変化している。

(僕も出来る事をやらなくちゃ!)

そう意気込んで、身を翻して駆け出した。

21人目

「君は何故戦い続けるのか、命を懸けて」

 死闘極まる偽りの理想郷――ユートピア・アイランド。
鋼鉄の群れが進軍する。その名は――《ヘイルメス》。

 無言の殺意を纏いながら、無表情に迫る彼らの歩みに、
ウルフマンは真っ向から挑んでいた。しかし。

「はあ……!! はあ……!!」

 バミューダクリスタルによる結界。逃げ場を完全に失わせる圧迫感。閉塞感。
――また、だ。 この感覚。あの時に味わった絶望と恐怖が呼び起こされる……

 そう、“あの戦い”だ。


 ――回想・特異点/丸喜パレス。

『完掌・アイアングローブーーーーーーーーーーーーーッ!!』
『ぐぉおわあああああああああああああああああああーッ……』

 特異点は、丸喜パレス。完璧・無量大数軍がひとり、クラッシュメンの必殺技によって
ウルフマンの肉体を、精神を、プライドをズタズタにされたあの戦い……

『お前、まだ自分の恐怖を克服できちゃいねぇんだろ?
お前をそこまで痛めつけた奴の事が……まだ忘れられねぇんじゃねえのか?』

 戦闘不能となり、入院していたウルフマンの病室に見舞いにやって来た
五分刈刑事の言葉。ぐうの音も出なかった。

『ウルフマンさんを知りませんか!? 病室から姿を消して……』

『た、大変だわさゴブの旦那ァ~~~!!』
『あんの野郎……! 早まったマネしやがって……』

 看護師やキン骨マンたちが目を離した隙に、ウルフマンは病院を抜け出していた。

『俺は……俺は正義超人なんだ……! 俺が怖がってる……!?
そんな事あるもんか! 俺は、戦える……戦えるんだ……!! 見てやがれ……!!』

 同じくメサイア教団の横暴に立ち上がった17号やスパイダーマンと合流した
ウルフマンは、メサイア教団の戦闘機を奪取し、ユートピア・アイランドへ。
そして、現在…… 


 ――現在:ユートピア・アイランド。

 結界が形成される。バミューダクリスタルの光が八面体の檻となり、
ウルフマンを包囲していく。

 「くそっ、また、あの時みたいに……!」

 四方をバミューダクリスタルの奔流に囲まれ、光の檻が迫る。
もはや退路なし。敵は無数。逃げ道も、助けもない。

「……はあっ……はあっ……!」

 ウルフマンの肩が波打つ。荒い息と共に、血の味が口の中に広がっていく。

(――また、か……!!)

 無意識に脳裏に響く声。 クラッシュメンの笑い声。全身を握り潰される恐怖。
血に塗れた視界。敗北の屈辱……
クラッシュメンの“完掌”アイアングローブ。その圧力。折れた肋骨。
あのとき味わったのは、肉体の破壊だけではない。己の“誇り”そのものが砕かれた
感覚だった。

(今の俺も、あのときと同じ顔をしているのか……?)

 敵の数、火力、機動性、戦術。全てが不利。
そして何より、己の精神が――怯えている。

 目前のヘイルメスが、結界の内側で手をかざす。
バミューダ結晶がきらめき、重力場のように空間を圧縮し始めた。

 次の一撃で、終わる。

「くっ……!」

 膝が、震えた。

「俺は、正義超人なんだ……! 逃げたままなんて、許されねえ……!」

 あの言葉は、口先だけの虚勢だったのか?
今、ここで諦めたら――病院を抜け出した時に掲げた誓いすら、嘘になる。
ウルフマンは、拳を握る。握り込んだ指先に、血が滲んでも構わずに。

 その拳が、心の檻を突き破る。

「はあああああああああああああああッ!!」
「!?」

 溢れる水の奔流が、バミューダクリスタルの結界に浴びせかけられる。すると……
結界が見る見る内に霧散していく。
バミューダクリスタルは熱に過剰反応し、大爆発を引き起こす反面、
何らかの方法で冷却されるとエネルギーが安定し、結合が解かれ無効化されると言う
特性を持っていた。

「――やちよさん!?」
「間に合ったようね……」

 水流を放ったのは、水属性の魔法少女・七海やちよのトライデントであった。
悟飯たち先行組との合流を図っていたCROSS HEROES本隊が合流したのだ。
しかし、ここは上空5000m。舞空術のような飛行する術を持たないやちよがどうやって……

「ゴムゴムのォォォォォォォォォォォォッ……!!」
「〝三百煩悩〟〝攻城砲〟(300ポンドキャノン)ンンンンンンンンンンンンンンンンッ!!」

 援軍はやちよだけではない。ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)とバズーカ、
百八煩悩による合体攻撃が、4体のヘイルメスの内の2体を吹き飛ばす。
モンキー・D・ルフィとロロノア・ゾロだ。

「ウルフマンのおっさーんっ!!」
「ル、ルフィ……!!」

「何故だ!? このユートピア・アイランドにどうやって……」
「はっはっはっは……はっはっはっはっは……!!」
「!?」

 混乱するメサイア教団兵たち。CROSS HEROESの面々を導いたのは……

「マーベラー!! チェンジ・レオパルドンッ!!」

 スパイダーマンが有する、宇宙戦艦マーベラーがさらに人型へと変形する。
呼べば何処からともなく駆けつける黒き鋼鉄のスーパーロボット……
レオパルドンであった。

「やれやれだぜ……突然こんなバカデカい戦艦がトゥアハー・デ・ダナンの前に
現れやがるんだからな……」

 レオパルドンから飛び降りる、空条承太郎。彼らはスパイダーマンが
召喚したマーベラーによってここまでやって来たのだ。

『オオオオオオオッ……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラァァァァァァッ!!』
「ぶげあああああああああああッ!!」

 地上に密集するメサイア教団兵を、スタープラチナの猛ラッシュが
次々と殴り倒していく。

「こんな無駄に高い所から他人を見下すのはさぞかし気分が良い事だったろうぜ……
だが、覚悟しな……てめーら全員の顔面、二目と見れない程にぶん殴る……
裁くのは俺の『スタンド』だッ!!」

「ウルフマンのおっさん! やれるか!?」
「へへ、当たり前だ……」

「……!!」

 仲間を倒されたヘイルメスが、ウルフマンに向かって突撃してくる。

「ウルフマンさん! 危ない!!」
「――!!」

 疾風怒濤。ウルフマンがヘイルメスの懐に飛び込んだ。
それは力士のがっぷり四つの体勢。

「俺はとんだ思い違いをしていた……俺はひとりで戦ってるんじゃねえ……
例え俺が倒れても、こいつらがいる。だからこそ、全力で出し尽くして戦える!!」
「……!! ……!!!!」

 傷だらけの満身創痍のはず。戦場に立つ事さえ出来ない死に体……
なのにこの男から湧き上がってくる闘気は何だ。押し負ける理由が見当たらない。
カナディアンマンオルタの、憎悪の冥鎧士の、最終兵士の、無敵の武器の、防具の……!!

「借り物お下がりの力がご自慢らしいがァァァァァァッ……!!」

 ヘイルメスの腰を掴むウルフマンの握力が、筋力補強型戦闘用ボディアーマーに
ヒビを走らせる。

「こちとらは地獄の稽古を耐え抜いたド根性とぉぉぉぉぉッ!!
お前らには到底理解出来ない『友情パワー』があるんじゃあああああああああい!!」

 ヘイルメスの巨体が空中を一回転するのは、その刹那であった。

22人目

〈マグネットパワーの申し子〉

翼をはためかせ、宙を舞う鳥、もといプーアル。
だがしかし、待って欲しいと思う人もいるだろう。
そう、『そもそも何故此処に居るのか?』と。
…敢えてこう答えよう、『既に彼の登場シーンは出た』と。

『_HQよりパトロール、目標はまだ見つからないか?』
「此方パトロール、残骸どころかネジの一本も見つからん…」

通信機を手に持ち、HQと交信するコマンダー。
彼を筆頭に周囲を警戒する、数人の兵士。
不意に現れ周囲を探る彼らは、メサイア教団だ。
何かが見つからない、と言った報告を上げている。

「奴等、魔法でも使ったのか?」
「有り得るな、CHには魔法使いがいるらしいし。」
「馬鹿言え、今探してる『戦闘機』はデカイぞ?」
「口より手を動かせ。奴らが使った『戦闘機』が『どこから盗まれたか』特定しなければならん。」

そう、探しているのはウルフマン達が乗ってきた『戦闘機』だ。
現存するメサイア教団の拠点は、ここユートピア・アイランドと、存在しなかった世界の本部以外、知られてすらいない筈だ。
だが現に何処かから盗まれ、こうして堂々侵入…危機意識を揺さぶるには、十分過ぎた。

「畜生、カメラが無い場所で消えやがって。」
『パトロール、無駄口を叩くな。アウト。』
「了解、アウト…ったく、面倒な事になった。」
(…必死に探してるなぁ。)

ため息を付き、しかし仕事は全うせんと捜索するメサイア教団。
その様子を、しめしめといった表情で伺う鳥…もといプーアル。
さて、勘の良い読者の方はもうお気づきだろう。
そう、侵入に使った戦闘機。

(まぁ『僕は鳥になった』から、『戦闘機なんて絶対見つからない』けど。)

その正体こそが、プーアルである。
彼はウーロンの様に、無機物だろうと変身できる。
ウーロンは5分しか変身出来ないが、プーアルはなんと時間制限無し。変化対象の機能を十全に引き出せるおまけ付きだ。
そこで、何処かで撃ち落とされたメサイア教団の戦闘機をCHとDDが独自のルートで回収し修復、足の付かないようIFFを少しばかり改変。
それをモデルに変身し、こうして上空から味方を装い侵入した、という経緯だ。
これが少数の団体なら、全てのIFFを把握出来ていただろうが…一億という数が、これまた裏目に出た形になった。

(っと、今はお仕事に集中しなきゃ!)

見つかる筈の無い探し物をする彼らを横目に、プーアルは渡り鳥の群れに紛れて奥地へ進む。
ヤムチャの奮闘、ウルフマン達の侵入、不意に周囲を搔き乱したRR軍のアンドロイド。
そして、これから来る『あの男』を含めた全てを隠れ蓑にして_



『成程、まだ底を見せませんか。』

一方のビショップは、しかし冷静沈着だった。
ただひたすらに、ヤムチャのデータを出来得る限り得ていく。
狂った科学者のストイックさ、或いは悪辣にも思える生き様が、今の彼を突き動かしている。

(しかし、防衛機構は持ちそうに無いか。)

だが防衛の尽くが破壊されてる以上、苦境には変わりない。
連鎖爆破させやすい密度が裏目に出た。
結果、3割強…否、4割弱まで機雷が破壊されている。
ヤムチャがいた周辺のみだが、即ちそれは島を囲む機雷群の一辺に『明確な空白地帯』が出来たという事でもある。
たった一人、今の今まで侮られていた戦士によって。

(全く、『外れ値』と当たってばかりだ。)

ウルフマン達が、何故かメサイア教団の航空機で侵入し暴れているのもある。
RR軍のマークを付けた謎のアンドロイドもだ。
一手でも悪手を打てば、全てが終わるだろう。
だが。

(だが。『外れ値』もまた『データ』…この際、いっそ全てを総てやろう。)

それでも、彼は止まらない。
どれだけ愚かな行いで数多の被検体を殺しても、その果てに己の正しさを証明してきた。
…己のみを納得させる為の、否定を受け付けないが故に独善的でしかない正しさを。
今回もまた、そうするのみ。

「実験、実行、実証…」

陰の掛かった彼の目に映る、残った機雷群のシグナルマーク。
それ等が色を変え、彼の手のままに動き始め_

_ピーッ
「…ふむ?」

不意に聞こえた耳障りなエラー音が、意識を揺さぶった。
見れば、ヤムチャとは反対側にある無数の機雷群からその警告は出ていた。

『エネルギー量低下による機能不全。』

機材トラブルか、或いは急造量産品故の部品精度から来る動作不良か。
一瞬浮かんだ安直な検討は、しかし。

『動作不能』『エネルギー量急速低下』
『エネルギー漏出確認』『制御不能』
「…はっ?」

栓を切った様に湧き出たエラーの山、異常事態によって搔き消される。
急激に上がるERRORの枠が、モニターの一角を埋め尽くさんとする。
なんだこれは、どうした事か。

(いや… 真っ先に考えるべきは『何故それが今発生したのか』だ。)

事前に想定されたあらゆる動作不良の対策は講じた、故に今まで失敗作を作った例は無い。
だからこそ、今起こっている異常の異質さが一層際立つ。
すぐさま反対側のカメラを、映像モニターに回す。

「ほう。」

一目で、全てが分かった。
映ったのは、赤褐色から薄緑色に変色した、不具合を起こしたであろう機雷群。
そしてその真っ只中に浮かび、機雷から伸びる『電流を帯びたエネルギー』を一身に浴びる…否、『無理やり奪っている』何者か。
目元を覆うマスクを付けた、金髪の巨漢。

「この男は確か_」

ビショップは知っていた、その男を。
嘗ての完璧・無量大数軍宣戦布告の日。
ストロング・ザ・武道らによって『偽りの代表』として吊るされ、晒された完璧超人。

『吸収、マグネットパワーッ!!』
「_ネプチューンマン。」

3属性不可侵条約に調印した『元』完璧超人代表、ネプチューンマンだった。
_奇妙な事に、彼一人だった。

「はて、吊し上げられた筈ですが。何故、単身で…?」



「ニャガニャガニャガ…全く、随分と面倒な事をしてくれましたね。」

声だけは平坦だが、極めて不機嫌そうな目つきのグリムリパー。
この特異点の丘で、彼と大帝の使者、そして使者の持つ礼装を介してカール大帝が、杜王町前で繰り広げられる聖戦とは別に、ある映像を見ていた。

『吸収、マグネットパワーッ!!』
「お陰で、彼等を動かす羽目になりましたよ。」

そう、ネプチューンマンがユートピア・アイランドに出向いているのは、他ならぬグリムリパーの指示だった。
ここは特異点という一種の隔離空間だが、何か独自に外を知り行き来する手段を持っている様である。

『これは…機雷や島からのカメラ、では無いな。』
「えぇ、お気付きですか。」

使者の賢眼を、グリムリパーが称える。
そう、奇妙な事にビショップが見ているカメラとはまた違う角度からの映像なのだ。
当然ハッキング等では無い、第三者からの映像という事になる。

「この件に適任と言えど、彼もまた『裏切り者』…向かわせるに当たって、『監視役』を付けるのは当然の事ですよ。」

監視役。
言葉通り、ネプチューンマンを監視下に置き行動を制限、或いは強制する者。
ソレが何者かは、未だ誰も知らず、見えず_

23人目

「理想郷を制する者」

 蒼天を貫くようにそびえる、空中要塞ユートピア・アイランド。
その中心部で、ウルフマンは吼えた。

「喰らいやがれえええええええッ!!」

 渾身の叫びと共に、ヘイルメスの巨体を浮かせたウルフマンは、
全身の筋力を集中させた。友情、根性、正義、そして怒り。そのすべてを込め――

「不知火ッ!!」

 垂直に放り投げたヘイルメスを飛び越し、背中に乗りつけた状態で
両腕を捻り上げ身動きを封じた体勢のまま、地上へと急降下。

「雲竜投げええええええええええええええッ!!」

 地が裂け、土煙と轟音が周囲を呑み込む。

『……!! ……!!』

 相撲の土俵入りは、不知火型と雲竜型に大きく二分される。
攻守のバランスに優れた不知火型と、攻めを主体とする雲竜型。
敵の動きを封じ込めた上で、乾坤一擲の一撃を叩き込む……攻守両方を兼ね備えた
必殺技こそが、不知火・雲竜投げである。
奇しくもそれは、クラッシュメンに敗れた経験から見出された新境地……

「やったか……!?」

 土埃が晴れた果てに立っていたのは……恐怖を乗り越え、完全復活を果たした
ウルフマンであった。量産改良型絶対兵士最終兵士・ヘイルメス、沈黙。
決まり手、不知火・雲竜投げ。

「やったぁーッ! ウルフマンのおっさんが勝ったァーッ!!」
「へへ、ざ、ざまあ……見やがれ……」

 しかしその直後、ウルフマンもすべての力を使い果たし、地面に大の字で倒れ伏した。

「へ、ヘイルメスがやられた……! 3機も……!!」
「お、おのれえッ……や、奴は倒れて動けん! 今だ、撃て!!」

 ルフィ、ゾロ、そしてウルフマンによって立て続けに破壊されたヘイルメス。
慄くメサイア教団兵が、倒れたウルフマンに銃口を向けるが……

「!!」
「正々堂々、全力を出し尽くした戦士に対し、その振る舞いか……!」

 天津飯が超スピードで眼の前に立ちはだかり、腹に強烈な当て身を打ち込む。

「ごはぁああああッ……!!」
「貴様らは武道家ではないかも知れん……いや、それ以前に人としての品性に
欠けている!」
「そうだ、そうだ!」
「う、うう……!!」

 天津飯と餃子の気迫に、教団兵たちが怖気付く。

「俺も殺し屋の道を進んでいたなら……お前たちのような分別の無い輩に
成り下がっていたやも知れん。そう言う意味では、俺が餃子と共に選んだ道は
間違っていなかった事を確信できる」


『ふふふ……流石だよ、CROSS HEROES。そうでなくてはね』

 
 空中に浮かぶのは、メサイア教団の大司教――「ビショップ」の姿だった。

『ヘイルメス。自信作だったんだが、君たちにはまだ及ばんか。だが、それでいい。
私の研究はまだまだ上を目指す余地があると言う事だ。君たちの存在が、
私をさらなる高みへと導いてくれるのだからね。科学技術を進化させてきたのは、
いつの時代も「闘争」だ』

 ビショップは、驚くほどに冷静だった。

「ンなろォ、余裕ぶりやがって……!! ゴムゴムのォォォォォッ!!
”銃(ピストル)”ゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 ルフィがビショップの顔面目掛けて鉄拳を繰り出すが、その攻撃は擦り抜けてしまう。

「ありゃ!?」
「立体映像……つまり、偽物よ!!」

 やちよが言った直後、伸び切ったルフィの拳が背後にある城壁の一部を殴り砕いた。

「おわっ!?」

 空中に散乱した瓦礫が、連鎖反応で爆発を起こす。

『気をつけた方が良い。このユートピア・アイランドの大部分にも
バミューダ・クリスタルが使われているからね』
「!? バミューダ・クリスタル……」

 Z戦士が苦戦した、あの空中機雷群に使われていた鉱石と同じものだ。

「つまり、あの機雷と同じように……」
「熱を加えたり、衝撃を加えたら爆発するって奴か!?」

「ルフィ! てめェ、気をつけろ!!」
「俺のせいかァ!?」

『君たちの強みは、その超人的なまでの攻撃力にある。それを利用させてもらったのだよ』
「お生憎ね。バミューダ・クリスタルについての情報は既に把握しているわ」

 やちよの水魔法による冷却による、バミューダ・クリスタルのエネルギーの安定化。
ウルフマンを封じ込めた結界を突破できたのも、そのおかげだ。

『何処から情報を仕入れたのかは知らんが、見事だったよ。
高度に発達した科学は魔法と区別がつかない……と、先人は云った。
つまり、科学と魔法とは根を同じくして枝分かれした産物同士だからね。
魔法少女、その存在もまた、興味深い』

「レオパルドンのパワーも、ここでは逆効果か……」
『君もまた、未確定要素のひとりだな。スパイダーマン。未知なる領域、
数多の可能性の果て……スパイダーバース……やがては我らメサイア教団が至る
最終目標への鍵となる。そしてその機体……地球外の技術が使われていると見た』
「そこまで調べ上げているとは……この男……侮れんな……」
 
 モンスター教授率いる鉄十字団の生体兵器、マシーンベムの怪人たちを
葬り去ってきた無敗のスーパーロボット・レオパルドン。それ故にこそ、
強すぎる力が、そのまま自分たちに返ってくる。
さしものスパイダーマンも、ビショップと言う男がメサイア教団などと言う矮小な組織に
収まる器でないことを察知する。

『本当に、本当に君たちは私を退屈させてくれない。研究意欲が湯水のように
溢れて止まらないとも! あっははははは……』

「えーと、どう言う事だ?」
「いつもみてェに派手にぶっ壊すなってこった」

 イマイチ話についていけないルフィに対し、ゾロが咀嚼して話を要約する。

「んじゃあ、あいつを直接とっ捕まえてブン殴りゃ良いのか?」
「いいぜ、ルフィ……それが分かってれば上出来だ。シンプルで良い。
奴がこの島を操ってるんだ。破壊出来ないなら、この島のコントロール権を
制圧するのが近道だ」

『本質を見極める力は、流石海賊王を目指す男と見るべきか。
モンキー・D・ルフィ。君のその柔軟性に富んだ発想と行動力にも、これまで随分と辛酸を
舐めさせられたものだ』
「お前の言ってる事、ぜんっぜん分かんねェ! 今すぐ見つけてぶっ飛ばしてやるから
覚悟しろ!!」

「そう言う事だ。首を洗って待っていやがれ……」
『スタンド……人間の精神力の具現化。その原理を解析すれば、悪霊の量産化にも
大いに役立つだろう』
「他人の褌を借りて悦に入るのが好きらしいが、お前には到底無理な話だ。
スタープラチナの力……そんなに味わいたければ、嫌と言う程食らわせてやるぜ。
ただし、拳をだがな」

 その才能は確かだ。だがしかし、すべての物事を自らの知識欲と利用価値でしか
計れないビショップと言う男は、承太郎が最も嫌悪すべき人種であった。

「しかし、この島は広い。探すのも一苦労だぞ」
「メサイア教団とて、この島を丸ごと失うのは望んでいないだろう。
奴らは出鱈目な物量で押し寄せてくる。まともにやり合うな。
俺達がへばるか、この島を制圧するかのスピード勝負だ」

 かくして、CROSS HEROSとメサイア教団による
ユートピア・アイランド制圧戦が幕を開けた。

24人目

〈動乱の空、静寂の地下〉

「あの人は、囚われていた筈の…!」

ユートピア・アイランドを囲う機雷群の一角。
ヤムチャ達とは反対側の方角にあるシグナルパターンに異変が見られ、その一帯をドローンでモニターに映したテスタロッサは、目を疑った。
当然だ。
完璧・無量大数軍に捕らえられていた筈の『あの男』が、白昼堂々と姿を露わにしているのだから。

『…ふむ。他の力も混じってる分、やはりマグネットパワー単体の量はそう多くは無いな。』
「あの口ぶり…バミューダ・クリスタルの特性を知っているようですね。」

マグネットパワーの宿った左腕を見つめる男の呟きを、ドローンのマイクが拾う。
次いで、彼の周囲にある機雷の異変に気付く。

「機雷が、変色している?」

赤褐色だった機雷が、薄緑色に変化しているのだ。
何故か、と思った次の瞬間。

『だが、放置は出来んな。吸収ッ!』

全身を震わせ、力ませる。
彼から何対も伸びる淡いエネルギー流が、無数の機雷を捕えていく。
かと思えばそのエネルギー流に乗って、機雷から紫電の走る濃密なエネルギー…マグネットパワーが彼へと放射されだした。
同時に、赤褐色だったその色を薄緑色に変えていく。

「もしや、結晶からマグネットパワーを吸収している…?」
『マグネットパワーッ!!!』

疑問に答え合わせするが如く、薄緑色になった機雷がゆっくりと降下していく。
羽根をもがれた鳥の様に。
同時にエネルギーを浴びた男が、一層強い輝きを全身から吹き出すように放ち始めた。

『マイナスッ!』

球状に広がる青白いプラズマエネルギーの波が、周囲一帯へと一気に波及する。
降下していた機雷群はエネルギー波に呑まれると、まるで猛烈な横殴りの風を受けた様に、波から弾かれていく。
そうして広がった機雷の輪は、やがてより遠くにあった機雷群と衝突し、中継ドローンをも呑み込んだのを最後に映像は途絶え_



_ドオォーーーン!!!
「何だ、爆発!?」

メサイア教団を押しのけ、突き進むCH一行。
彼等の元に、突然の轟音と烈風が届く。
自分達が向かっている方角で起きた爆音に、クリリン達は何が起きたのか見当が付かず、困惑するのみ。
しかし、承太郎がふと気付く。
立体映像に映るビショップの顔つきが、変化している事を。

「ビショップと言ったか?テメェ、知ってるな。」
『ほう、何を根拠に?』
「懸念してた事が露わになった…って顔に書いてあるぜ。」

俺も学者だからな、と牽制する承太郎に、ビショップの神妙な顔付きが向け。
僅かに溜め息を吐き、口を開いた。

『成程。となればアレはお前達の差し金では無い、と。』
「アレ?」

疑問符を浮かべる承太郎だったが、意外な所から答えはやってきた。

『皆さん!そちらに一人、向かっています!』
「えっ、この島にか…!?」

懐の無線機から聞こえるテスタロッサの声。
彼女の報告に、クリリン達は耳を一瞬、耳を疑った。

「嘘だろ、あの機雷群を抜けてか…?」
「けど、爆発したなら機雷にやられたんじゃ…」

誰もがそう思った。

「私が、何にやられただって?」
「「っ!?」」

しかしその予想は、空から聞こえた声に裏切られる。
思わず振り返った一同の視線の先にいたのは、金髪の大男。

「ハッハッハ!私が機雷にやられる玉だと思うか?」
「オ、オメェ…まさか!?」
「貴様、侵入者の一味か!?」

驚嘆するウルフマンに対し、豪快に答えながら地に降り立つ。
そこへ、メサイア教団兵が襲い掛かる。

「…話の。」

が、巨体に見合わぬ速度で逆に彼等の懐に潜り込み。

「なっ…!?」
「邪魔だーっ!!」
「グワーーーッ!?」

青白い光沢が薄っすら浮かぶ左腕、ダイヤモンド・アームで一撃の元に薙ぎ払ってみせる。
間違いない、ネプチューンマンだった。

「ネプチューンマン、オメェ、奴等に捕まってたんじゃ…?」
「まぁな、確かに調印式のあと奴等に襲われて、今まで吊るされていたさ。」

近寄って、気付く。
彼等の言う様に、他の完璧超人に付けられたであろう、痛々しい傷跡が無数にあった。
『完璧超人の掟』を表す様に、傷跡が前面のみなのは流石と言うべきか。
五体満足という訳では無いだろうが、しかし。

「だがこの通り、今は表に出られてるという訳だ。ハッハッハ!」
「そうか、無事に…」

マスクを被った彼の口元は、不気味な程に余裕を見せつけていた。
一方で、ウルフマンは嬉しさ半分、驚き半分といった様相だ。
そんなウルフマンを見てか、彼の肩に手を置き。

「_ウルフマン、お前や正義超人の皆が超人墓場で戦った事も、勿論知っている。」
「っ!」

その胸中を、ネプチューンマンは言語化する。
ウルフマンの頭に過ぎる、超人墓場での敗北の記憶。
まだ僅かに心の片隅へ巣食うトラウマの欠片が、彼の顔を歪めた。

「吊るされてはいたが、映像は中継されていてな。その正義心は、嬉しかったさ。」
「けど、俺は…!」
「結果が出せなかった、なんて言うなよ?」

自らの胸を叩き、変わらず豪快な笑みを見せつけるネプチューンマン。
こうして自分がここに居る事が『真実』だと、そう言わんばかりに。

「寧ろ『完掌』のフェイバリットを受けたお前の方が心配だったが、元気そうだな。」
「お、おうよ!この通り、ピンピンしてらぁ!」
「…そいつは結構!」

ウルフマンが普段通りの活気を醸し出す。
ネプチューンマンは一瞬思案しかけたが、彼の言う言葉に頷いた。
引っ掛かる点はあったが…

『_感動の再開とやらは、もう終わりか?』
「今は、コイツに集中するとしよう。」

ビショップと、彼の繰り出す無数のメサイア教団兵。
そして数える程度にはまだまだいる『ヘイルメス』が、これ以上の話を遮った。

「貴様等御自慢の兵士だそうだが…私達に叶うかな?」
「言わせておけばっ!」
「どれ、試してやろう。」



(上、凄い爆音だなぁ。)

一方で此方は、陽光届かぬユートピア・アイランド内部。
その中を飛び回る羽アリ…もといプーアル。
彼は傍受されぬよう通信等は行わず、先んじて潜り込んでいた。
不意に、目線を下に見やる。

「_第6中隊がやられたそうだ、勝てるのか?」
「CHの連中、機雷群をダメにしたらしいぞ…」
「静かにしろ、俺達にも出動の命令が下った!」

そこにいた無数のメサイア教団兵の、緊迫した慌ただしいが絶えず聞こえる。
地上の味方が順調に突き進んでいる事が、プーアルにも伺えた。
そのまま誰にも気付かれず、彼は次々と進んでいく。
監視カメラの死角…天井スレスレやダクト内を通って、奥へ奥へと。
次第に、無機質な廊下へと出た。

(ここは?)

様式のまるで違う構造に戸惑いながらも、偵察を続けるプーアル。
程なく目に付いたのが、機械がごちゃまんと並べられた部屋だった。

(色んな電線が付いてて、ピコピコ光ってる…サーバーって奴なのかな?)

戸惑いつつも辺りを見渡し、ふと窓ガラスが目に付く。
気になって覗いてみるプーアル。

(…これって、蜘蛛?)

そこには、無機質な金属色をした、巨大な蜘蛛の兵器が鎮座していた。

25人目

「友情POWERS! NEVER GIVE UP!!」

 それはまさしく、戦場における“天啓”のようであった。
あのネプチューンマンが、鮮烈な光と共に現れた瞬間。空気は一変し、
周囲の時間すら凍り付いたかのような静寂が支配した。

 誰もが言葉を呑んだ。あまりに突然で、あまりに堂々たるその姿に。
そして、ウルフマンもまた、その衝撃のただ中にいた。

「ぬ、うう……!!」

 ヘイルメスとの一戦にすべてを出し尽くした満身創痍の身体に鞭を打ち、
ウルフマンは呻き声を上げながら戦場を睨む。
その背中から滴る血と汗が、戦いの苛烈さを物語る。
ネプチューンマンの登場は、ウルフマンに再び
奮起させるだけの気力を与えたのだ。

「ウルフマンさん! まだ無理は――!」

 心配する悟飯の声が飛ぶ。しかし、ウルフマンはそれを振り払うように、
ゆっくりと立ち上がった。その足取りは重く、それでいて確かだった。
まるで、地に己の意志を刻みつけるかのように。

 筋肉が軋む音が耳に届く。だが、それは破壊ではない。再生の音だった。
長く沈んでいた獣が、ようやく檻の扉を蹴破ったのだ。

「言っただろ悟飯、ピンピンしてらぁってな!」

 その笑みには、もはや迷いはなかった。
かつて“正義超人”と呼ばれた頃に纏っていた、誇りという名の鎧が、
彼の魂に再び宿っていた。

「フフ……それでこそだ」

 ネプチューンマンの口元が、静かに綻ぶ。
彼は知っていた。ウルフマンが抱えていた敗北の記憶、挫折の痛み、
それでも前へ進もうとする勇気を。

「お互いボロボロだな」
「名誉の勲章って奴さ」

 かつてキン肉マンと敵対し、そして共に戦った仲間。
完璧・無量大数軍に囚えられ、沈黙の闇に縛られていたネプチューンマン。
戦場に倒れ、深いトラウマに囚われていたウルフマン。

 ――今、両雄が並び立つ。

 その姿は、まるで時を越えて交わった戦友のようでもあり、
同じ炎を抱く“闘志”の具現でもあった。

「ウルフマンさん……凄い人だ。あなたもまた、正義超人の名を頂くに
相応しい人だった……」

 静かに悟飯がそう呟いた時だった。

『オオオオオオオオッ……』

 咆哮のような金属音と共に、先発隊として放たれていたヘイルメスの最後の一体が、
凄まじい速さで悟飯へと迫る。振りかぶられた剛腕が大地ごと悟飯を砕き割らんとする
勢いで振り下ろされた。

「悟飯!!」
「――!!」

 だが、その瞬間、悟飯の体に一気に蒼白い気が奔流した。
これまで、ビショップの策略によって抑え込まれていたアルティメットモードの力が
完全に解放される。

 大気が震え、地面がひび割れる。
視界を塗りつぶすような蒼の閃光。悟飯は一瞬にして“消えた”。

『!?』

 空を裂く音と共に、ヘイルメスが拳を振るった場所にはもう誰もいなかった。

「こっちだ」

 戦場の喧騒を突き抜けるように、冷ややかな声が飛ぶ。
気づけば、悟飯はヘイルメスの背後に立っていた。

「ウスノロ……」

 そこから始まる連撃は、まさに電光石火。
悟飯の拳が風を切り、鋼鉄の装甲を拳型に凹ませていく。

「はあああああああああああああああああああああああッ!!」

 怒涛の連打。右、左、斜め、下段、上段。あらゆる角度からの拳と蹴りが、
敵機を翻弄する。打撃の衝撃が一つ一つ、内側のコアに響き渡る。

「りゃあああああああッ!!」

 最後は垂れ下がった顎に向けての、豪快なハイキック。
閃光のごときその一撃が、ヘイルメスを空高く打ち上げた。
重力を忘れたかのように、機体は天へとのぼっていく。

「今です……ウルフマンさんッ!!」

 合図と共に、大地を蹴る二つの影があった。
ネプチューンマンとウルフマン。二つの魂が、今、共鳴する。

「ついて来れるか、ウルフマン?」
「誰に物を言っていやがる!」

 ウルフマンの過去。夢の超人タッグトーナメントで
完璧超人の先発隊であるケンダマンとスクリューキッドに敗れた。
そして、あの特異点でのクラッシュメンとの死闘の果ての敗北……辛く、苦い記憶……
だが、あの日の悔しさが、今の彼を作った。

(そう……敗北からの再起……我々完璧超人が目を背け、恐れ、いつしか失くしたもの……
ウルフマン、お前はそれを持っているのだ……)

 ネプチューンマンの言葉が、風と共に届く。
空気を切り裂く音が響く。二人の超人が一直線に、空中の標的へと突き進んだ。
片や銀、片や金の閃光。交差するその軌道が、まさに「CROSS」を描く。

 次の瞬間。

「行くぞッ! クロスッ!!」

 空が震えた。

「「ボンバーーーーーーーーッ!!!!」」

 完璧なる挟撃。ヘイルメスの首部が二本のラリアットに捻じ切られ、
重い衝撃が金属を悲鳴のように軋ませる。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 “バギィンッ!”


 その音を最後に、機体の内部から火花が弾け飛び、コアが暴走を始める。
光、風、熱が爆裂し、爆風が辺りを焦がした。

 数々のマスク超人たちを沈めてきたネプチューンマンとビッグ・ザ・武道の
伝説の必殺技―― 今、それをウルフマンが見事に再現し、共に炸裂させたのだ。

 無残に吹き飛ばされたヘイルメスのボディが力なく膝から崩れ落ち、
凄まじい炎と共に爆散する。衝撃で舞い上がった黒煙が、
まるでウルフマンの完全復活を告げる狼煙のように立ち上った。

「上出来だ、ウルフマン! よくぞぶっつけ本番でこの技を再現してみせた……!」
「ああ! ここ一番の大勝負を勝利で飾る……これぞ、漢ってもんだろぉがよ!!」

 二人の息は荒い。だが、その背筋は真っすぐだった。
肩を並べるその姿は、過去に屈しない超人の象徴だった。

 かつて“敗北”という名の業火に焼かれた男。
だが、いまこの瞬間、ウルフマンは再び“正義超人”として地に立っていた。
炎の中から蘇る、不死鳥が如く……英雄は、戦いで名を上げる……

 一方その頃。
冷たい電子音が鳴り響く司令室。
無数のモニターが光る中で、ビショップはじっと画面を見つめていた。

「ネプチューンマン、か……またしても不確定要素が……」

 唇の端を、僅かに歪める。
その瞳は、冷静でありながらも焦りの色を隠せていなかった。

「マグネットパワーの真髄を知る男……さて……」

 ゆっくりと身を起こし、次なる指示を端末に打ち込む。

「アルキメデス……君はどう動く?」

 その呟きは、ある“知恵者”の名を呼んでいた。
地上で17号とガンマ1号を相手取っているであろう、キャスター・アルキメデスの
戦いの行方を案じている。
そして、ユートピア・アイランド内部への潜入行動を敢行するプーアルの運命や如何に……

26人目

〈第一次魔界大戦:First wave〉

禍々しい赤紫が彼方まで広がる空。淀んだ大気が地を薄く覆いつくす大地。
それ等が入り混じって地獄めいた混沌が垣間見える、ここは暗黒魔界。

「これが、魔界。」
「想像通り、というには…少しばかり、上を行くな。」

そんな世界を一望できる、遠く離れた『法界』の上で浮かぶ聖輦船と、後続するアビダイン。
艦橋の窓から眼下に収めた祐介が、静かに息を吞む。

「人の意識が生み出す世界とは、根本から違うな…正しく人外の世界だ。」
「おぉ祐介、相変わらず難しい事を言うとるのぅ?」
「っと、すまない。いつもの癖でな…」

一人の世界へと飛びかけた祐介の意識を、キン肉マンの声掛けが戻す。
ハッとなって振り向いた祐介は、しかし次の瞬間には魔界の景色に心を奪われる。
メメントスに勝るとも劣らない、悪意と邪念の坩堝。
そんな光景だからだろうか。

「…斯様な世界模様という物を垣間見ると、どうにもな。」
「ハハ、まぁ思う存分やっておくのも良いんじゃない?」

祐介に、アビィは気楽に笑い掛ける。
『気にする事は無い』、そんな意を遠回しに含みつつ。

「多分、考えに耽る余裕も無くなるからね。」
「そう、だな。」

が、次に告げた言葉には一変して圧があった。
先程とは違う意図で息を呑む祐介と、緊張が張り詰める一行。
遠い陸地で轟いた落雷を睨みながら、祐介とテリーが口を開く。

「戦いは、避けられないか。」
「それでも行くしかない。調べられるだけ調べて、悪魔将軍達とも合流を_」

改めて意気込んだ、その時だった。

_ジリリリリリッ!
『レーダーに反応、人と同等サイズの飛行物体が複数接近。』
「へぇ、随分と反応が速い。」
『数、およそ50、60…尚も増加中。』

けたたましい警告ベルの音と共に上がる、J.A.S.T.I.S.の報告。
モニターに表示される、接近する無数の赤いマーカー。
その全てがバラバラに群れを成して、アビダインへと突撃してくる様子が分かる。
それらを一瞥したアビィが薄っすらと目を細め、次いで一行へと目を向けた。

「どうやら、歓迎会の準備は終わってたようだねぇ。」
「随分と物騒な出迎えだな。」
「だね、もてなしのお手並み拝見と行こうじゃないか。総員、甲板に出たまえ!」
「「応っ!!」」

アビィの号令に、テリー達が声を重ねて返す。
勢いそのままに次々とブリッジから駆け出す一行。
彼等を横目に、アビィは再びレーダーと睨めっこだ。

「さぁて、随分とお速い事で…最悪な事態じゃなきゃ良いけど。」

険しい顔つきと沈んだ独り言が、誰も居なくなった艦橋の空気を張り詰めさせる。
操縦桿を握る彼の手は、嫌に力んでいた。



「うっひゃあ~!すんげぇ数いんぞ!?」
「気を付けろ悟空。どいつもこいつも、嫌に気が強い…!」

驚嘆する悟空と、気を引き締めるピッコロ。
アビダインの甲板、即ち外へ出た彼等が目にしたのは、無数の人影…魔界の者達だった。
バンダナを巻いた鼻の大きな獣から、サングラスを掛けた狼男等々。
数だけでなく見た目も多彩な者共が、一様に目を吊り上げて、宙に佇み空を覆う。
その内の一体が、下劣な笑い声を上げながらアビダインの甲板へと降り立った。

「ヘッヘッヘ…コイツ等が噂の『賞金首』かぁ?」

ギロリと此方を見据える青肌の異形。
身は細いながらも筋骨隆々、腰には蝙蝠のような巨大な翼、更には鋭利な尻尾。
ニッと笑った顔が見上げれば、真白い八重歯が怪しく光る。
青い怪人という言葉の化身が如き様相をしたその男は、只ならぬ威圧感を醸し出していた。

「『鬼火のグラキア』が前に出たぞっ!」

グラキア。
そう呼ばれた男の周囲で、歓声が上がる。
どうやら彼が敵のリーダー格なのは、一行にも見て取れた。
威風に箔付けがされ、一同が険しい顔で身構える。

「ふん、下らん茶番だな。」

だが、ベジータは逆に前へ出た。

「ほう、テメェが一番手ってかぁ?」
「一番手も何も無い、俺一人で十分だ。」
「ハッ!コイツァ余程の馬鹿と見たな!」

ベジータの気だるげな返答に、グラキアが鼻で笑う。
狂相を満面に浮かべ、ニタリと高笑い。
が、対するベジータはまるで態度が変わらない。

「俺は戦闘民族サイヤ人の王子、ベジータだ。地獄への手土産に、覚えておくんだな。」
「ハッハァ!頭沸いてるみてぇな奴は面白れぇ!受けて立ぁってやぁ!!」

カチリ、とスイッチが入る。
高笑いを上げ、グラキアが矢の如く駆けた。
鋭利な腕に全身を乗せた、凄まじい突きの一閃がベジータへと飛ぶ。

_ゴォウッ!
「っ!」
「ベジータッ!?」

鈍い音が響く。
目を見開くベジータと、口元を歪めるグラキア。
挨拶代わりというには重く鋭い一撃は。

「_成程。」
「…アァ?」
「見掛け倒しでは無いようだな、貴様。」

しかし寸での所で、ベジータの腕に阻まれていた。
両手とは言え、力の入れにくい逆手でだ。
同時に、ベジータの顔付きと声色に圧が生まれる。

「カカロット、コイツは俺の獲物だ。手を出すなよ。」
「俺が獲物だぁ?ふざけた野郎だ…!」
「あ、ずりぃぞベジータッ!?オラだって…!」

悟空が抗議の声をあげるも、最早蚊帳の外。
くつくつと不気味に嗤うグラキアと、身構えるベジータ。

「ハァッ!」
「オォッラァァ!!」

次の瞬間、彼等は上空に舞い上がり、殴る蹴るの応酬が巻き起こる。
大気を裂かんばかりの肉弾音が立て続けに鳴り響き、二人の姿が瞬いて見えた。

「あぁー!ベジータの奴、一番歯ごたえある奴持って行きやがって…!」
「そっちばかり気にしている暇は無いぞ、悟空。」
「お?」

二人の応酬を見上げる悟空に、ピッコロが喝を飛ばす。
気取られている間に、他の敵もまた次々と甲板に降り立っている。
皆、一様に戦意を滾らせていた。

「ハッハァ!あんなもん見せられちゃ身体が疼くってもんだ!」
「…成程なぁ。あのグラキアっちゅう奴と同じ妙な気を、コイツ等から感じる。」
「あぁ、雑魚と侮れんぞ…お前達、全力で掛かれっ!」
「「応っ!」」

正義超人や心の怪盗団といった面々が、一斉に前へ出る。
同時に、魔界の者達も一歩踏み込み。

「_タァァーーッ!!!」

誰かの啖呵を皮切りに、戦いの火蓋か斬られた。
正面からぶつかる者、敵を軸に3次元戦闘を行う者、背中合わせで数を対処する者。
多種多様な戦闘を繰り広げていく。

「カーフ・ブランディング!」
「八艘飛び!」
「邪魔だ、邪魔だ、邪魔だぁ!!!」

一撃で複数人が倒れていく。
質ではCHが上だ。
しかし。

「随分つえぇな!俺達も混ぜろ!」
「クソ、新手の奴等が…!」
「今のもまだ捌けてねぇってのにっ!」

最初はいなかった後続が、次々と現れる。
更には。

「オイ、後ろの奴も『賞金首』じゃねぇか?」
「っ不味い!」

アビダイン後方の、聖輦船へ目を付けた者達が、そちらへと飛んでいく。
止めようにも、目の前の敵を片付けねば不可能…
事態は、混迷を極めていた。

「_クックック、これが魔界で育った神の実が齎す力か。面白い。」

そんな彼らを、悟空似の男が果実を片手に、遠巻きに見物していた。

27人目

「巨・影・刃・槍 鉄神を穿つ四刃」

 ユートピア・アイランド、暗黒魔界……そして、特異点。
ミケーネ帝国・ジオン族・竜王軍・完璧無量大数軍。
結託と造反が入り混じる同盟関係は、CROSS HEROESとカルデアを苦しめる。

 ――特異点・リビルドベース防衛線。

 蒸気が渦巻く戦場の一角。黒鉄の装甲に覆われたミケーネス指揮官が、
重厚な戦車の駆動音と共にクラス・アサシン:岡田以蔵を見下ろしていた。

「貴様……その程度の、ただの刀一本で我らに挑むつもりか?」
「あン?」

 声は人工のエフェクトを通した重低音。だがその言葉の端々に、
露骨な侮蔑と優越が混じっていた。

「――滑稽だな。時代遅れの武士ごっこか? 骨董品が何をする? はっはっはっは……」
「……」

 以蔵は無言だった。だらりと前屈気味の構え。充血した眼を真っ直ぐに向けている。
ミケーネス指揮官は、ガトリング砲を展開しながら続ける。

「刀一本、装甲も無し。貴様に勝ち目などない。この戦車部隊を前に刀など
何の役に……」

 だが、以蔵が右手の刀をわずかに傾けた瞬間、時すら止まったような静寂が広がる。

「おまん、わしを……笑ろうたな?」

 次の瞬間、以蔵の脚が地を蹴った。裂ける風、燃える瞳、剣閃が翔ぶ――!

「なっ……」
「おまんらみたぁな、鉄クズぐらいッ!」

 瞬きの間に指揮官の背後に回り込み、突き刺した刀を力任せに突き上げた。

「ぎゃああああああッ……」
「刀一本あったら足りるがやき…⋯わしの動きも見えんかったがじゃろうが、のろまが。 
わしゃあ、無能な癖に粋がる奴がいっとう好かんのじゃ」

 八つ裂きになって、血のようなオイルのような黒い液体をぶち撒けながら
戦車から転がり落ちていくミケーネス。

「た、隊長ッ……!」

 人斬り以蔵。幕末の時代に暗躍した天才剣士。依頼された標的は勿論の事、
自分を欺く者、利用する者、見下す者、嘲笑う者。以蔵はそんな輩を例外なく
斬り捨ててきた。

「……くっさいのう……血の匂いかと思うたら、なんじゃこの油くさい臭いは……!
鼻が曲がりそうな匂いや……まっこと、気色の悪い…」
「う、うう……!!」

「人間を舐め腐ったそのアホ面ァ! まとめてぶった斬ってやらああ!!」

 以蔵の声は怒気と苛立ちに満ちていた。戦慄するミケーネス部隊の頭上目掛けて
飛び込み、間髪入れずの連撃。次々に突き刺さる刃が、機械の節々をえぐり、
関節を切り裂く。鉄板の間から火花と油が噴き出す。

「げええッ」
「ぎゃああああッ……」

「……わ、私は分析AIを持つ統括型だぞ……我が頭脳は貴様の数千倍――」
「だから何ぜよ!!」

 怒号。踏み込み。渾身の一閃。振り上げた刀が、機械の頭部を斜めに裂いた。
回路が焼け、視覚センサーが散る。

「頭がええから、何じゃ。斬ればどいつもこいつも生ゴミと変わらんがじゃ」

 倒れ込むミケーネス兵。最後の火花が散り、やがて動かなくなる。

「刀一本で挑む、じゃったか? ご覧の通りぜよ」

 そして、誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。

「わしゃァ――人斬りじゃき。手足がついちょったら、人間やろうが、からくりやろうが、
かまん。まとめてバラしてぶった斬ったるきにのう!」

「いっくよー♪」

 ――その瞬間、空が陰った。

「あァ?」

 戦場に巨影が差し込む。クラス:バーサーカー、ポール・バニヤンが――
無警告で巨大化していた。

「な……!」

 戦闘獣たちをも上回る全長30メートルを超える木こりの巨娘が、
笑顔のまま両手に伐採用の斧を構え、ぴょん、と跳ねる。

「ハイパー・お片づけモードっ☆」
「ちょ、待て待て待て待てッ!!!」

 以蔵の絶叫が虚空に響いたが――遅かった。ドゴォォォォォン!!!
地面を掘り返しながらフルスイングした斧が、戦車部隊10両をまとめて吹き飛ばした。
熱と圧力で爆発する砲塔。宙を舞うミケーネスの断片。
そして、間違いなくその巻き添えになった岡田以蔵の――

「なんじゃあああああああ!!!!」

 という魂の悲鳴だけが、よく通る。吹き飛ばされた以蔵は、ぐるぐる回転しながら
森の中へと突っ込み、最後に茂みの中から拳だけを突き出す。

「――まだ死んどらんき……あとで絶対しばく、あのガキ……ッ!!」
「えへへっ♪  お掃除、大成功~♪」

 無垢な笑顔でポーズを決める巨人バニヤン。
その背後では、クー・フーリンが槍を地面に突き立てながら頭を抱えた。

「……あいつ、敵も味方もお構いなしかよ……これだからバーサーカーって奴ぁよ」
『おのれ、何処までも我らミケーネに盾突きおって……!』

 地を揺るがす重低音。ミケーネ神だ。

『貴様らも、我ら機械神の贄となるがいい!』

 ミケーネ神の口腔部が開き、光線砲が火を吹く。
バニヤンも倒れ込む。

「ひゃあああ~!」

 一撃で地面が融解し、光線にかすめられたポール・バニヤンが大の字で吹き飛び、
巨体が横転する。地面が大きく波打ち、煙と熱が視界を覆う。

「うおっと! やばいやばい、巻き込まれんようにしねぇと!」

 クラス・ランサー:クー・フーリンは跳ねるように回避し、煙の中で槍を回した。
その隣、黒衣の女が悠然と歩を進める。槍を地に突き、鋭い目でミケーネ神を睨みつける。

「ふん、“神”を名乗るか。ならば、試してやろう」

 スカサハ。死と戦いの国、影の国の女王。その声は冷えた刃のように、
空間すら緊張させた。

「せっかくの共闘だ。手合わせの代わりに、ぶっ壊してやるか、師匠!」
「ふふ……久しぶりだな、共に戦場に立つのは」

 ミケーネ神の肩部が開き、ミサイルポッドが唸る。数十発の追尾弾が、熱波と共に
師弟に迫る!

「来やがったなッ!」

 クー・フーリンは地を蹴って斜めに飛ぶ。
旋回する槍が回転しながらミサイルを叩き落とす。爆風が頬をかすめるが、
彼はその中で笑った。

 その隙に、スカサハが地を這うようなステップで接近。
その動きは、機械知性にはありえない予測外挙動――そして、突き上げる魔槍!
魔力の奔流が紫電をまとい、ミケーネ神の腹部装甲を貫いた。
光の爆発。装甲が裂け、内部の神経回路が露出する。

『ぐぅおおおおおおッ……ま、まだまだ……!!』

 再び砲門が開く。収束光線のチャージだ。
クー・フーリンは瞬時に駆け出した。姿勢を低くし、直線ではなく円弧を描くように滑る。

「師匠、やるぞ!」
「一丁前に指図か。千年早い」

 二人の槍が静かに、しかし確実に力を溜め始める。
地に走る魔術式、空を裂く雷光――霊基が呼応し、二つの“死”が交わる瞬間が迫る。

「ルーン魔術、極限展開。魔力、解放」
「魔槍・共鳴構成。双槍共殺――」

「刺し穿つ死棘の槍【ゲイ・ボルク】ッ!!」
「貫き穿つ死翔の槍【ゲイ・ボルク・オルタナティブ】ッ!!」

 放たれた二本の槍――一つは運命を逆流させて心臓を貫く死の予言。
一つは肉体と魂を裂く異界の断絶。二筋の紅雷がX字の軌跡を描いて
ミケーネ神の本体である胸部に埋め込まれた人面を撃ち抜く!

『ぐうぅぉああああああッ……!!』
「凡そ私に殺せぬものなど無い」

28人目

「いずれ相容れぬもの」

 夢を見た。
 ■が敗北し、死んだ後の夢だ。

「なぜだ……キラは絶対……なぜ負ける……!!」

 いくら相手が犯罪者だからと言って、殺していいわけがない。
 そう告げられ、誰にも知られぬまま突きつけられた「死刑」という判決。
 こうして、牢獄内刑死の時を待ちながら、うわごとのように、そんなことを言っていたと思う。

 冷静に考えてみると、勝つチャンスや方法はいくらでもあった。
 武闘派のキラ崇拝者を数名送り込み状況をカオス化させ、その間にカミを連れて逃げる。
 あらかじめ本物のノートを切り離し、そっちに書き込んでおく。
 カミの問いかけに答えることなく名前を憶えてから帰り、後でノートに書き込む。

 その発想に至らなかった己の馬鹿を呪いたい。
 だからこそ……その事実が毎夜毎夜夢の中で私を責める。
 悪夢から離れることなく、永遠に。

『あと少しだった、あと少しで勝てた筈だった「そうだとも ■■のせいだ」』
『メロの行動は正しい「そんなわけがない 余計なことをしやがって」。お前のせいだ「違う 私は悪くない」』
『お前こそが余計「なにがだ」なことをしなければ「黙れ」、こうはならなか「うるさい……」った』
『お前は誰も守れない「違う!」 キラも「言うな!!」正「いやだ……!」義も、自分の身さ「黙れ、黙れ!だまれだまれだまれだまれダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレ……!!」』

「あああああああああああああああああああああ!!!?」
 そうして、目が覚める。
 寒い独房で、現実に引き戻される。
「うるさいぞ、最後の日くらい静かにしてろ!」
 看守がそんなことを言ってた。
 なるほど、今日が最期の日。今日私は、忌み嫌った悪党のようにそっ首を吊り上げて地獄に落ちる。
 もはや避けられぬ死。諦観と絶望が心に去来する。

「魅上照、出ろ。」
「はい……。」
 ぎぃ、と鉄格子の付いた扉が開く。
 いよいよ、死の舞台に上がる時が来てしまった。
 夢の中の聲の通り、何一つ守れなかった。
 キラも正義も、そして自分の身さえも。だからこうして死ぬ。
 後悔と失意が、己の首を締め付けるように。

 はずだった。
「……え?」
「魅上様、お待ちしておりました。」
 特殊部隊もかくやな服を着た者たちが私の目の前で膝をつき、忠を誓っていた。
「死刑になるはずでは、ないのか?」
「まさか。我々キラ教団はこの時より、貴方の『釈放』のために準備を進めてまいりました。全ては正しい世界のために、キラの真の後継者であるあなたは生きなければならない。」
 後で聞いた話だが、彼ら「キラ教団」はどこかで私たちの敗北と私の投獄の話を聞き、下準備を進めていた。
 私が投獄されていた拘置所の看守の一人が熱心なキラ崇拝者であり、彼に多額の賄賂を渡すのを条件に私の『釈放』を幇助、その上で今日死ぬはずだった死刑囚をあらかじめ拉致し私そっくりに整形。独房に戻したという。
「今ごろ、彼は犠牲となり尊き新世界の礎となっているころでしょう。彼もまた我らが神、キラの正義を信じ悪を滅菌した死刑囚です。」

「この腐った世界に復讐し、新世界を今一度創世するために、どうか我らをお導きください……!」



「……夢、か。」
 仮眠から覚め、私は今独房ではなく存在しなかった城にいると自覚する。

「キラ、あと少しです。あと少しでアナタのノゾンダシンセカイが……!」



 ユートピア・アイランドの外周を、残り少ない機雷の間を縫うように戦士が駆け回る。

「『アルキメディアン・リフレクション』ッ!」
 放たれる殺戮技巧が一つ。
 数枚の反射鏡が、ガンマたちと機雷群を囲うように配置される。
 アルキメデス本人はその手からレーザー光線を鏡に向けて放ち、反射させる。

 跳ね返ったレーザーは一ミリも違えることなく完璧に機雷を貫く。
 貫かれた機雷は爆裂し、周囲にエネルギーの奔流をフレシェット爆弾がごとくばらまく。

「来るかっ!」
「よけろ!」
 ガンマたちは迫る光線を回避する。
 だが、光線は別の反射鏡に接触し跳ね返り、また彼らの下へと迫る。

「くそ、かくなる上は。」
『……アルキメデス、何を手間取っている。早く捕えるかこっちに誘導するなりしろ!』
 ビショップの説教に聞く耳を貸さず、当人は沈黙し、ただ魔力をためている。
 その目に、決意と怒りを宿らせて。

『アルキメデス、この魔力の集中量はなんだ?答えろ!』
「――――許せマスター、貴方の命になら従うつもりではあったが、もはや連中の捕獲なんてまどろっこしいことは不可能。連中は破壊するほかない!」
『何を言っている。まさか。』
「―――宝具を切らせてもらう。」
 アルキメデスが、眼前の人造人間を「殺すべき敵」と認めた瞬間だった。

『おい、アルキメデス!我がサーヴァント!それはやめろ!その手札は来たるべき決戦の時に……!』
「貴様は私に死ねというのか?」
『!?』
 ビショップは何一つ理解していなかった。人類を裏切ったサーヴァントとて元をたどれは心を持った人間。明確な知性、人格と感情を有していることを。
 相互間の関係性を良好にしなければ、戦闘において致命的な齟齬、そして破滅をもたらす。
 一見、良好に見えるはずのビショップとアルキメデス。両者間とて「小指が赤い糸でつながっている程に仲がいい」わけじゃあない。いかに仲のいいカップルでも些細なことで破局に至るように、ちょっとした思想の相容れなさ、齟齬の発生で致命的な破綻をもたらしてしまう。
 その点をビショップは考慮していなかった。
 言ってしまえば、彼は英霊アルキメデスを―――優秀で有能な人材にして教団にとって都合のいい兵器、そして「英霊」の実験材料(サンプルデータ)としか考えていなかったのだ。

「安心しろ、敵はこの島の”外側”だ。ここに影響は何もない。何も、な。」

29人目

〈第一次魔界大戦:Return of the "T"〉

「吹っ飛びなっ!」
「うおぉっ…!!?」

二つあるアビダイン甲板の片側。
敵陣の真っ只中で、カナディアンマンが相手を掴みジャイアントスイング。
雄たけびを上げながら回転し、周囲の敵を薙ぎ払い。

「たりゃーーーっ!!」
『がぁーーーっ!!?』

敵陣に投げつけ、叩き付ける。
投げられた者は勿論、ぶつかった相手もまた同様に苦悶の声を上げて倒れる。
片腕が義手とは思えない程の豪快な戦いぶりに、しかし。

「_ヒィーハハハァ!!歯ごたえのありそうな奴だぜぇ!!」
「…ちぃ、引く気はねぇってか!」

魔界の者達は戦意を剥き出しにして、襲い掛かる。
異様な血の気の多さに顔を顰めながらも、カナディアンマンは冷静に立ち周る。

「どうしたどうした、それじゃ何人来ても当たらねぇぜ?」
「クソ、コイツちょこまかと…!」
「お前等じゃ力不足だ、ったく…」

布をはためかせて闘牛を躍らせる様に、攻撃がまるで当たらない。
ビッグボディとの修行の成果と、嘗ての『もう一人の己』との闘いに比べれば、この程度はベイビー・サブミッション(赤子の手をひねるような物)だ。
そのまま稼いだ時間で回転させた義手が、唸りを上げ…

_ジジジッ
「コイツでも喰らってなッ!」
_バチィッ!
『ヒギャァッ!!?』

甲高く鳴る雷鳴。
義手から流れた高圧電流が、纏めて数体を感電させ気絶に追いやったのだ。
周囲から、どよめきが上がる。

「き、気絶してる…雷を操る悪魔超人か!?」
「誰が悪魔超人だッ!?オイッ!!」
「か、構わねぇ!囲んでやっちまえっ!!」
「あっ、テメェら訂正しやが…!?」

科学より魔術や能力が比較的発達してる魔界では、そう解釈もされよう。
心外な言われ様に上げた怒鳴り声は、しかし群がる敵の物音に呑まれた。
そう連発は出来ない義手を見て、カナディアンマンは歯噛みする。

「クソッ、数が手間だな…」
_ズガァン!!!

そうぼやいた時、けたたましい音と共に豪快に敵が吹っ飛ぶ。
声がした包囲網の一角に視線を向ければ、其処には白銀のアメフト服を着た超人_

「タァーーーーッ!!!」
「うぉ!?スペシャルマン、良いタイミングだぜ!」

薙ぎ倒された敵の中心をとおって、彼の相棒が駆け付けて来た。
カナディアンマンとスペシャルマン、ビッグボンバーズの揃い踏みだ。
こうなれば、二人に隙は無い。

「へへ、どうも。にしても数が多いね。」
「それもあるが…」

背中合わせで歓喜するも、束の間の出来事。
最初にカナディアンマンがぶん投げたり、タックルを食らって倒れていた物達が、よろめきながらも立ち上がろうとしている。
カナディアンマンの顔に、困惑の色が浮かんだ。

「うっ…イテテ、畜生め!」
「あれだけまともに食らって『痛かった』位なタフさ…普通じゃねぇな。」

彼等の様相が、どうにも異質だったからだ。
動き自体は自分達より明らかに格下だが、しかし攻撃には大して堪えた様子が無い。
痛みは感じているが、ダメージにはなっていない…そんな印象を受けた。

「手応えは確かにあったのに、ああもすぐ立ち上がるなんて…」
「これじゃあ防戦一方…うん?」
_キィーーン…!

各々の所感を話す最中、突如聞こえた風切り音。
二人がそちらを見れば、上空から敵陣へと制御を失って飛来する敵の姿。

『うわっなん_ぎゃあぁぁ!!?』
_ドォーーーン!!
「わぁ、ボウリングみたいになった。」

そのまま、スペシャルマンが駆け付けた時の再現が如く幾人も巻き込んで吹っ飛んだ。
少々ギャグめいた惨状に、若干苦い顔をしながらつい他人事めいた言葉を漏らすスペシャルマン。
そのまま大元を目線で辿ってみれば、上空から降りてくる悟空の姿があった。

「よっと。おぅ、カナディアンマンにスペシャルマンか。わりぃ、邪魔したか?」

気軽に声掛けする悟空とは裏腹に、周囲に満ちる張り詰めた空気。
CHの戦士が3人集まれば、その布陣は盤石だ。
戦いに身を置いているなら感じ取れる威圧感に魔界の者達は身を震わせ、様子見に入る。

「あいや、囲まれてたから寧ろ助かったぜ、悟空。」
「そいつは良かった。わりぃな、コイツ等妙に硬てぇから、吹っ飛ばすしか無くてよぉ。」
「悟空でも、タフに感じるのか。やっぱりコイツ等、普通の状態じゃねぇな。」

カナディアンマンの中で、疑念が確信に変わる。
その言葉に、悟空もどこか合点が行った様に口を開く。

「…超人のオメェ達でもそう思うっちゅー事は、やっぱりそうか。」
「やっぱり?」
「昔っから修行してっからな…あんだけタフなら、普通は戦い方もつえぇ筈なんだっけどよ…コイツ等からは、どうにも修行した強さっちゅーのが感じられねぇんだ。」

そう答える悟空の声色は、珍しく確信に満ちていた。
彼自身、幼い頃から強敵と出会っては修行をし、己を高めて打ち勝ってきた。
鍛錬を重ね、ピッコロやベジータというライバルとも出会い、死すらも超え、超サイヤ人3という極地にさえ辿り着いた。
正しく王道の戦士。
亀仙流の教えたる『よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む』を忠実に守り、今日に至ったのだ。
そんな彼に言わせれば、頑強さとは本来『実力に裏打ちされた物』なのだが…

「それにパワーも使いこなせてねぇみてぇでよ、奇妙過ぎねぇか?」
「だよな、まるでドーピングでもやったみたいだ…」

思い当たった可能性を口にし、眉を顰めるカナディアンマン。
ドーピング…薬物等を使用して筋力を増強したり、本来の実力以上の力を無理に引き出す方法の総称。
公式の大会などでは軒並み禁止とされる外法だ。

「ただのドーピングじゃねぇな、ダメージも少ねぇみてぇだしよ。」
「あぁ、立ち上がれるのは異常だ。」

悟空とカナディアンマンの言う通り、敵はダメージすらさほどない様子だ。
ただ痛みを無視するドーピングなら幾らかはある、しかしダメージがあるなら動けないのに変わりは無い。
その上碌な受け身も無かった。
にも拘わらず、動く。

「この感じ、どっかで覚えがあんぞ…」

ふと、悟空が呟く。
この様な手法に対して、何か頭に引っ掛かる物があったからだ。
その呟きに、二人は首を傾げる。

「覚えが?」
「あぁ。でもアイツは_」

もういない。
そう語り続けようとした矢先だった。

「お呼びかね?カカロット。」

_場が、張り詰める。

『ッその声!』

聞こえてきた、男の声。
唐突に割って入ってきた声に、3人が静かに驚愕を露わにする。
その声の持ち主に、確かに覚えがあったからだ。

「_オメェ、ベジータ達に負けたんじゃ無かったか?」
「クックック…酷い言われ様だな。」

…ただし、死んだ筈の男として。

「だが、漸く分かったぜ、コイツ等が妙に硬ぇ訳が。」
「あぁ、そうさ。最後の種で作り上げたんだ…最強の神精樹をな。」
「だろうな、オメェにはそれしかねぇ。だからベジータ達に負けた後、魔界の誰かに拾われたんだろ?」

「…ご名答だ。つくづく腹が立つ男だな、カカロット。」
「やっぱりな、ターレス。」

男…ターレスは、嫌に不気味な笑みを浮かべていた。

30人目

「Epilogue 猛るは旋風の六槍」

「やはり、見違えたように変わっていますか。覚悟はしていましたが……。」
 聖輦船内部で座禅を組む白蓮は、その窓から変わり果ててしまった第二の故郷、魔界を憂いの眼で見ていた。
 確かに魔界は今も昔も危険な地だ。
 字に書けば「魔」が救う世「界」、理想郷なわけがない。
 それがなんだ、何なんだこれは。

 絶望郷(ディストピア)以上の地獄――――!

 足元を覗けば燃え盛る炎!
 弱肉強食を極めたような戦乱地獄!
 弱き者は打ちのめされ骸と化し、強き者はさらなる強者に叩き潰される!
 これを地獄と言わず何というべきか!
「いざこうして目の当たりにすると、哀しいものですね……。」

「―――ザルディン。気づいたか?」
 甲板の上のサイクスが何かに気づく。
「分かっている。思った以上に闇の瘴気が強い、俺たちもこの環境は活かせるか。」
 ―――彼等は、強き心と闇より生まれしノーバディ。
 ならばこの暗黒魔界の闇の瘴気も、多少は活かせるというもの。
 そして。

「来たな。」
 アビダイン襲撃部隊とは別に、迫りくる翼の魔族ども。
 魔槍を持ち、韋駄天の如く赫空を駆け抜け、黒き翼を生やし嗤うもの。
 その悦楽と残虐の魂故に妖怪の山より追放され、魔界へと至った天狗。―――否、天狗魔族が聖輦船のサイクスとザルディンに迫る。

「ヒャッハー!鏖殺だぜオイッ!」
「船の内外から破壊しつくしてやるぜぇええ!!」
「誰一人として、生きて帰すもんかよォオオオ―――――ッッ!」
 下衆な笑いを浮かべながら迫り、天狗魔族がザルディンとサイクスに迫る。
 そのうちリーダー格の天狗魔族が、手に持つ禍き魔槍をザルディンの心臓部に目掛け貫徹せんと音速のスピードで突貫する。
 しかし彼は動じることなく、返す刀で六槍の一つを天狗の心臓に向けて放ち、魔槍を残る五本の槍ではじき返す。
「なかなかやるなぁおっさん!どうした、撃ってこい!」
「そうか、そんなに槍が欲しいか!」
 旋風交じりの連撃。
 飛び交う天狗を瞬く間に―――串刺しにせず回避される。
 だが、放ったのはあくまでも一本。
 一本の投擲で殺せるような相手ではないことくらいザルディンは理解している。

「はッ!槍投げ程度で俺を殺せるとでも!?」
「そうか、ならばもっとくれてやる!」
 天狗魔族の超高速移動、ザルディンの槍はさらなる風を纏いうなる。
 一本がダメなら二本、二本がダメなら三本と次々に槍を投げつけ、まるで追尾ミサイルのように敵を追跡する。
「芸のねぇ野郎だ!槍投げごときでこの俺様は……ッ!?」
 煽りたてるような物言いで聖輦船に接近する、リーダー格の天狗魔族。
「芸のない、だと?」
 吹きすさぶ突風。
 追尾していたはずの槍のうち三本が、軌道と挙動を変え扇風機の羽根のような形態に変化。そのまま斬撃を伴う突風を放ち天狗魔族を撃ち落とさんとする!
「聞こえんなぁ、どうも風が強くて。」
「いうぜもみあげ野郎!―――俺に構うな!やっちまえ!」
 その一斉と共に、隠れ潜んでいた天狗魔族が二人を襲う。
「!」
「よそ見してんじゃねぇ!このまま焼鳥にしてやる!」
「軟骨がうめーんだよ軟骨がァ!」

「月よ照らせ!」
 サイクスの持つクレイモアに、魔力を込める。
 その一撃で―――空を裂き、天狗魔族を吹き飛ばす!
「ぎぃいい!!」
「ふん、低級の魔族どもが。後ろは任せろ。」
 同士サイクスに背を預け、そちらを振り向こうとしたとき。
「さっきからよそ見してんじゃねーぞ、この生け好かねえタコ野郎がぁああああ!!」
「よそ見?何を言っている。」
 その瞬間、飛び散っていたはずの六槍がリーダー格の天狗魔族の肉体を一斉に貫く。
 天狗魔族の濁りつつある脳内は、理解を拒んだ。
 ―――『なぜ』という問いに埋め尽くされ、ついには堕ちる。
「堕ちろ、何処までもな。」
 ザルディンは諦めて背を向けたわけじゃなかった。
 初めから勝利を確信したから、背を向ける余裕を見せた。
 背を向け油断させれば、隠しておいた槍を確実に貫けると信じた。
「が、がああああぁぁぁ……。」
 六本の槍全てに突き刺されながら、天狗型魔族はまるで撃ち落とされた鳥のように暗黒魔界の大地に叩きつけられた。
 狩人、ザルディンはその手に槍を戻し、先の様子をただ黙々と見届けるのみ。
「さて……この先は少々手こずりそうだな。」
 この先に、何かがいる。
 先の天狗魔族なんかとは、比べ物にならない何かが。